生還論

作家:岩永桂

第01話 精神病棟生涯幽閉時間

生還論 

第01話 精神病棟生涯幽閉時間

生きて還る気なんて無かった。

それでも、痛みに浸食された肉体は、アスファルトにうずくまる俺に

暖かい毛布を連想させる。

疼痛が凌げないなら、せめて安住の温もりを。


左腕を切り裂いて、腰部をコンクリートブロックと接触させた肉体は

生命エネルギーの96%以上を体外に吐き出していた。


いつ絶命してもおかしくはない被ダメージだ。

そんな屍が、暖かい毛布だ?


俺は4%の生命エネルギーで実家のインターホンを押し

助けて欲しいことを親に告げた。


かかりつけ医にアバウトに傷口を縫合されて

総合病院で体温確保。

5日後には精神科への転院準備が整った。

死に掛ける=精神科と言う等号は短絡的にも思えたが

総合病院の空きベッドは少ないし

激痛による幻覚を見続けた俺は、不気味な呻き声を上げ続けた。


5日後に精神科に搬送されたら

ベッドを取り囲むように看護師が集められ

自傷の酷い版で息も絶え絶えな患者を

物珍しそうにしばらく観察していた。

俺は独特の症状で

左腕が燃えるように熱かったから

自力でギブスを外したのだが

(……これどうやって元戻すん?)

と言う独り言が確実に聴こえた。

腰部骨折は一生車椅子生活を連想させたので

俺は自宅に還る画がまるで描けなかった。

精神病棟生涯幽閉時間が、ゆっくりと流れてゆく。

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