第30話 精霊王の領域へ



 バルダーナ大荒野の入り口に到達した翌日。

 早速朝食に出した、ハムチーズ目玉焼き・オープンサンド風でしっかり腹ごしらえした私達は、予定通り朝っぱらから車で荒野の中を爆走し始めた。


 荒野というからには、そこかしこがでこぼこしている、典型的なオフロードを想像してたんだけど、思ったより平坦だ。

 ただ、やっぱり地表は見渡す限りカラカラに乾燥してて、草木がほとんど生えてないし、生き物らしいものの姿も見当たらない。


 当然、目印になるようなものもないので、念の為、後部座席のリトスとアンさんにコンパスを渡し、間違いなく南に向かって進めるよう、最低限のガイドをお願いしている。


 うーん。しかしまあ、本当になんもないな。この辺。

 見渡す限り黄土色と茶色が入り交じった、乾いた地面が延々と広がるばっかだよ。これはよっぽどしっかり長距離移動の準備をしてても、踏破するのはかなり難しいんじゃなかろうか。


 そりゃ誰も足を踏み入れないよねえ、こんな場所。

 車出せてよかった。

 こんな所を1人で車運転して進んでたら、不安で心細くなる事請け合いだったろうけど。


 どっちにしても、こんな不毛の大地としか言いようのない所に長居なんてしたくないので、草原では60キロに抑えていた速度を80キロまで上げる。

 クリスはともかく、リトスとアンさんとしては、精神的について来れなくて負担かな、とも思ったが、初日よりは慣れたようで、2人で「速いね」とか「凄いわね」とか話をしているようだった。


 しかしながら、比較的平坦だとはいえ、それでもやはり荒野は荒野。

 多少ボコボコしてる所もあるから、時々車体が揺れたり軽く跳ねたりする事もあるが、リトスもアンさんも、今はちょっとしたアトラクションのような感覚で受け入れている模様。

 うん、実に順応が早い。


 この調子なら、予定通りに走行し続けても問題なさそうだ。

 一刻も早く精霊王様の所へ着けるよう、張り切って運転を続けましょうかね。信号機もなければカーブも交差点も存在しない、道なき道をただただ真っ直ぐ走るのは、短い期間なら非日常感満載でそれなりに楽しいし。

 私は今にも鼻歌を歌いそうになるくらい、ゴキゲンな気分で車を走らせる。


 ……あ、そうだ。お昼ご飯どうしよう。

 こういう、ひとつ所に腰を落ち着けてられない環境だと、食べる物も結構限られてくるんだよねえ。


 ご飯のたびに、スキルでテーブルと椅子を出しては消して、なんてやるのも面倒だし、長期間旅する予定も今の所ないから、やっぱここは、サンドイッチ系のご飯とハンバーガー類、あとはおにぎりのローテーションでやりくりしようかな。




 数時間おきに車を停め、1時間程度の休憩を挟みながら先へ進む事2日。

 いい加減、代わり映えのない土色の荒野を進むのにも飽きてきた頃、突如視界の先に青々とした緑が姿を現した。恐らくあの場所こそが、精霊の生まれる地と呼ばれる場所、ユークエンデなのだろう。


 この場所のどこか……多分最奥かそれに準ずる場所に、土の精霊王レフ、レフコ……えー、うーん……。なんだっけ……。

 あ、思い出した! レフコクリソス様! ……がいるんだと思う。


 しかし――近くに車を停めて見てみると、ユークエンデは緑地なんて可愛いモンじゃなかった。人が通れそうな場所すらろくに見当たらないほど、多種多様な植物や木々が、みっしり生えて地面を覆い尽くしている。

