隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】
【第三章完結】第171話 エピローグ⑤ ~この気持ちの答えは……?~
【第三章完結】第171話 エピローグ⑤ ~この気持ちの答えは……?~
ビュウウウゥゥゥッ
二人の耳に風の音が響き渡る。
冷たい風に冷やされて思わず身震いする二人。
もう五月とはいえ夜は風も強く気温も低い。
無意識の内にただでさえ近かった二人が更に距離を詰める。
「……誘っておいてなんだけどさ、そろそろ本当に帰らないか?」
「……うん。さすがにもう遅いしね」
少し未練を残す怜の声に、同じように未練を持って桜彩が返す。
そしてお互いの顔を見てニコッと笑って頷くと、共に一歩目を踏み出す。
「少し寒いかな?」
「うん。でも怜と繋いでるおかげで手は温かいよ」
「ああ。俺もだ」
もちろん先ほどからお互いに繋ぎ合っている手はそのままだ。
二人共何を言うまでもなく、お互いにこの繋いだ手を離すつもりはないことは分かっている。
少し冷える中、お互いに繋ぎ合っている手から感じる温かさ。
まだ少し冷たい風が吹きつける中、二人は寄り添い手を繋ぎながらアパートへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……着いちゃったな」
「……うん。もう着いちゃったね」
アパートの前にたどり着いて足を止める二人。
時刻は既に二十二時を過ぎており『もう』等と言える時刻ではないのだが、二人にとってこの幸せな時間が終わるのは本当に辛い。
「……でもさ、まだ俺達の部屋までは少しだけあるよな」
「……うん。まだ少しだけ、デートを楽しめるね」
「……そうだな。家に着くまでがデートだからな」
「……うん」
そう言って微笑み合いながら上を見上げる。
目に映るのは二人がそれぞれ暮らす部屋の玄関。
そこが今日のデートの終着点だ。
「それじゃあ桜彩。中に入るか」
「うん」
そう言って二人は手を繋いだままエントランスから中へと入っていく。
オートロックの自動ドアを開ける為にポケットから鍵を取り出す怜。
当然その鍵には桜彩とお揃いのキーホルダーが付いている。
それを使ってオートロックを開けてエレベータのボタンを押す。
「ふふっ」
エレベーターが降りてくるまでの間、桜彩が鍵を持っている怜の左手を見て微笑む。
「どうしたんだ?」
「あ、うん。そのキーホルダーって私達のお揃いでしょ?」
桜彩もキーホルダーの付いた自室の鍵を取り出す。
怜がトラウマを乗り越えた後、二人で送り合ったキーホルダー。
桜彩は怜がトラウマを乗り越えた記念に。
怜は桜彩との友情の証として。
「他にも私達って色々とお揃いの物ってあるじゃない?」
「ああ。二人で買ったカップとかな」
「うん。でもさ、カップはそれぞれ自分の物を買ったわけだからさ。だから私達がお互いに送り合った物って昨日まではこのキーホルダーだけだったでしょ? でも、今日またお互いに送り合ったお揃いの物が増えたよね」
そう言ってキーホルダーを持った手を胸元のネックレスへと伸ばす桜彩。
同じように怜もネックレスへと手を伸ばす。
「そうだな。二人のデートの記念に」
「うん。二人のデートの記念に」
笑い合いながら、到着したエレベーターへと揃って乗り込む。
「こうやってさ、二人の思い出が形になって増えていくって素敵だよね」
「ああ。絶対に大切にするよ」
「うん。私も大切にする。明日からもこれを着けていくね」
「俺も着けるよ」
「ふふっ。いつもお揃いだね」
「そうだな。いつもお揃いだな」
エレベーターが二人の住む階へと到着する。
二人はゆっくりと、これまで以上にゆっくりと自室までの通路を歩き始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあな。おやすみ、桜彩」
「うん。おやすみ、怜」
そう言って自室へと入っていく――わけでもなく、二人でそれぞれの玄関の前に立ったまま固まってしまう。
「…………」
「…………」
何を言うでもなくお互いの顔を見て笑みが零れる。
「えっと…………」
「うん…………」
明日からは再び学園が始まる。
もう夜も遅いし早めに休んだ方が良い。
そんなことは二人とも充分すぎるほどに理解はしている。
「今日のデート、本当に楽しかったよ」
それが怜の正直な感想。
その楽しさを表現する言葉は数あれど、余計な修飾をせずにそのまま伝える。
「うん。私も今日のデート、凄く楽しかった。誘ってくれてありがとね」
「それなら俺も。俺の誘いを受けてくれてありがとう」
「ふふっ」
「ははっ」
お互いの言葉に二人で笑い合う。
「お互いにお礼を言い合うってのもなんだか妙な感じがするよ」
「お互いに謝り合うよりも遥かに良いだろ」
「そうだね。相手に申し訳ない気持ちを持ち続けるよりも、お互いに感謝してる方が素敵だと思う」
「ああ。俺もそう思うよ」
そして二人で笑い合ってそれぞれの部屋の鍵穴へと鍵を差し込む。
それに取り付けられたお揃いのキーホルダーを見てふふっ、と笑い合う。
