第26話 急転する事態



 エフィーメラが目を覚ますと、後ろ手に縛られた格好で、板張りの床の上に転がされていた。

 ここがどこなのかは分からない。

 分かるのは、ここが灯りのない小さな小屋の中だという事くらいだ。


 何かの薬でも嗅がされたか、頭がぼんやりしてジワジワと痛み、身体が怠い。そのせいで身を起こす気力が湧かず、やむなくエフィーメラは寝転がったまま視線を周囲へ巡らせる。


 ガラスの嵌め込まれていない、ごく小さな窓から差し込んでくる光を頼りに周囲を見回せば、自分のすぐ近くに数人の子供達と、シスターとおぼしき身なりの女性が1人、自分と同じように縛られ、意識のないまま床に転がされているのが見えた。


(……なに、これ……。これって、どういう事なの……?)


 今だ朦朧とする頭を必死に働かせ、状況を確認しようとするエフィーメラ。

 しかしその必死の思考は、小屋の外から近付いてくる複数の話し声と足音で中断された。声のトーンから察するに、みな男だ。

 エフィーメラは咄嗟に身体から力を抜き、目を閉じて、気を失ったままの振りを始める。


 せめて、自分の身に何が起きたのか。

 今ここで、一体何が起きているのか。

 それだけでも知っておきたい。

 ただその一心で、エフィーメラは耳に神経を集中させた。



 ――なあおい、いいんすか? 先方がご所望なのは、8歳以下のガキなんじゃあ……。


 ――確かに予定外ではあるが、構わん。そのうち、年若い教会関係者も招く予定だったのが、少し早まっただけの事。まあ……そこからすると、そこの女は完全におまけだが……。


 ――あ? 教会関係者? なんでまた、そんな極端な絞り方するんです?


 ――そりゃあ勿論、恵まれねえ人々の為に日々働いておられる、慈悲深い教会関係者のお方々の方が、『持ってる』可能性が高いってこったろ?


 ――なあ、それってホントに存在すんのか? 聖女が持ってるっつースキル……ええと、美徳系スキルの、『慈愛』だっけか?


 ――ちげーよ。慈愛じゃなくて『慈善』な。……俺も話を聞くまで眉唾だと思ってたが、一応、記録に残ってるみたいだぜ? 何百年か前、そのスキルを持った聖女様が降臨して、死病に侵された街を丸ひとつ、死人も出さずに救ったんだとよ。



 エフィーメラはじっと息を殺し、不穏な話に耳をそばだて続ける。

 聞こえてくる声から察するに、ここへやって来た人攫い達の数は、おおよそ5、6人といった所のようだ。



 ――へえ。そりゃすげぇ。そんな力が使えるんなら、どんな病気も怪我も怖くねえよなあ。


 ――そうだな。だが、それはまた後回しの案件だ。俺達の本命の探し物は……。


 ――わあってますって。大罪系スキル『強欲』の所有者を探す事だろ?


 ――ああそうだ。今話した『慈善』も凄まじい権能を持ったスキルだが、『強欲』はそれ以上に凄まじい代物らしい。聞く所によると、所有者の魔力を対価にするだけで、望んだものを何でも出せるとか……。


 ――うっひょお……! マジかそれ! 何でも出せるって!? 確かにそいつぁすげぇ! その『強欲』のスキルがありゃあ、金銀財宝も出し放題って事じゃねえか!


 ――そうだ。それに……戦に必要な物資全般や武具、消耗品なども、無尽蔵に用立てられる。私の主が望んでおられるのは、主にそちらのほうだな。だからこそ今現在、こうして手段を選ぶ事なく、『強欲』の捜索に血道を上げておられるのだ。


 ――はあ? 他所の国に戦争吹っ掛ける為に『強欲』探してんのかよ。やっぱ、お偉い方の考える事ってのは分からねえなあ。


 ――仕方ねえさ。やんごとない御方ってのはよ、俺達平民とは頭のてっぺんから爪先まで造りが違うのさ。

 つーか、なんでその『強欲』の持ち主が、8歳以下のガキだって分かるんだろうなあ。それもみなしごを当たるとか……。意味が分からねえよ。


 ――……。以前、主の前に現れた『強欲』の所有者は、齢10に至ったばかりの小娘だった。だがその小娘は、『強欲』の価値を理解できん馬鹿共によって、北の山に放逐された。もはや生きてはいないだろうというのが主のお考えだ。