 こりゃ森という表現も生温いな。もはや密林のジャングルだ。

 パッと見はもう、元いた世界にあったアマゾンみたいな感じ。


 つーかこれ、どっから中に入ればいいんだろ。

 あと、マジモンのアマゾンみたいに、デカい吸血ヒルとか軍隊アリとか、そういうヤバい虫がいっぱいいたらどうしよう。


 うう、今更だって分かってても、想像したら怖くなってきた……。

 私が思わず二の足を踏んでいると、リトスが「ねえ」と声をかけてくる。


「? なに、リトス?」


「見て、プリムのスカートのポケット、光ってるよ」


「えっ? ――あっ、ホントだ……」


 確かに、リトスに指摘されたポケットからは、布地を透過するように淡い光が零れ出していた。

 そういやこのポケットには、モーリンからもらった精霊の琥珀を入れてたっけ。もしかして、精霊王様の魔力に反応してるのかな。


 不思議に思いつつ、精霊の琥珀をポケットから取り出して見れば、案の定精霊の琥珀は柔らかな光を放っていた。なんか、掌に乗せるとほんのりあったかい。

 もしかして、この琥珀の光が集束するなりなんなりして、行くべき道を指し示してくれるのかな、と思ってたら、目の前に広がる密林の風景が、突然グニャリと歪んだ。


 やがて、目の前の木々が全て、あるべき形を失って一緒くたに混ざり合い――

 ふと気付けば、道を塞ぐ木々は全て消え失せ、奥まで一直線に伸びている、綺麗に舗装された石畳の道が出現していた。


 もしかして……今まで目の前に見えてた密林って、よくできた幻覚だったのかな……。

 でも、出現した道は道幅が狭いし、道の両脇もずっと先まで柵で挟まれてるから、並んで歩くのは無理っぽい。進む順番を決めて、一列に並んで歩くしかなさそうだ。


「……な、成程……。精霊の琥珀ってのは、いわゆる道しるべみたいなものなんだろうな、なんて勝手に思ってたけど、実際にはモーリンが言ってた通り、精霊王様がいる場所へ続く道を開く為の……文字通りカギの役割をする石だったんだ……」


「そうだったみたいだね。――じゃあ行こうか、精霊王様の所に。順番はどうする?」


「そうね……先頭は精霊の琥珀を持っているプリム、そのすぐ後ろがプリムの護衛役のリトス、真ん中に非戦闘員のクリスを挟んで、殿しんがりは人生経験豊富な私、という事でどうかしら?」


「そうね。私も、アンさんの言う通りの形で進むのがいいと思う。リトスとクリスはどう? これでいい?」


「うんいいよ。プリムのすぐ後ろなら、何かあった時素早くプリムを助けに入れそうだし」


「……俺もそれでいい」


「よし、じゃあ決まりね。……ふう、ちょっとドキドキしてきたわ」


 土の精霊王、レフコクリソスってどんな精霊なんだろう。

 ちゃんと話を聞いてくれるかな。

 村を守る為の知恵を、ちゃんともらえるといいけど。


 内心で渦巻く不安を強引に押し込め、私は意を決して出現した道へ足を踏み入れた。



 鬱蒼うっそうとした密林の中、綺麗に舗装された石畳の道が一本だけ伸びているという、何だかシュールな光景の中、私達は不安と期待を胸の中に押し込めて、黙々と歩を進めていく。

 道を挟んで生い茂る密林の中は、文字通り宝の山と言うべき場所だった。


 柵で囲まれてる道の外では、七色に輝く翅を持つ優美な蝶と、眩いほどの金色に光り輝くカブトムシっぽい甲虫が、同じく黄金色の輝きを湛えた樹液に群がり、真珠の光沢を持つ純白の毛皮をまとった山猫が、道のすぐ隣を悠然と闊歩する。


 その近くには、細い翡翠の茎にエメラルドの葉を生い茂らせ、ルビーやサファイアを実らせる背の高い植物が何本も生えていた。それらの植物は、どこからともなく吹いてくる微風に揺れて、時折シャラシャラと涼やかな音を立てている。

