求める戦い、求めぬ戦い 七
「不毛の地といっても、それは鬼の念がつくりだしたもの」
香澄はそうささやく。
源龍は途端に目つき鋭く、岩盤に降り立つ。
「来てるのか」
打龍鞭をぶうんとうならせる。
「ちょうどいい、むしゃくしゃしてたんだ!」
(まどろっこしい真似しやがって。やっとこいつを、思う存分、鬼にぶつけられるぜ)
と、源龍は闘志をみなぎらせる。
「来たか!」
と、曇天の空から響く声。オロンだった。宙に浮いて、腕を組んで、一同を見下ろしている。
その姿ははっきりと見える、実体だった。
「余計な真似などせねば、このような、不毛の地で死なずに済んだものを!」
と、あからさまな嘲笑を向ける。
「人海の国の人たちはどうした!?」
結果はわかっているはずなのだが、貴志は問わずにはいられなかった。
その問いを受け、待ってましたと言わんがばかりに、会心の笑みを浮かべるオロンだった。
「食った。通心紙でも見ることが出来るであろう」
言われてオロンは通心紙を懐から出して、見てみれば……。
「ッう……」
思わず目を背けた。コヒョも目を背け。マリーは、耐えられまいと、はじめから見ずにいた。
香澄は目を見開いて、しっかと眺め。貴志と羅彩女は眉をしかめ目を背けた。
「だめだ……」
リオンは力なく通心紙に映すのをやめ、ふところにしまった。
オロンの言う通り、鬼が人を食う凄惨な光景が通心紙に映し出されていたのだ。
赤い血を牙の生えた口から滴らせて、何やら肉を食らい。美味い、美味いと舌鼓を打つ。その一方で、ある鬼は金砕棒を振るい、ある鬼の頭を砕いて。奪い取った肉を頬張っていた。他の鬼は知らん顔で咎める様子もない。
そんな血まみれの光景。
欲のために仲間すら犠牲にして奪う。それを当たり前だと思う徹底した弱肉強食の、鬼の世界。
「オロン、そんな……。こんなことを、取り返しのつかないことをしたら、もう世界樹の世界に、みんなと一緒にいられないわ」
「もとよりそんなつもりなどないわ!」
マリーの悲しみの言葉を蹴飛ばすような冷たさで、オロンは叫んだ。
「次はお前たちを食ってやろう。鬼どもはまだ食い足りぬゆえ、凄まじい争奪戦になるであろうな」
「けっ、言ってろ!」
源龍は目つき鋭くオロンを睨み据える。そのそばに、香澄や貴志、羅彩女が降り立つ。
そうこうするうちに、鬼の集団が迫ってくるのが見えてくる。
にわかに風が出てきて、曇天の空に浮かぶ雲が早く流れてゆく。
「やれ、やつらを食ってしまえ!」
オロンは絶叫する。
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