 そして、『強欲』のみならず、一世代に1人しか所有者を見出さない希少なスキルは、自身を宿すに相応しい者を探して、人の間をうつろうモノであり、またそれでいて、前の所有者に比較的近しい場所で生まれた人間に宿りやすい、と伝承にはある。つまり――


 ――その気の毒なお嬢ちゃんがおっ死んで、『強欲』の所有者がいなくなった以上、レカニス王国かその隣国の僻地で生まれた別のガキに、『強欲』が引き継がれてる可能性が高いって訳っすか。


 ――そりゃ大層な話だな。つか、自分のお国の中は探したんですかい、そのやんごとないお方はよ。


 ――全ての都市や町村を探し終えた訳ではない。だが、現在めぼしい場所に生まれた子供に、その兆しは見られなかった。だからこそ、残りの国内の捜索と並行して、他国の辺境を捜索し始めたのだ。


 訊きたい事はそれで全部か? ならば、もうこれ以上余計な事には気を割かず、与えられた仕事を全うするよう努めろ。もし今後、目当ての子供を探し出せれば、お前達には望む通りの褒美を山と与えてやる。

 だが、仮に事が露見した時はどうなるか。分かっているだろうな?


 ――わ、分かってるって。そうカリカリしなさんな。今までだってバレやしなかったんだ、今度だって上手く捌けばバレやしねえよ。な、なあ?


 ――あ、ああ。そうだな。ひとまずあれだ、シスターの方はそのままガキと一緒に連行して、そっちの女は適当な所に売り払っちまえば……。


 ――いや。念の為そこの女も連行する。『慈善』は、あくまで教会関係者が所有している可能性が高い、というだけで、他の平民は絶対に所有していない、とまでは言い切れん。……私は一度報告の為本国へ戻る。お前達はいつも通り、『移送』の準備を進めろ。いいな。


 ――へ、へい。分かりました……。


 その会話を最後に、人攫い達の中でも一番歳を重ねているとおぼしき男の声が途切れ、小屋のドアが開閉する音が場に響く。

 エフィーメラは耳にしか会話の中に出て来た話を反芻し、ただ内心恐怖に震えていた。


 あの男達が言っていたスキル『強欲』とは、確か、姉のプリムローズが所有しているスキルだったはずだ、と思い出して。



 私とリトスを呼び止めたのは、エフィがいつも早朝に向かう牧場の近くに住んでいるおばあさんで、今は主に、日中配達先から回収されてきた、空のミルク缶や瓶を洗って牧場へ戻す、という仕事をしている人らしかった。


 歳のせいで昨今、日に日に朝目が覚めるのが早くなっているというおばあさんは、今朝も陽が昇る前に目を覚ましたらしい。


 無論、そうして早く起き出した所で、早々こなさねばならない仕事がある訳でもないおばあさんは、朝食を済ませるその前に、気まぐれに散歩に出たそうだ。

 そうして、歩き慣れた道を緩やかに歩いている最中。

 おばあさんは目撃した。


 大きな麻袋を荷台に押し込め、街の外へ向かって走り出す一台の幌付き荷馬車を。


 しかしその時おばあさんには、押し込められた麻袋の中身がなんであったのか全く察しも付かなかったし、誰かに知らせようとも思わなかった。

 ひょっとしたら牧場関連の人間が、なにか急ぎの荷を運んで行く所だったのかも知れない、と思ったのだ。


 だから、その場では特に何も騒ぐ事なく家へ戻ったのだが、陽が高く昇って周囲の人達が『人攫いが出た』、だの『牧場の若奥さんとシスターが消えたらしい』だのという話が耳に入ると、落ち着かない気分になってきた。