 あ、向こうの木に絡まってる蔦に咲いてる花、クリスタルかな。生ってる実はダイヤモンドだけど。


 なんかもう、どこもかしこもキラキラしくてめっちゃゴージャス。

 これは、どっかのお伽話に出てくる黄金郷……いや、宝石郷とでも言うべきか。

 はあ凄い。あまりに凄すぎて語彙能力が退化しそう。

 うひょー、やべー。映えー、写真撮りてぇー。


 頭の中でIQの低い言葉を吐き散らしつつ、思わず立ち止まりそうになるのを我慢しながら先へ進むが、ついつい観光意識が湧いて歩く速度が落ちてくる。


「うわぁ……! ねえ見て! これ、ルビーの木苺だわ!」


「わ、本当だ……! あ、ねえプリム、こっちにはアメジストのブドウが生ってるよ」


「こっちの地面には、トパーズのどんぐりが落ちてるわ。……はぁ……。本当に凄い光景ね……!」


 私もリトスもアンさんも、ちょっとはしゃいだ声を出してしまう。

 クリスは今の所なにも言ってこないが、その目はしっかり金色のカブトムシに向いているようだ。


 その気持ち分かります。あのカブトムシ、綺麗なだけじゃなくて、ボディのメタリックな質感が何とも言えずカッコいいよね。


 しかし、美しい見た目をした多種多様な生き物達は、すぐ隣と言っていい場所を通り抜けていく私達にはなんの関心もないようで、ただのんびりと自分の時間を刻んでいる。


 ちょっと手を伸ばせば、普通に触れそうな距離に人がいるっていうのに、警戒心の『け』の字もないよ。滅多に人間が入り込まない場所だからなのかな。

 まあ、明らかに人の世界に存在していい類の植物や生き物じゃないし、こっちとしても手に取って持って帰ろうなんて思わないけど。


 そもそもここは土の精霊王様の領域。ざっくりした表現をするなら、精霊王様ん家の庭って事になる訳だ。

 詰まる所、ここの植物や生き物を勝手に取るという事は、よそ様ん家の庭にあるものをかっぱらうのと同義なんですよ。庭の持ち主が誰だろうと、ンな真似していい訳ないでしょ。


 あと単純に、道から出て脇に逸れるの怖い。

 だって別世界もいいトコだもん、この密林。

 一度道から出たら二度と戻って来れなくなりそうで、すげぇヤダ。

 ここは、『君子危うきに近寄らず』を合言葉にして進むべきだと思う。


 なので、道を進んでいるうちに「金色のカブトムシ欲しい!」とか言い出すクリスの要求も、当然却下。

 しまいには「一匹くらいいいだろ?」と駄々をこね始めたクリスを、やむなく「よくない! よそ様のお家のモン勝手にパクろうとするんじゃありません!」と一喝したのち、リトスに頼んでクリスを小脇に抱えてもらい、強制連行の刑に処した。


 全くもう。精霊王様にお父さんとお母さん助けてもらうのが、あんたのそもそもの目的だったんじゃないんかい。

 つか、自分の家のものを物欲に駆られて盗むような奴、精霊どころか人間だって助けないからな。その辺分かってるのか、このバカちんが。


 でも、私の「人ん家のもの盗むな」という説教が多少は効いたのか、ふて腐れてはいるものの、騒いだり暴れたりはしていないので、まだマシだろう。




 ちょっとした騒ぎはありつつも、特にそれ以上の揉め事もトラブルも起こらないまま、私達は細く長い道を進み続けていた。

 なんでか知らんけど、道を進んでいうちに途中から植生が変わってきて、今は葉っぱがグリーンダイヤでできた、柳に似た木の群生を鑑賞しながら道を歩いている所だ。綺麗だなあ。


 ……にしても、この道長いわー。どこまで行けばいいんだろ。

 だんだん歩くのかったるくなってきたし、自転車でも出そうか……ああいや、ダメだわ。リトス達自転車乗れないじゃん。

 私は内心でがっくり肩を落とす。


 確かに周囲の光景は見応えがあるけれど、行けども行けども終着点が見えてこない道を歩き続けるのは、やっぱり精神的にしんどい。

 本当、一体いつまで歩けばいいのか、と思い始めたその時。

 突然目の前の空間が歪んで道が途切れ、直径数メートルはあろうかという花のつぼみが出現した。


「……っ、な、なに、これ……。中からヤバいもの出てきたりしないわよね……?」


 ――あはは、安心しな。アタシはヤバいもんなんかじゃあないよ。


 思わず半歩後ずさり、独り言ちる私の耳に、妙に明るい声が聞こえてきた。

 背後を振り返れば、リトス達も驚いた顔を周囲をキョロキョロ見回している。

 私だけに聞こえたんじゃないみたいだ。でもなんか今の、田舎の酒場で働いてるお姉さんみたいな声と口調だったような……。


 目の前の光景と聞こえた声に戸惑う私達をよそに、でっかい花のつぼみがほころんで解け、見る間に花開いていく。

 目にも鮮やかな黄色の花弁を持つ、薔薇に似た花の中にいたのは、緩やかに波打つ金色の髪を長く伸ばした、琥珀の双眸を持つ絶世の美女。


 透けるような白い肌を持つ細身の身体は、昔のギリシャ人の服にどことなく似ている、生成り色の長衣に覆われていた。ちょっと露出が多めです。

 つかこの人、よくよく見たらあぐら掻いてるよね?


