第32話
「ヒーラーの私に、やれるもんならやってみな!
【刺突】!」
ゼマは勢いよく叫ぶと、その場で突きを放つ。通常の攻撃とは違い、魔力により身体能力が一時的に向上。さらに、武器の性能もあがっている。
【刺突】は言ってしまえばただの「突き」。しかし、スキルであるかそうでないかでは、雲泥の差だ。
さらに、彼女の持つクリスタルロッドには【伸縮自在】が付与されている。
これにより、一瞬で伸びる研ぎ澄まされた一撃へと昇華されるのだ。
「おっと。
遠距離はやはり便利だね。
【エアスラッシュ】オーバーズ!」
マベラはゼマの攻撃を避けるために、木の枝を軽く蹴る。そして少し離れた別の枝に脚を置く。さらに、その途中、空中にいる状態でいくつもの斬撃を放った。
【クロスエアスラッシュ】よりは威力が下がっているものの、【エアスラッシュ】は連発しやすいのが利点だ。クロスのほうはしっかりと二刀同時に放つ必要があるからだ。
「あー、うっとうしい!」
ゼマはすぐにクリスタルロッドの【伸縮自在】を解いた。そして元の持ちやすい形に戻すと、マベラの放つ斬撃をそれで弾いていく。
しかし、その数は捉えきれないほどであり、いくつかがゼマの頬や腹、脚などを斬りつける。
「【クイックヒーリング】」
ゼマはすかさず回復スキルを発動。クリスタルロッドなどの打撃と違い、斬撃は放っておくと血が流れ続ける。そのため、いかにスピーディーに治療するのかがキモだ。普通の冒険者はポーション(回復薬)を使用するが、それだと少し手間がかかる。瞬間的に回復できるのが彼女の強みだ。
「なぁ、一つ聞いていいかい?
その回復は気持ちいいのか?」
妙な質問をする。けれど、冒険者としては興味深いテーマなのだろう。ポーションを飲むと、僅かだがリラックス効果も発動する。体が癒されることによるストレス解消効果もあるだろう。ゼマの回復スキルにも、同じような効果があるのか気になったようだ。
「まぁね。でも、あんたの攻撃の方が何倍も痛いから、マイナスぐらいだね。体感的には」
残念ながら、受けたダメージによる痛みをなかったことには出来ない。体が回復されても、その痛みに対する恐怖心などは蓄積される。だから、治るからといって薄着装備にしているゼマは、わりとイカれている。
「そう……、私もやって欲しかったけれど」
「敵に塩を送るまね、するわけないでしょ!
【刺突】!」
マベラが受けた傷を治したゼマは、万全な状態で突きを放つ。そしてそれは、今まで通り敵に向かってその長さを伸ばしていく。
「あらら、残念」
マベラは軽口を叩きながら、ひょいっと場所を移動する。ここは樹木が生い茂る林の中だ。空中にも足場はいくつもある。
「あー、完全に見切られてるわ、これ」
ゼマは今自分が出せる最大出力の突きが、簡単に避けられてしまっていることを嘆いた。【伸縮自在】は優秀で便利なスキルだが、敵に到達するまでの時間が僅かではあるが、近距離よりはかかってしまう。
低級の冒険者やモンスターであれば、この位置からでもゼマの攻撃を回避することは困難。【伸縮自在】の効果速度は、突きなどの事前行動によっても上昇するからだ。
しかし、熟練者相手だと、攻撃がヒットする前に軌道を読まれてしまう。
「きっと、そんなもんじゃないだろう? 君の力、もっと見せてよ」
マベラはゼマのスキル画面を【サーチング】したわけではない。そもそもマベラはそのスキルを持っていない。
だが、感覚的なのか本能的なのか、ゼマにはまだいくつもの攻撃手段が残っていると考えているようだ。
そしてそれが披露されることを、彼女は望んでいる。
「っふぅ、じゃあ大技いっちゃうよ~。
【刺突乱舞】っ!」
研ぎ澄まされた突きを、連続で放つ単純ながら強力な乱舞を発動していく。スキル効果によってセミオートである程度体が勝手に動いてくれる。
何発も連続で攻撃するので隙は大きいが、ヒットすれば大ダメージを狙える。それに加え、ゼマの乱舞は【伸縮自在】によって、遠距離攻撃になっている。
1つの突きを放った瞬間に、【伸縮自在】を解いて長さを元に戻し、そして再び伸びる突きを放つ。
連動した動きの中で、スキル解除と発動を繰り返すので、絵面よりも繊細な技である。
「真っ向勝負といこうかっ、【強斬乱舞】!」
女戦士マベラも同じく乱舞系統のスキルを発動していく。彼女の場合は、双剣で発動している。つまり、単純に攻撃の数が倍になる。
マベラはゼマの放った【刺突乱舞】に、自分の双剣を的確に当ててはじき返していく。乱舞は基本的に、半分自動的に体が動き連打をアシストしてくれる。しかし、その中に「相手の攻撃に合わせる」という機能は存在しない。つまり、乱舞で多数の攻撃を防ぐには、それに合わせて的確に武器を動かす必要がある。
一瞬の中で、冷静に頭を回し、体を動かす高等技術といえる。
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