 もしかしたら、自分が早朝に見た幌馬車が、荷台に積み込んでいた麻袋の中身は人間だったのではないかと、そんな風に思えてきて。


 そして、一度思い浮かんで脳裏をよぎった疑念を捨てられなくなったおばあさんは、道々人に話を聞きながらこの宿にやって来た。

 この宿に、攫われた女性の身内が泊まっていると知って、自身の見た事を証言する為に。

 つまらない思い込みで遅きに失したかも知れないと、内心で震えながら。




 結論から言うと、おばあさんが見た幌付き荷馬車はやはり、件の人攫い達が使っていた物と見て、間違いなさそうだった。

 おばあさんから聞いた情報を急ぎ警備隊の人達に伝えた所、情報の信憑性が高いと認められ、即座に本格的な捜索隊と討伐隊を編成しよう、という話になったのだが、規模の大きな部隊を編成するとなると、少々時間がかかる。


 だが、そうとなると当然、部隊編成の間に、人攫い共にエフィ達を連れてトンズラこかれる危険性も出てきてしまう。

 そんな事になっては一大事、という訳で、ひとまず私はリトス、シエル、シエラと一緒に、その場で急遽編成された斥候隊の人達と、荷馬車が走り去ったという方角に向かってみる事になった。


 実の所、警備隊の人達は当初、私達が斥候隊について行く事に難色を示してたんだけど、リトスとシエルが村の猟師会に所属していて、それなりに剣を扱える事と、私とシエラがちょっとしたスキル持ちだという事を告げると、無理をしない事を条件に、どうにか同道を許してもらえた。


 お手数おかけしてすみません。

 でも、力を持ってるのに何もせず、他人様の仕事を指咥えて見てるだけってのは、やっぱ精神的に辛くてモヤモヤするんです。



 街を出てしばらく進むと、道が二股に別れている地点に出た。

 向かって右はレカニス王国の国境に続く道で、左は西にある別の国の国境へ続く道だ。

 無論、こんな所で呑気に「さて、人攫いはどっちに行ったんでしょ?」…なんてグダグダ迷ってる暇はないので、ここはサクッと二手に分かれて捜索を続ける。


 まず、6人で出て来た斥候隊を3人ずつに分け、そのうち私とリトスは右のレカニス王国側へ向かう小隊に、シエルとシエラは、左の別の隣国がある方へ向かう小隊について行く事にした。

 なんか、シエラが強引にそういう割り振りにしたんだけど、理由は分からん。


 一方のシエルは不満タラタラで、色々と不満や文句を言ってたが、結局シエラに押し切られて左の道へ連行されて行った。左手首をガッチリ掴まれ、半ば引きずるように連行されていくその様たるや。

 つい頭の中に、ドナドナのメロディが流れたくらいだ。


 ていうか、村を離れてこっちに来てからというもの、なんやかんや言いつつずっとシエルと一緒にいてシエルの世話焼いてるし、あんまりシエルの傍を離れようとしないんだよね。シエラ。


 ……。これってもしかして、シエラは弟離れができてな――ゲフンゲフン。

 私は、ついうっかり口から零しそうになった言葉を慌てて飲み込む。


 いかんいかん。冗談でもそんな事言ったらシエラに睨まれる。

 シエラは頭の回転が速くて口も達者だから、下手に絡むとメンタルフルボッコにされてしまう。気を付けねば。


 ともあれ、二手に分かれて更に道を進む事しばし。

 やがて道から少し逸れた場所に、こぢんまりした林が見えてきた。

 街へ来る時には大して気にも留めてなかったが、今となっては怪しい場所に思える。


 素人の私が怪しいと思うくらいだ。当然斥候隊の人達も怪しいと感じたようで、ここから国境まではまだまだ先も遠いし、ここはこの林の中を調べてみよう、という話になり、林に近付いて行けば案の定。

 林の中へと続いている、適当に地面を踏み固めて作ったとおぼしき狭い道には、真新しいわだちの跡がついていた。


 こいつはいよいよ臭いな、と思いつつ、音を立てないよう慎重に轍の跡を辿って進んで行く。すると、早々におばあさんから聞いた通りの特徴を持つ、幌付き荷馬車を発見した。

 そして、荷馬車の近くにある小さな小屋の中からは、複数の人の話し声が。

 ……。これって……本当に、ひょっとしたらひょっとするんじゃない?