「それじゃあな。今度こそおやすみ」
「うん。おやすみ」
今度こそ玄関のドアを開けて入っていく。
これで本当に本日のデートが終了した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう諦めていた。
この先、他人と深く関わることはないのだと。
家族同然の兄のような存在である守ちゃんを除くと、俺が本当に信用、信頼出来る相手は陸翔と蕾華、ただ二人だけなのだと。
もちろん瑠華さんのようにある程度深い信頼関係を持っている相手は存在している。
光さんや望さん、あの二人を誠実な人だと認識している。
でも、そんな彼らが相手であっても俺はどこか一線を引いて接していた。
それでも良いと思っていた。
本当に大切な二人、陸翔と蕾華が側にいてくれるのなら。
でも、今はもうそれじゃあ満足出来なくなってしまっている。
いつからだろう。
初めて出会った時は少し言葉を交わしただけだった。
それが隣の部屋に住むクラスメイトだと分かった。
クールに見えたのはあくまでも外面だけ、内面は決してそんなことはなく表情豊かで。
雨の日に偶然エントランスで顔を合わせて。
そして偶然瑠華が尋ねてきて流れで夕食を自室で一緒にすることになって。
食べることが大好きで。
仲良くなって、一緒に食事を作って食べるようになって。
学園以外では一緒に行動を共にするようになって。
そして俺にとってのトラウマを治す手伝いをしてくれて。
気が付けば陸翔や蕾華、そんな親友二人と同じくらい大切な相手になっていて。
でも――
陸翔と蕾華。二人のことは本当に大好きで大切に想っている。
でも、桜彩に対するこの想いはあの二人に対しての物とは明確に違う。
これは桜彩に対してだけの、特別な気持ち――
この気持ちの名前は今の俺には分からない。
でも……多分……この気持ちの答えは……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう諦めていた。
この先、他人と深く関わることはないのだと。
一番大切だった友達に裏切られた。
それ以来もう他人を信じられなくなってしまった。
逃げるように遠くへと引っ越して来た。
ここではもう誰も信じなければいい、そうすれば裏切られることもないのだから。
そんな風に考えた私は自分の殻にこもっていた。
でも、今はもうそんな私に戻りたくはない。
いつからだろう。
初めて出会った時は少し言葉を交わしただけだった。
それが隣の部屋に住むクラスメイトだと分かった。
最初に挨拶した時はそっけないただの他人みたいな印象だったけど、内面は決してそんなことはなくとっても世話焼きで。
ナンパされている私を助けてくれて。
雨の日に偶然エントランスで顔を合わせて。
そして偶然一緒になった竜崎先生と共に傘を返しに行ったら夕食に誘われて。
深夜に突然起こされたにもかかわらず、助けを求める私の元にすぐに来てくれて。
不審者の正体を知っても決して怒ることはなく、それどころか私の身の安全を喜んでくれて。
料理の出来ない私に色々と教えてくれて。
学園以外では一緒に行動を共にするようになって。
とても素敵な親友を二人も紹介してくれて。
彼と彼の親友二人、もう他人を信じないと決めていた私に大切な相手が三人も出来た。
そして私にとって大切な絵を取り戻す手伝いをしてくれて。
気が付けば今まで出会った誰よりも大切な相手になっていて。
でも――
陸翔さんと蕾華さん。二人のことも本当に大好きで大切な相手だ。
でも、怜に対するこの想いはあの二人に対しての物とは明確に違う。
これは怜に対してだけの、特別な気持ち――
この気持ちの名前は今の私には分からない。
でも……多分……この気持ちの答えは……
【後書き】
お読みくださりありがとうございました。
ここで第三章は完結となります。
第四章の開始は未定ですが、来週中には始められるようにしたいです。
以前にも述べましたが、当初この作品は第二章で完結させるつもりでした。
当初の予定では、第一章の後に第二章中編、後編をもっと簡単に書いて両片思いから両思いへと変化、そして第三章の高台での話を経て全編のエピローグというプロットでした。
しかし第一章を書いている時に、もっと書きたいストーリーが浮かび上がってきたので当初の予定を変更してエピソードを追加しました。
そのままの流れでノープロットのまま第三章へと突入し、何とか第三章も完結させることが出来ました。
この後、第四章へと話が進みますが、相変わらずのノープロットで書き進めることとなりそうです。
申し訳ありませんが、更新頻度が低下することをお許し下さい。
よろしければ感想等頂けたら嬉しいです。
仲良くなっていく展開が遅い、デート編が長すぎる、とかでも構いません。
また、面白かった、続きが読みたい等と思っていただけたら作品や作者のフォロー、各エピソードの応援、☆での評価、レビュー等頂ける嬉しいです。
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