7 号泣してみよう 1
一日の流れは、毎日ほとんど変わらない。
朝目覚めて食事をした後は、家事をする父の邪魔をしないように、一人で積み木遊び。
積み木の種類も多くなくすぐに飽きてしまいそうなものだけど、これはこれで今後に向けて役に立つはず、と黙々と手を動かす。
当面の目標は言葉を覚えることと身体を思うように動かせるようにすることで、この遊びの中で手の力や器用さが身につけられたら、と思うのだ。
いろいろ奮闘努力の末、ようやく何とか寝返りとお座りはできるようになった、という現状だけど。それだってたびたび思うに任せず失敗に終わる、という体たらくだ。
とにかくも辛抱強く、努力を続けるしかない。
この積み木遊びもその一環、と集中する。
それでもやっぱり赤ん坊の身体の情けなさ、すぐに空腹と眠気が何処やらから降りてくる。
そうした不興の訴え何種類かについて、声や動作を区別して伝える試みを続けた結果、いくつかはかなり父に理解されるようになってきていた。
「わうわう、わあーー」
それ用の発声をして、胸から腹を撫でてみせる。空腹を訴えるしるしとして、ここのところ父に伝わるようになっているはずだ。
思った通り、加熱して冷ましたヤギ乳が用意される。
――成功、成功。
父の大きな膝に載せられ、食事をさせてもらう。このところはすっかり慣れて、何とも落ち着き幸福なひと時だ。
満腹すると、積み木遊びに戻る。
こうして身体を動かしているうち、いつの間にかお昼寝に入っているのが常だけど。
この日は、変わった出来事があった。
ドンドンと賑やかに戸が叩かれ、外から開けられる。
父より若いだろうかと思われる男二人が、そこから顔を覗かせる。
見覚えはない。と言うより、意識がはっきりしてから父以外の人間を見るのは初めてだ。もしかすると記憶を持つそれ以前に、見かけたことくらいはあるのかもしれないけど。
「××××」
「××××、××××!」
男たちの口から出ているのは、何らかの挨拶か。
父からの返しがやや強くなっているのは、「子どもが驚くだろう、もっと静かにしろ!」とでも言っているのかもしれない。
二人は、恐縮っぽい顔で頭をかいている。
そんなやりとりの後、三人は土間で作業を始めた。木の枝なんかで、何か作っているらしい。
残念ながらこちらの視点が低くて、大人たちの手元がよく見えない。
興味を持っても仕方ない、ということで積み木に目を戻す。
そうしているうち、意識が消えていた。
いつものように昼寝に入り、父が寝床に運んでくれたのだと思う。
目が覚めると夕方で、客たちはもういなかった。
父だけが残り、ときどきしているように愛用の大剣を持ち上げて熱心に手入れの最中らしかった。
そんな男たちの訪問は恒例になったらしく、三日ほど続いた。
一緒に土間で何かを作っていたり、外に出て家の前で何か活動をしていたりするようだ。
ちらり手に持つものが見えたところでは、どうも製作物は弓矢のようだ。とすると、外でその試射をしているのだろうか。
家の前からは、時おり大きな喚声が聞こえてくる。屋内では赤ん坊を憚って抑えていた声を、思い切り解放しているのかもしれない。
そんな新しい習慣を過ごして四日目。朝食の後あたしは父に抱き上げられ、厳重に毛皮で身をくるまれた。
どうも、外に出るようだ。
この意識に目覚めて、初めてのことだ。
父も毛皮などを着込み、大剣を腰に、弓を手に持っている。背中にも何やら荷を担いだようだ。
そうしてまた抱き上げられ。
めでたくあたしは、外に連れ出された。
陽が、眩しい。
地面に、雪が融けかけているようだ。
頬に、風が冷たい。
父とともに向いた方向に、いくつか平屋石造りの家がぽつぽつ見えている。ここが小さな村落らしいと、初めて認識する。
大股で歩き、父はその一軒に入った。
「××××」
「××××」
中に向けて、朴訥な声をかける。
それに、明るい声が返された。
そこそこ広い一部屋に毛皮が敷かれ、女の人が二人と子どもが五人、とりどりに座っている。
――何の集まりやん?
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