 心の中でうそぶきうつ、更に小屋へと近づき、小さな明り取りの窓からそっと中を覗き込む。

 窓から見えたのは、椅子や机に座ってダベッている4、5人の男達。

 それから、縛られた上に目隠しされ、猿轡さるぐつわまで嚙まされたエフィと、見知らぬ女性(多分、一緒に攫われたシスターだろう)、そして、数人の小さな子供達が床に転がされている光景だった。


 縛り倒された挙句、目隠しに猿轡まで噛まされているエフィの姿を見た途端、人攫い共への怒りと、妹がひとまず五体満足である、という事への安堵が一緒くたに湧いて出て、ほんの数秒思考が止まった。


 しかし、今この場にはまだ、大きな問題が残されていると思い出し、どうにか再び頭を働かせる。

 すなわち、どうやってエフィ達を安全に助け出すのか、という事だ。


 なんせこの小屋、結構小さくて狭い。

 ベッドも水場も見当たらないが、広めに見積もっても8畳なさそうなサイズ感の、正方形の室内のど真ん中に、存在感のあるデカめのテーブルと椅子が設置されている事と、中に詰めてる人攫い共のガタイがいいせいで、余計狭っ苦しく感じる。


 ついでに言うなら、人攫いとおぼしき男達がいるのが室内中央で、エフィ達が転がされているのはそこより奥まった部屋の隅という状況もまた、実によろしくない。


 これでは、正面から乗り込んでもエフィ達を人質に取られ、動けなくなるのが関の山だろう。当然、奴らがエフィ達を連行しようとしている所を押さえよう、というのも無理筋。

 そんなもん、素人にだって分かる事だ。


 参ったな、こりゃ。

 ぶっちゃけ犯人と被害者の距離が近すぎて、にっちもさっちもいかないぞ、これ。

 斥候隊の人達もそれを分かっているからか、みんな苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 だけど、あんまり悠長に悩んでる時間もない。

 小屋の中の男共は、そろそろここから『荷物』を運び出そうか、なんて話を始めている。


 その言葉通り移送が始まってしまったら、今この場にいる頭数と戦力では、エフィ達の身の安全を確保しながら人攫い共の制圧に動くのは難しい……いや、まず不可能だ。


 かと言って、こっそり移送の後を尾けて救出の機を窺うなんてのは論外。

 ここから先には、ひたすらだだっ広くて平坦な、見渡す限りの大平原が広がるばかり。

 後を尾けた所で速攻見付かっておしまいだ。

 ああもう! 本当一体どうすれば……!


(……プリム、こうなったら僕が何とかするよ)


 引き続き音を立てないよう、明かり取りの窓の下にそろそろと座り込みつつ、内心で頭を抱えて唸る私に、傍らのリトスが小声で話しかけてきた。


(……へ? り、リトス? 何とかするって言ったって、どうやって?)


(魔法を使う。こんな狭い所じゃ攻撃魔法は使えないけど、それ以外に使えそうな魔法に、心当たりがあるから。

 ……今すぐ、斥候隊の人達と一緒に小屋の出入り口へ回って。小屋の中が騒がしくなったら、それを合図と思って一斉に踏み込んでくれればいい)


(で、でも……)


(お願い、僕を信じて! もう時間がないよ……!)


(……。うん。分かったわ。そこまで言うならお願いする。――斥候隊の皆さんも、お願いします)


(……分かった。正直、不安は尽きんが……今は問答している時間が惜しい。全員、出入り口へ回るぞ)


 私と斥候隊の人達は、姿勢を低くしたままコソコソと移動し、小屋の出入り口付近に張り付く。

 リトスは一体どうするつもりなんだろ。

 ていうかリトス、魔法系統のスキルなんて持ってたっけ?


 内心色々と考えていると、突然小屋の中から何かを蹴倒すような派手な音と、人が倒れ込むような音が立て続けに聞こえてきた。

 よく分かんないけど、これがリトスの言ってた『合図代わりの音』か!?

 よっしゃ行くぞ! 女は度胸だ! 突撃!


 斥候隊の人達とほんの一瞬顔を見合わせ、私はいの一番に、小屋の出入り口にあるドアを思い切り蹴破る。

 するとまあ、なんという事でしょう。

 人攫い共は1人残らず、魔法でできた水の球で頭部をすっぽり覆われて、息ができなくなって藻掻いていた。


 結構やり口えげつないな。リトス君。

 しかし、この状況下なら最適解に近い撃退法だとも言える。

 とってもグッジョブです。


「成程、水魔法か! こいつはいい! よし、今のうちに1人残らず気絶させてふん縛れ!」


「おう!」


「了解!」


「分かりましたっ!」


 私は、斥候隊を仕切っている男性の指示に従って、手近な場所に引っくり返ってジタバタしてる、人攫いAのみぞおち部分に思い切り蹴りを入れる。

 なんかヤクザキックみたいになっちゃったけど、この世界にはヤクザなんていないし、気にしない方向でお願いします!


 まあ、なにはともあれ、こうして私達は、リトスの奥の手を借りた電光石火の突入によって、人攫い共を1人残らず制圧・捕縛し、無事エフィ達を無傷で取り戻す事に成功したのだった。




 絶対にこの場から逃げ出せないよう、人攫い共の身体をガッチガチのグルグル巻きに縛り上げた私達は、斥候隊の1人が上げてくれた連絡用ののろしに気付き、街から増援が来てくれるのを待つ間、拘束を解いたエフィ達を小屋から運び出し、林の外で待機していた。


 どうやら人攫い共は、エフィ達を厳重に拘束するだけでは飽き足らず、薬まで嗅がせていたようで、揺さぶって呼びかけても軽く叩いてみても、誰1人目を覚まさない。

 呼吸や脈はみんな正常だから、大丈夫だとは思うけど、街に戻ったらまず病院に運ばなくちゃいけないな。


「本当、今回はエフィーメラさんも災難だったね。無事に助け出せてよかったよ」


 空を見上げながらぼんやりしていると、横からリトスが、やおら声をかけてくる。


「あ、うん。ホントそうよね。結婚式の翌日に人攫いに遭うだなんて、普通あり得ないわよ。これで無事じゃなかったら、私こいつらに何してたか分かんないわ。

 ……所で、話変わるんだけど、あんた一体いつの間に水魔法なんて覚えたの?」


「あれが使えるようになったのは、ついこの間。実はあれ、『覚えた』んじゃなくて、スキルの権能で『写し取った』魔法なんだ。――プリムは僕が持ってる大罪系スキルの事、覚えてる?」


「え、ああうん。確か『嫉妬』よね? ……あ、そっか、『嫉妬』には、他の人のスキルを写し取る権能があったっけ。じゃあさっきのは……」


「そう。猟師会での訓練中、サージュさんが使って見せてくれた魔法を、そっくりそのままコピーしたものだよ。

 まあ、コピーと言っても、何度か使って慣れてくれば、ネックだった魔力の消費量も減ってくるし、より明確な指向性を持たせたり、魔法効果自体を分割して効果範囲を広げたりもできるようになるから、それなりに使い勝手はいいよ」


「そうなんだ。……あんたが持ってるスキル、結構いいよね」


「……そうかな。でも『嫉妬』だよ? 人を妬んだり、羨んだりする気持ちを力に変えるなんて、個人的にはなんか、あんまり気分良くないんだけど……」


「字面だけ見ればそうかもね。でも、あんたはただ人を妬んだり羨むだけで終わらないで、ちゃんとその感情を、努力で自分の血肉に変えて、人を助けたり、守ったりする為に使ってるじゃない。

 私個人の意見だけど、そういうの、なんかちょっとカッコいいなって思うわ」


「そっ……、そそ、そう、かな?」


「うん。私はそう思う」


「……。そっ、か。……ありがとう。お陰で、自分の力を今までよりずっと、もっと前向きに捉えられた気がするよ」


「そう? それは何よりだわ。これからもよろしくね、リトス。頼りにしてるから」


「……っ、う、うん! 任せておいて! そのっ、これからも君は、君の事は、僕が守るから……っ!」


 リトスは真っ赤な顔をしながらも真剣な表情で、力強くそう言い切る。

 私を大切に思ってくれるのも、自分の力に意義を見出して張り切ってくれるのも嬉しい。

 けど、あんまり頑張り過ぎたり、力み過ぎて怪我とかしないように気を付けて欲しい。

 私だって、リトスを大切に思っているんだから。

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