第147話 迷子発見③
サービスセンターに到着すると、早速受付へと回り迷子の旨を伝える。
幸いなことにセンターは込み合ってはいなかったので手続きはすぐに終わった。
紗耶音が両親の電話番号を受け付けの人に伝えると、両親はここからかなり離れた所を探していた為に到着までに時間が掛かると回答があった。
「それじゃあ紗耶音ちゃん。パパとママを待っている間、お姉ちゃん達と遊んでようか」
「うんっ!」
桜彩の提案に嬉しそうに頷く紗耶音。
怜も桜彩もセンターに引き渡してはい終わり、で済ませるつもりは毛頭ない。
ここまで来たら両親と再会するところまで見届けるつもりだ。
センターの外にあるベンチに腰掛けて紗耶音と一緒に両親を待つ。
「ねえねえお姉ちゃん、お兄ちゃん。何して遊ぶの?」
「そうだねえ、紗耶音ちゃんは何して遊びたい?」
「え? うーんとねえ…………」
遊ぶといってもここには遊べるような道具など無いし、スマホゲーをやるのも違うだろう。
三人で少し考えていると、怜がベンチの周辺に自生しているシロツメクサに目を向けた。
先ほどセンターの人に確認を取ったところ、特にこれを摘んでも問題ないと聞いている。
「そうだな。それじゃあ花冠でも作ってみるか」
「花冠?」
紗耶音は始めて聞いたであろう単語にきょとんとして問い返す。
「そう、花冠。紗耶音ちゃんは知らない?」
「うん、知らない」
「桜彩は?」
「えっと、私は知って入るけど作り方は分からないな」
まあ花冠などめったに作る物ではないし、作り方を知らなくても不思議はない。
「怜は作れるの?」
「まあ昔作ったことあるからな。多分作れるだろ。ダメならスマホで調べれば良いし」
この情報化社会であれば、スマホ一つで花冠の作り方くらいすぐに調べられるだろう。
昔取った杵柄、という言葉もあるし、多分問題はないはずだ。
「ねえねえお兄ちゃん、花冠ってなーに?」
好奇心高く目を輝かせて聞いてくる紗耶音に怜はスマホに花冠の画像を表示する。
それを見せると紗耶音は先ほどよりも目を輝かせて食い入るようにスマホを見る。
「こういうのだな。ここに生えているシロツメクサで作れるんだ。紗耶音ちゃん、これを作ってみる?」
「うん! 作りたい!」
怜の問いに即座に勢いよく返事をする紗耶音。
やはりこの年頃の女の子はこういった物には興味深いようだ。
「桜彩も一緒に作るか?」
「ううん、私はいいかな。怜も二人に教えるのは難しいだろうし、私は二人が作るのを見ているよ」
「そっか、分かった。それじゃあ紗耶音ちゃん、一緒に作ろうか」
「うん! どうやって作るの?」
「まずはこのシロツメクサを何本か集めようか」
「分かった!」
即座にベンチから立ち上がって周囲に生えているシロツメクサを何本も採る紗耶音。
怜も同様に何本かシロツメクサを採っていく。
これに関しては桜彩も同様に二人を手伝ってくれた。
「採ったよー!」
ベンチの周りにはたくさんのシロツメクサが自生していた為、少しすれば多量に集めることが出来た。
それをベンチに置いて、その内何本かを手に取る。
「それじゃあ作っていくか」
「うん!」
「まずはこんな感じで長めの茎があるものを二本用意して」
「これ?」
怜が手に取ったそれを見て、紗耶音も集めた中から茎の長そうな二本を取り出す。
「うん、それでいいよ。それじゃあまずはこんな感じでシロツメクサの茎を重ねるんだ」
「こう?」
「うん。それをこうして」
交差させた部分を押さえながら、上の茎を下の茎に巻き付ける。
そしてそれを解けないように押さえて持つ。
「えっと、こう……?」
「上手上手。そしたら今度はね……」
これで合っているのか不安そうに聞いてくる紗耶音に問題ないと笑いかける怜。
すると紗耶音の方も笑顔になってくれる。
そして三本目も同じ手順で巻きつけていく。
「あっ!」
声を上げた紗耶音の方を見ると、三本目を巻きつけようとしたところで手が滑ったのか崩れてしまった。
手に持ったシロツメクサを悲しそうに見つめる紗耶音。
「大丈夫?」
「うん、ごめんなさい……」
「謝らなくても良いって。次はもうちょっとゆっくりとやっていこうね」
「うんっ!」
失敗したことに申し訳なさそうな顔をする紗耶音に、視線を合わせてにっこりと笑ってみせる。
すると紗耶音もすぐに笑顔が戻る。
「あ、桜彩。悪いけどこれを持っていてくれるか?」
「えっ? うん、別に良いけど」
途中まで編んでいた物を桜彩へと手渡して、紗耶音の花冠の方を見る。
先ほどよりもゆっくりとした手つきで茎を巻いていく紗耶音。
「あっ、ここはもうちょっときつく巻いた方が良いよ」
「きつく?」
「うん。ほら、こうしてね……」
紗耶音の巻いていたシロツメクサに手を添えてアシストする怜。
こうすれば先ほどのようにいきなり解けることにはなりにくいだろう。
「こんな感じ。分かる?」
紗耶音が委縮しないように笑顔を崩さずに優しく問いかける。
紗耶音はそんな怜の顔を見て、にっこりとした笑いを崩さずに嬉しそうに続きを編んでいく。
「お兄ちゃん、これで良い?」
「うん。上手に出来てるぞ。その調子で頑張ろう」
「えへへ。お兄ちゃん、ありがとう!」
花の咲いたような無邪気な笑顔とはこういった表情のことを指すのだろう。
こうして慕ってくれるのは怜にとってもなんだか嬉しい。
つい紗耶音の頭を撫でてしまう。
「えへへ。お兄ちゃん、もっと撫でて」
「はいはい。これでいいかい?」
「うんっ!」
頭を撫でられて嬉しそうににっこりと笑う紗耶音。
そして再び花冠を編んでいく。
怜も桜彩から作りかけていた物を受け取って続きを編んでいく。
そのままに二十本くらいを編みこんでいくとそこそこの長さになった。
これだけの長さになればもういいだろうと考えて、怜は一旦ストップするように声を掛ける。
「さて、もう充分長くなったね。それじゃあ今度はこれを繋げちゃおうか。ここからはちょっと難しいぞ」
「うん、頑張る!」
やる気に満ちた返事を返してもらい、長めの茎を取って先端と終端を紗耶音にも分かるようにゆっくりと繋いでいく。
余った茎も隙間に埋めていき、これで草冠の完成だ。
「わあっ、出来た!」
自分の手で作った花冠を嬉しそうに掲げて喜ぶ紗耶音。
「ねえねえお兄ちゃん、紗耶音が作ったこの花冠、上手に出来てる?」
紗耶音から花冠を受け取って不備がないかを確認する。
「うん。上手に出来てるよ」
「えへへ、やった!」
怜の返事に嬉しそうに答える紗耶音。
そして怜は紗耶音の作った花冠を頭に載せてあげる。
「はい、これで完成だね」
「ありがとうお兄ちゃん。ねえ、似合う似合う?」
「ああ、とっても似合ってるぞ。なあ、桜彩?」
「うん。その花冠、紗耶音ちゃんにピッタリだよ」
「えへへー」
嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せる紗耶音。
それを見て怜も桜彩も笑顔が浮かぶ。
「ねえねえ、写真撮って! あたしも自分の顔見てみたい!」
「うん。撮ってあげるね」
紗耶音のリクエスト通り桜彩がスマホを起動して花冠を載せた紗耶音を写真に収める。
「はい」
「わあ! とっても素敵!」
桜彩のスマホに映った自分の姿を眺めながら感嘆の声を上げる紗耶音。
嬉しそうに自分の頭に手をやってなんども花冠を触る。
そんなことをしている内にそこそこ時間が経過していた。
「紗耶音ーっ!!」
遠くから聞こえてきたその声の方へと顔を向けると、両親と思われる男女がこちらの方へと向かって来るのが見えた。
【後書き】
次回投稿は月曜日を予定しています。
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