#3 封印されし力
第19話
冒険者パーティー・ニールダウン。
魔人ハライノスをリーダーとするこのパーティーは、現在逃亡中だった。
木の枝から枝へと渡っていき、さくさくと進んでいた。
彼らの目的は先に進むことそのものでもあるが、同時に他の狙いもあった。
「まだ何人か冒険者いたよな?」
リーダーのハライノスが歯を見せながら、他のメンバーに問いかける。
「ざっと10人以上いたんじゃないかな」
そう答えたのは、盾殴りのナゲキスを蹴り飛ばした長双剣を扱う女戦士だった。
彼らはここへ来る前に、村を出て3チームに分かれるクエストの参加者たちを遠目で見ていたのだ。
一番凛として強そうに見えた風心クインクウィに狙いを定めたのだが、彼女は相棒のデュペルへと交代していた。
なので、彼らがデュペルたちに話しかける前、ターゲットの女性がいなかったので、実は少し予定が狂っていたのである。
「まだ勧誘するつもりなん??」
気だるそうにしている魔法使いのバンダナ青年。彼は攻撃スキルである【自由を奪う闇】を発動する時も、覇気のない声をしていたぐらいやる気を感じない。
「あったり前だろ、種は蒔けるだけ蒔いとかないとな」
魔人ハライノスは、他のチームを探し次第、デュペルたちチームAにしたようなことをするつもりだった。勧誘という名の、脅迫である。
「はぁ、よくやるよ……。こんなこと間違ってるって……」
脅されて入った、と自分で言っていたバンダナ魔法使いは、深いため息を連続で吐いた。同じパーティーではあるが、全員が同じ方向を向いているわけではないようだ。
「シットニン、お前が前例を作ったせいだ。闇スキル使えなくしたら、「これじゃあ仕事出来なくなっちゃう」って、サクサク話を進めやがって」
魔人ハライノスは、最初は自分の浅はかな考えだ、と脅し作戦の成功を確信していなかった。しかし、たまたま最初に選んだのが、ソロで活動していたこの魔法使い・闇使いシットニンだったのである。
「私は、どっちも狂っているって思っているよ。この話に面白半分で乗っかった私もね」
女戦士は、どこか傍観者のような他人事感覚でそう言った。
彼女、「長双剣のマベラ」は、よく怪しげな笑みを浮かべる。幅の広い口でニヤつくので、密かに口裂け女、とも恐れられている。
長双剣のマベラは脅迫されて入ったわけではない。ハライノスの思惑を偶然酒場で聞いて、「脅した後、交渉する時間が必要でしょ。その間、私が時間を稼ぐってのはどう?」と自分から仲間になりだしたのである。この時も何を考えているのか分からない顔で、ハライノスに笑いかけていた。
彼女は大いにこのパーティーに貢献しており、さっき盾殴りのナゲキスを迎撃したような活躍をいくつも残してきた。
「っは、マベラの言う通りだな。なんて言うんだっけこういうの。同じ釜の飯を食った仲間? だっけか?」
魔人ハライノスは聞いたことのある慣用句を使った。が、その言葉は自分で言っていてしっくりこなかった。
「違う。同じ穴の狢、だよ、この場合」
悲壮感漂う闇使いシットニンは、的確に訂正する。が、すぐに自分で「狂人」ということを認めてしまったことに気がつき、「っあ、最悪」と嘆いた。
「やっぱ俺ら、最高のパーティーだなぁ!
よっし、次の仲間見つけんぞ!」
魔人ハライノスは、何故かやる気をアップさせて移動速度を上げていく。闇使いシットニンからはまるで忠義や連帯感を感じないのだが、共通点が1つでもあれば、ハライノスは充分なようだ。
かなり異質な経緯で結成、そして仲間の追加をしてきた冒険者パーティー・ニールダウン。パーティー名は、メンバーの特徴やパーティーの信念を表したり、標的のモンスターに対して向けられる言葉であることが多い。が、彼らは他の冒険者に対して「跪け」と挑発しているのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます