求める戦い、求めぬ戦い 三
しかし香澄たち世界樹の面々はそうではなかった。
「この鬼たちは……、いらなくなった鬼たち」
「なんだって?」
源龍たち四人は香澄の言葉を耳にし、意味が分からなかった。
「鬼にも強い者、弱い者があるわ。その中の、弱く役立たずとみなされた鬼を私たちに処分させたのね」
「なんだそりゃあ」
「もし勝てば仲間と認めるとか言って、行かせて」
「けったくそわりいもんだな」
勝利の喜びなどなく、苛立ちをあらわにして源龍は打龍鞭をぶうんと空振りさせる。
「鬼には仲間を思う気持ちなんてないからね。食い分もなるべく多く取りたいし。だから、鬼同士で競争させて、役立たずは捨てられるんだ」
「間引きか」
リオンの言葉に、貴志は憮然と応える。役立たずの鬼の間引きを手伝わされた。そう思うと、得も言われぬ不快感が胸に渦巻くのだった。
「しかし頭が悪いにもほどがあるぜ。そんな冷てえ集まりでも、てめえがどうなるかわからねえで、抜けられねえなんてな」
「だから、鬼なんだよねえ……」
コヒョもなんともいえぬ表情で源龍に応える。
「ん、食い分?」
貴志ははっとする。
「まさか、さらった人たちを……」
「うん、かもね」
貴志とリオンのそんなやりとりのそばで、マリーは顔を真っ青にさせる。
「人を食うのか?」
源龍はこともなげに言うが。羅彩女は忌々しく、
「やだねえ」
と吐き捨てる。
はっと、香澄は七星剣を鞘に納め。急ぎ船内の部屋に駆けたかと思えば、人海の国の物語を持ってきた。
「そうか、本も一緒にか」
貴志もはっとして言う。
「大変なことになってるわ」
香澄にしては珍しく、深く憂える面持ちだった。その白面から白さすらなくなりそうな気もするほどに。
なんだと思いつつ、香澄の手にある本にみんな注目する。
香澄は本をみんなに見えるように持ち、広げてみる。
「……!!」
頁には、赤々と、まるで血を墨にして描いたように、『怨』の字が書きなぐられていた。
「なんだこれは……!」
一同の中で一番豪胆なはずの源龍でさえ、ひどく眉をしかめ、赤々とした『怨』の字を見やった。
源龍は字が読めないから『怨』の字は知らないものの、その禍々しさはしっかり感じた。横の羅彩女はいくらか字が読めるので、その字の意味を教えて。源龍は、
「ううむ」
と唸る。
マリーはたまらず顔を背け、少し離れて。気遣う貴志とリオン、コヒョがそばにいてやる。
「おい、こりゃあ……」
源龍はゆっくり丁寧に本に触れ、頁をめくるが。どこを見ても、赤々とした『怨』の字ばかりだ。
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