第5話 アフリカに行って農業をしなさい
「釣り道具、ちゃんと四つ持ってきたぜ!」
「ありがとな、圭吾」
三限が終わった後、ヤマユリ寮から山を登っていき、山湖に到着した。
この一帯の山は大学の所有地となっており、寮生は釣りの許可も下りている。
そしてここは俺たち貧乏寮生にとって、食料が調達できる貴重な場所である。
「にしても、天川さんって美人だよなぁ」
「気を付けろよ、中身は割と怖いところあるからな」
酒飲ませてホテルに連れ込もうとしたり……。お盛んな大学生かよ。
「でもでも、やっぱ見た目はすごくいいのは事実だろ?」
「そりゃまあ、見てくれはな……」
天川を大絶賛するこの男、
ツンツン頭で顔だけは割といいこいつとは高校の頃からの腐れ縁である。なにかと気が合い、悪ふざけをする仲であり、いっしょに酒を飲むことも多い。
同じくオンボロ寮に住む仲間でもあり、俺と恵莉奈も所属する創作同好会の部長である。
「あれか、天川さんと親睦を深めるために釣りをしようってわけか?」
「違うっすよ、桟橋先輩!」
俺たちの間にひょこりと顔を出した恵莉奈は気合十分といった様子だ。
「天川先輩を追い出すための作戦なんす!」
「釣りで……追い出す?」
圭吾は意味不明といった様子で目が点になっている。
わかる、俺も最初はそうなったぞ。
「名付けて『オペレーション・F』っす!」
「あの人気作家様、気でも狂ったのか?」
「なんだ、その……とりあえず聞いてやってくれ。あいつも負けられない戦いがあるみたいなんだ」
胸の大きさには自信あったみたいだし、よっぽどショックだったんだろうな……。
「いいとこ暮らしで貧乏生活に慣れてない天川先輩にとことん貧乏生活の現実を突きつけて、勝手に出て行ってもらおう作戦っす!」
「な、なあ、島崎。そんなに仲悪かったか、こいつら……」
「実はな……」
圭吾にもかいつまんで事情を説明する。
「お前も罪な男だねー!」
「俺なにも関係ないからな! むしろ勝手に景品にされてる被害者な?」
ほんと、どうなってんのこれ……。
俺の困惑をよそに、視界の端で天川が釣り道具を興味深そうに見つめていた。
「それでどうやったら釣りってできるの?」
「あー、それはな」
「ストップっすよ、師匠! なんで教えちゃうんすか! 敵に塩おくるんすか!」
「だって何も教えないのはかわいそうっていうか、フェアじゃないっていうか」
「なんでそこで優しさ発動しちゃうっすか!」
いろいろと騒がしい恵莉奈は置いておき、天川に釣りのやり方を教える。
中古ショップで買ったボロ竿だが、折れないかぎりは普通に使えるはずだ。
「へぇ、疑似餌でも釣れるものなのね」
「まあ、釣れない時は晩飯にありつけないけどな」
「スーパーかコンビニに行けばいいでしょ?」
「まあ、最悪それでもいいがな。金が持たんぞ」
「あなたたち、一カ月の食費何円ですごしてるの……」
「俺は八千円だな。圭吾は?」
「一万円だなー」
「あたしも一万円っす!」
ちなみに恵莉奈は印税でかなり儲けてるからそこまで節約する必要はないのだが、実家への仕送りと、将来の貯金のために無駄遣いはしない主義らしい。
偉い、偉すぎない?
「ということで天川、今日からお前の食費も一万円以下だ!」
「あなたたち黄金伝〇でもやってるの?」
「大学から金出してもらってメスの鶏は飼ってるぞ。ちなみに寮の空き地には畑もある」
「卒業後はアフリカに行って農業でもするつもり?」
ともあれ、俺たちは今日の食料を調達することになった。
「師匠、天川先輩の分もとるつもりで釣るっすよ!」
「お、おう……」
俺と恵莉奈はいつも通り隣り合って釣り糸を垂らし始める。すこし離れた場所では俺が教えたとおりに天川も釣りを始めていた。
この湖の広さは大したもので、外周を一周するのにそれなりの時間がかかり、その広大な面積を誇っているおかげで、魚もけっこう釣れる。
そして今日も順調に釣れている中だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます