第33話
ゼマのクリスタルロッドと、マベラの長双剣が激しくぶつかり合う金属音のような音がバチバチと鳴り響く。
【刺突乱舞】と【強斬乱舞】がぶつかり合った結果、マベラには一切の傷はついていなかった。いまだ無傷だ。
ゼマは一度、乱舞を中断してロッドの長さを元に戻す。ここまで攻撃がヒットしない経験はあまりなかった。
彼女は頭を悩ます。
(乱舞もダメ、か。
あれで斬撃飛ばされたら、ちょっとまずいな。
あいつ、手慣れてんなぁ……)
ゼマの現在のレベルは50。この数値は、上級クエストもこなせて、他の冒険者からは尊敬されるぐらいだ。ここからレベル60、それ以降にするのはなかなか骨が折れる。
そんなゼマだが、マベラとの間に明らかな実力差を感じていた。
それはレベルやスキル威力の差だけではない。彼女がマベラに対して厄介だと感じているのは、技量と思考だ。
人を傷つけることに何の躊躇もなく、正確に相手の動きを裁く。本能的に動く傾向のあるモンスターと、論理的に行動することの多い冒険者とでは、戦い方が変わってくる。
この長双剣のマベラからは、その対人戦への耐性と経験がびしばし伝わってくる。
(あ~、けど、私ならやれるか。
この武器と、私のスキルなら)
ゼマは気合を入れ直す。確かに相手は格上。一度攻撃を喰らえば、ヒーラーの彼女でも瀕死に追い込まれる危険性が高い。
だが、ゼマは自分の手札を確認し、マベラを倒す手段がある事に気がつく。
「おい、そこのいかれ女っ!
今から叩きのめしてやるからね!
はぁぁぁ、【刺突】!」
マベラに狙いを定めて、ゼマは再び研ぎ澄まされた伸びる突きを放つ。
それを見たマベラは少し落胆していた。
「威勢はいいけど、もっとバリエーションが見たかったんだけどね……」
マベラはさっきと同じ、ゼマの突きならば単調なので、問題なく避けることが出来ると思っていた。落胆しながらも、しっかりとロッドの軌道を見切っている。
「じゃあ、お望み通りっ!」
ゼマは、クリスタルロッドが伸びている段階で、グッと腰を落とし、両腕でロッドを勢いよく下へと引っ張る。
すると当然、ロッドも下へと少しずれて、軌道が修正された。これがゼマの狙いだった。
「へ~、けどっ」
マベラはまだ余裕だった。ゼマの動きもしっかりと捉えているので、彼女の動きに変化があれば、それに合わせるだけ。
狙いは足元か、とマベラは予期する。
木の枝はそこまで安定した足場ではないので、マベラはその場で避けるのではなく、いっそのこと跳びたって別の場所へと移動しようとした。
マベラが枝を蹴ってジャンプをしようとした時だった。
彼女は自分の過ちに気が付く。ゼマの本当の標的は、今に限り自分でなかったことに。
「!? なに!」
ゼマのクリスタルロッドはマベラの足ではなく、それが設置されている木の枝だった。枝といっても、人が直立できるほどの立派なものだ。
その枝に、クリスタルロッドの先端が直撃する。
ゼマの放った【刺突】などの打撃系には、速度や攻撃力を高める以外の効果が基本的に内蔵されている。それは、破壊力の強化だ。
生物の肉体を破壊するには大規模な攻撃の必要があるが、鱗や武器、そしてフィールドのオブジェクト、それらを壊すには持ってこいのスキルだ。
今回彼女が破壊したかったのは、足場として利用していた枝だったのだ。
【刺突】がヒットした枝は、その地点からバキバキッと音を鳴らしながら折れ始める。
すると、マベラはその折れ始めた枝を足場にしてジャンプすることになった。
意表を突かれたので、次の移動先も正確に確認できず、マベラは不安定な姿勢で跳ぶことを余儀なくされた。
「いい! 実にクレバーだ!」
完全に相手の策略にハマったというのに、尚マベラは調子づいている。マベラは斜めった体で空中に放り出されるも、そこで長双剣を構え始める。
追撃が来るのが分かったからだ。
「【刺突乱舞】!」
さっきは軽くいなされた乱舞。だが、今回は状況が違う。
逃げ場もなく足場もない空中で、ゼマの洗練された突きの猛襲を防ぎきるのは困難だ。
「【強斬乱舞】!」
徐々に地上へ向かって下降していく状態で、マベラは防御用の乱舞を放つ。だがやはり、体の基盤が安定せず、さっきのように完璧に防ぐのは不可能だった。
「っぐ!」
まず一発、マベラの脇腹に【刺突】がヒットする。乱舞は一撃全てがスキル攻撃になっており、一回でもヒットすれば、着実にダメージを与えられる。
それからさらにマベラの動きに、歪みが入る。
ゼマはそれを見逃してくれるほど甘くはない。
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