第17話 王様ゲームで破滅の予感!
「師匠~、肉焼けたっすよ~」
「こらこら、ちゃんと野菜も食べさせないとよ?」
「あはっ、そうだったっす。さすが天川先輩は気が利くっすね~」
夏の八王子の陽射しは強い。だが、自然に囲まれたこの土地はバーベキューをするのには持ってこいだ。
寮のある山を下りて、ほどよい河原を見つけた俺たちはバーベキューコンロを囲んで、肉や野菜を焼いていた。
このバーベキューの幹事をしてくれている圭吾は、肉を拾いながらご機嫌に笑う。
「モテる男はつらいね~、島崎殿~!」
「もうすこし大人しい子たちだったらよかったんだけどな……」
「そりゃ贅沢ってもんだろ。全国の大学生に刺されるぞー」
「刺されてもいいから、俺を開放してくれ……」
今日こうして集まったのは圭吾の提案だったが、事の発端は恵莉奈だ。
先日、海ほたるに行ったときに、海産物を焼いているキッチンカーを見て「これっす!」と何やら閃いた様子だったのだ。
聞いたところによると「オペレーション・Fは失敗したんで、今回はオペレーション・BBQでいくっす!」とのことだった。
やはり天川のことが気にくわないらしく、彼女を追い出そうというのだ。そのための作戦という『オペレーション・BBQ』はこうだ。
天川は存外貧乏耐性もあり、ヤマユリ寮での生活を楽しんでいる。最近は釣りもかなりうまくなってきており、このままいけば立派な寮生になるのは間違いない。
だが、それは恵莉奈にとって不都合だ。
ということで貧乏がダメなら豪勢に。そのためのバーベキュー。
ぜいたくな暮らしを思い出させれば、それが恋しくなってオンボロ寮を出て行くだろうという理屈らしい。
恵莉奈いわく「金持ちなんて毎週末タワマンでパーティーか広い庭でバーベキューしかしてないっすよ!」とのこと。偏見だと思う。
ともあれ、そんな事情もあって恵莉奈が圭吾に掛け合って、創作同好会でバーベキューを開催することにしたのだ。
だが、金のない俺たちにろくなものは用意できない。
バーベキューコンロなどの機材は寮の倉庫から引っ張り出してきて、食材は山湖から釣り上げた魚、寮の空き地で作ってる野菜が中心で、あとは半額セールの豚肉が少々。
この一年で一番ぜいたくな食事に心を躍らせていたが、引っかかるところがあった。
「うーむ、バーベキューコンロに浮気しているみたいで七輪先輩に申しわけないな」
「わかる! 俺もナナちゃんのことを思い出していたところだ!」
「ナナちゃん?」
首を傾げる天川に耳打ちをする。
「圭吾が使ってる七輪のことな。あいつ、自分が使う道具に名前つける癖がるんだよ」
「もしかしなくても、この同好会って癖が強いのかしら……」
今更である。あと、天川も相当だからな。
その後もしばらくバーベキューを楽しんでいると、圭吾が耳打ちをしてきた。
「そう言えば、今日は天川さんと神原、やけに仲良くねぇか?」
いまも二人はなにやら談笑しているしな。
「心地いい環境を作って、天川に楽しんでもらう。んで、贅沢を楽しんでもらって、実家におかえり願おうってことなんだろうけど……」
ここ最近の恵莉奈はとくに天川を追い出したがる。天川も天川でなにかあるとすぐに恵莉奈を挑発するから、収拾がついてない。
何とかしたい気持ちもあるが、俺がどうこうできる次元じゃないしなぁ……。
「師匠、いつも通りビールでいいっすか?」
「おう、ありがとな、って言いたいけど今日は遠慮しておく」
「珍しいっすね~。酒カスの師匠が飲まないって、槍でも降るっすか?」
「いや、天川のまえで酔ったら何されるか分からん……」
いまもビールを手に取ろうとする俺に眼を光らせてたしな……。
なにその目、チーターですか?
「それじゃあその分、いっぱい食べるといいっす!」
恵莉奈は俺の皿に肉を盛り付けるとそのまま天川のもとに駆けていき、グラスにワインを注いでいた。
「この仲の良さがいつまでも続けばいいのになぁ……」
そんな呑気なことを考えながら、バーベキューを続けていた時だった。
「一通り焼いたかな?」
ある程度区切りになったところで圭吾がバックから抽選ボックスを引っ張り出してきた。
「ここらでゲームでもしようぜ!」
「ゲーム?」
唐突な圭吾の提案に首を傾げる。
「まあ、なんだ。せっかく一緒の同好会なのにみんなで活動する機会がなくてさ。部長としては悲しいわけよ」
「で、親睦を深めようってわけっすか」
「そういうこと! ってことで、王様ゲームやるぞ!」
「け、圭吾それは……!」
「いいっすね! やりましょう!」
「ふふふ、面白そうじゃない」
まずいことになった。
王様ゲームなんて今一番やっちゃいけないことだ。
圭吾は良かれと思って準備してきたんだろうが……天川が王様になって「王様の漫画原作をやること!」とか「王様と付き合うこと」とか言われたら終わる。
だが、ほかの三人はやる気だ。俺ひとりの意見が通る空気じゃない。
この間のカラオケはアルコール度数の高いやつを飲ませて乗り切ったが、今日のラインナップにそんなものはない。
天川と恵莉奈が飲んでいる酒は度数が低いもので、いまも全然酔っていないのだ。
「そいじゃあ、はじめるか~!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます