第42話 姉(シスコン)の襲来① ~シスコンとクールさん~
【前書き】
現在、36~48話のストーリーを第三章の後に『if』という形で書き直しています。
これを書き直すにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。
今後、(おそらくですが)ifストーリーの方を本編へと組み替える予定ですのでそちらの方も読んでいただけると嬉しいです。
【本編】
「それで、いったいどういう事か、ちゃんと説明してもらうわよ」
桜彩の姉、葉月が妹に対して目を吊り上げながら問いかける。
「え、えっと……その……」
「まあいいいわ。こんな所に立ってないで、続きは中でするわよ」
葉月はため息を吐いて言いよどむ桜彩を一瞥し、合鍵で玄関を開けて中へと入っていく。
その後ろを桜彩が視線を落としながらゆっくりと続いて入る。
これから詰問されるであろう内容を考えるとリビングまでの足取りが重く感じる。
「さて、と」
葉月が手に持った箱を冷蔵庫の中へと入れて、リビングの椅子に腰を掛けた。
そしてまだ立ったままの桜彩を不機嫌そうに足を組んだまま見上げて
「ほら、あなたもいつまでも立ってないで座りなさいよ」
と対面の椅子を指差す。
桜彩がおずおずと座ったことを確認して、葉月がゆっくりと口を開く。
「で、どういう事?」
目が吊り上がっており、姉妹仲の良い桜彩に対して見るからに不機嫌そうなことが対面に座る桜彩にも良く分かる。
「ど、どういう事って何?」
恐る恐る聞き返す桜彩に、葉月は自分のスマホをテーブルの上に置く。
そこには先ほど桜彩から送られてきた写真が表示されている。
「決まってるでしょうが。たったの二週間で、完全に男に
「た、誑し込まれたって……」
「違うって言うの?」
「ち、違うに決まってるでしょ!?」
顔を赤くして立ち上がって否定する桜彩。
しかしその剣幕をものともせずに、葉月は写真が表示されているスマホを人差し指でトントンと叩く。
「それじゃあこれはどういうことよ」
「ど、どうって、ただエプロンをしてる写真じゃない!」
「ええそうね。『男から貰った』『誕生日プレゼントの』エプロンを嬉しそうに、それはもう嬉しそうに着ている写真よね」
「ど、どこから見てたの!?」
葉月の言葉に桜彩が慌てる。
ちょうど階段を昇ってきたところで鉢合わせたのだと思っていたのだが、今の台詞から察するに葉月はもっと前からその場にいたようだ。
桜彩の質問に葉月は片手で頬杖をついて呆れたように答える。
「あなたが隣の男の部屋から出て来た時からいたわよ」
「なっ!」
「エントランスであんたの部屋に連絡しても返事がないから合鍵で入ったのよ。部屋まで行ってチャイムを押しても誰も出ないし、しょうがないから合鍵で中に入ろうとしたら、隣の部屋からあんたが嬉しそうな顔をして出て来るじゃない。で急いで階段の方へ隠れたってわけ」
「それって最初からじゃないの!」
「そうよ。何か文句でもあるの?」
桜彩の指摘に対して『だから何?』という感じで答える葉月。
その言葉に桜彩が黙り込んでしまったのを見て、更に言葉を続ける。
「それだけでも驚いたってのに、話を聞いてみるとどうやら二人きりであなたの誕生パーティーをやったみたいじゃない。あまつさえそんなプレゼントまで貰っちゃって。大切な妹が慣れない一人暮らしで心配で様子を見に来たってのに、既に男に誑し込まれてるとは思ってもみなかったわ」
「た、誑し込まれてなんかいないから!」
真っ赤な顔をして葉月の言葉を否定する。
怜は断じてそのような人間ではない。
これまで怜の優しさに助けられてきた桜彩が、葉月を強い視線で真っ向から見返して反論する。
しかし、そんな桜彩を葉月は訝(いぶか)し気な眼で見返す。
「そう、それじゃああんたがあの男を誑し込んだわけ?」
「なっ! ち、違うよ! 私と怜さんはただのお友達だから!」
「へえ。ただの異性の友達とこんな時間に二人っきりで誕生日を祝ってもらって、更にプレゼントまで貰ったってわけ?」
「そ、それは……」
桜彩の言葉が弱くなっていく。
葉月の言っていることは桜彩にも良く分かる。
怜と桜彩の関係は、普通に考えればありえないような関係だと本人達も自覚はしている。
しかし、普通に考えればありえないだけで実際にただの友達なのだ。
桜彩の態度に葉月は呆れたように片手を額へと添えてため息を吐く。
「はあ……、やっぱり様子を見に来て正解だったわね。慣れない一人暮らしで色々と困った事が出て来るとは思ったけど、生活能力皆無のあなたの弱みを見事に付け込まれて誑し込まれちゃったわね」
「違うよ! 怜さんを悪く言わないで!」
「てか桜彩、あなた、さっきからなに名前呼びしてるの!? もうそんな関係なの!?」
「そんな関係って何!?」
「決まってるでしょうが! ……って、ま、まさかあなた本当にもう
ピロン
そう葉月が言いかけたところで桜彩のスマホがメッセージの着信を知らせる。
反射的に桜彩がスマホのロックを解除すると、そこには『大丈夫? 大声が聞こえるけど何かあった?』と怜からのメッセージが表示されていた。
それを見た桜彩が、自分のことを心配してくれているんだ、と少し嬉しく感じてしまう。
「何? 誰から?」
「だ、誰だっていいでしょ!? 葉月には関係ないじゃない!」
いきなり嬉しそうに表情を変えた桜彩を、目の前に座る葉月が訝し気な目で覗き込んでくる。
ここでもし桜彩が、隣の部屋の男の子です、などと答えてしまったら良くない方向に向かうのは明らかだ。
だがそんな桜彩の決意も空しく、桜彩の表情と態度から葉月はその相手が誰だか察してしまった。
「ああ、隣の男ね」
「…………」
これ以上ないくらいに的を射た葉月の指摘に桜彩は肯定も否定も出来なくなってしまう。
すると葉月が一瞬の隙を突いて素早く椅子から立ち上がり、対面で固まったままの桜彩の持つスマホに手を伸ばす。
「あっ!」
桜彩がそれに気づいた時にはスマホは桜彩の手を離れて葉月の手の中に納まっている。
慌てて取り返そうとするが、既に葉月は再び座ってメッセージの相手を確認していた。
「差出人は……『光瀬 怜』か。光瀬……怜……? まさか……?」
スマホに表示されていた怜の名前を確認した葉月が少し考えこむように首を傾げる。
「か、返して!」
そう桜彩が叫んで席を立つと、葉月はとりあえず考えるのを止めて桜彩へと向き直る。
「怜ってさっきあなたが呼んでた相手の男の名前よね」
「だ、だから葉月には関係ないでしょ!?」
「関係あるわよ。私の大切な妹を手籠めにしてくれちゃって……」
「だから怜さんとはそういう関係じゃないって言ってるでしょ!」
ヒートアップする桜彩を尻目に葉月は桜彩のスマホ画面へと指を伸ばす。
スマホのロックは先程桜彩が触った際に解除されたままなので葉月が自由に操作出来る状態になっている。
「はあ、もうあなたが相手じゃ話にならないわね」
「ちょっと、何してるの!?」
不機嫌そうに桜彩のスマホを操作している葉月に対して桜彩が声を荒げる。
しかし葉月はそんな桜彩を軽く一瞥すると、たった今メッセージを送ってきた相手の通話ボタンを押す。
『もしもし?』
電話口の向こうから聞こえてくるのは当然のごとく怜の声。
「ちょっと葉月、やめてってば!」
抗議する桜彩の声を完全に無視して葉月はその通話相手へと返答する。
「もしもし? 私は桜彩の姉だけど、話があるから今からそっちに行くわね」
『……………………へ?』
数秒ののち、電話口の向こうから何とも間の抜けた声が返ってきた。
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