『やあやあ、遠路はるばるよく来たねぇ。アタシこそが、このユークエンデを守護する土の精霊王、レフコクリソスさ。あいつがここの鍵の封印を解いてあんたに渡した時から、あんた達の事をずうっと見ていたよ』


 女性は人好きのする気安い笑みを浮かべながら、なんとも軽い口調でそう述べる。

 ――って、土の精霊王って女性体だったのかよ!?

 私は驚きのあまり、口をあんぐり開けたまま数秒固まってしまった。



「私達を、ずっと見ていた……ですか?」


『あぁそうさ。こうして会って言葉を聞くに値する者かどうか、見定める為にね』


 戸惑いの声を上げる私に対して、黄色い薔薇に似た、デカい花の中心であぐらを掻き、機嫌よくこっちを見据えている女性――レフコクリソス様は、ニコニコしながら話を続ける。


「……では……こうして直接対面を許して下さった、という事は、僕達は多少なりともあなたのお眼鏡に叶ったと、そう思っていいのでしょうか」


『勿論だよ、リトス。そうじゃなきゃ、とっくの昔に精霊の琥珀を取り上げさせてたさ。――心根優しく、持たざる者に分け与えるをためらわず、ものの道理をよく弁え、言動は常に努めて理性的。文句なしの合格だ。なあ? クリス』


『――まぁな。実際には、試す必要もないような感じだったけど』


 レフコクリソス様の言葉に、クリスがその傍らで肩を竦めながら答えた。

 ちょ、おい。お前ついさっきまで、リトスの後ろにいたはずだよね?

 それがなんでいつの間にか、レフコクリソス様の隣に立ってんのよ。

 つか、それ以前に――


「まさか……あんた、人間じゃなくて精霊だったって事!?」


『んあ? あぁまあ、一応精霊っちゃ精霊かな。元は人間だけどさ』


 立て続けに起こる想定外な出来事のせいで一向に驚きと動揺が抜けず、裏返った声を上げる私に、クリスが人差し指で頬を掻きながら肯定の言葉を口にする。


『でも、最初に会った時に話した、親の事を含めた身の上話はホントだぜ? ついこの間じゃなくて、今から6年前の事だけどな』


「6年前……。じゃあ、あんたは……」


『おう。享年9歳ってやつな。でも一応、精神はちゃんと成長してんだぜ。今は立派に15歳やってるわ』


『はぁ……。ったく、何が立派なモンかい。まだまだ中身がひよっこだから、くれてやった器もほとんど育ってないんじゃないか』


 クリスはフフン、と笑って胸を張るが、傍らのレフコクリソス様は呆れ顔だ。


『こいつはねえ、アタシなら両親を助け出してくれる、って思い込みだけで孤児院を飛び出して、単身ここの手前にあったバルダーナ大荒野に入り込んだ挙句、荒野の中で野垂れ死んだ大馬鹿なんだよ。

 知恵や知識の持ち合わせがない子供ってのは、つくづく怖いもの知らずな生き物だよ。無茶苦茶な事を平気でやらかす』


『はははっ、流石に孤児院からかっぱらってきた食い物だけじゃ、諸々保たなかったよな。……でもそれでも、俺はどうしても両親の事を諦められなくてさ。幽霊になっても足を止めずに先へ進んで、ここまで辿り着いたんだ。幻覚は霊体には作用しねえからな』


『執念の成せる業ってヤツだよねえ。まあそういう訳で、自分が今にも消えちまいそうだっていうのに、親の事ばっか気にするこいつがなんか気の毒になっちまってさ。アタシの力の一部と、花木の苗でこさえた器……肉体を与えて、眷属にしたんだよ。


 丁度そろそろ、アタシに代わって人の世を見て回ってくれる耳目じもくが欲しいと思ってた所だったから、ある意味アタシにとっても、渡りに船の出会いだったって言えるかもね。――親の事は、どうもしてやれなかったけど』


『……それは、仕方ねえよ。眷属にしてもらってすぐ、王都に取って返した頃には、父ちゃんも母ちゃんも処刑されてて、魂は輪廻の輪に戻っちまってたからな。幾ら精霊王でも、命と魂の輪廻を司る歯車には干渉できねえ。それがこの世界の理だ』


 クリスは、幼い面立ちに似合わない、妙に大人びた表情で苦笑する。


『それでもさ、ちゃんと恩は感じてるんだぜ? だから今回早速、耳目と判定員の役目を買って出たんだからな。それにプリム、お前にも……お前らにも感謝してるよ。


 わざと浮浪児の格好で近づいた俺に、嫌な顔ひとつしねえで手を差し伸べて、優しくしてくれたよな。服も飯も寝床も、当たり前みてえに与えてくれた。……すげぇ嬉しかったよ。うっかりマジ泣きしちまうくらいにはさ』


「……そっか。でもねクリス、そこまで感謝する事ないわよ。私達には単純に、人に分け与える余裕があったってだけなんだから。その辺の事は、道中あんたも直に見てたから分かるでしょ?」


『かもな。でも世の中には、色んなものを取り零すほど持ってるくせに、他人には何ひとつ分け与えようとしない奴だって、ごまんといるじゃねえか。

 挙句、持ってるくせに持ってねえ奴から、更に毟り取ろうとする奴さえいる。そんなのは人の集団の中で生きて、大人に近付いていけばいずれ誰もが気付く事だ。


 ……俺はさ、まだ精霊に変わって年月が浅いから、人だった頃の記憶もしっかり残ってる。ろくでなし共に、理不尽に搾取された記憶がな。だから……お前らの優しさは本当に心に沁みた。ありがとうな、プリム。リトスとアンも、よくしてくれて嬉しかった』


 今度は、さっきの大人びた顔から一転、無邪気にニカッと笑うクリス。

 私達はただ、「どういたしまして」とかいうテンプレな言葉くらいしか返せなかったが、それでもクリスもレフコクリソス様も満足気な顔をしている。


『さぁて、それじゃあそろそろ、事情説明とネタバレはおしまいにして、本題に入ろうじゃないか。確かあんた達は、傲慢で自分勝手な国王から身を守る術が欲しいんだったね。


 ――いいだろう。その願い、この土の精霊王レフコクリソスがしかと聞き届けた。魂結びの契約と宣誓を以て、あんたを契約者と認めよう。アタシの知恵と力、存分に貸してやるから好きに使いな、プリム!』


「はっ!? い、いいんですか!? そんなあっさり……」


『何言ってんだい、当然だろ? アタシの耳目であるクリスを通して、あんた達の人となりは見定めさせてもらってるからね、ここまで来たら余計な問答はナシでいこうじゃないか。さ、分かったら手を出しな。とっとと契約の儀を済ませるよ』


「はあ……。まあ、そう言って頂けるんなら、よろしくお願いします……」


 私がおずおず差し出した右手を、レフコクリソス様がガッシリ掴んだかと思ったら、一瞬掴まれた手を中心に光が弾け、あっという間に静まった。


『ハイ、これで契約は完了だ。アタシとアンタはこれ以降、魂で繋がった一蓮托生の存在になるから、よろしく頼むよ。

 ああそうだ、あんまり畏まった言葉は使わないでくれるかい? アタシは固っ苦しいのは好きじゃないんだ。敬語なんて要らないし、様づけ呼びもやめとくれ。そうだねえ……なんか適当な愛称で呼んでくれりゃあ、それでいいからさ』


「あ、愛称ですか……。えー、じゃ、じゃあ……レフさん、とか……?」


『お、いいねえ、その適当な感じ! 気に入ったよ! 気安い雰囲気で凄くいいね!』


「そ、そうなんだ……。精霊の感性って独特……。まあ、レフさんが気に入ったって言うんなら、私が口挟む事なんてなんもないけど……」


 こうして私は土の精霊王、レフコクリソス様改めレフさんと、あっさり契約を結ぶ事になったのだった。

 ホントにいいのかな、これ……。

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