第5話ライリーと裏路地の魔法使い.5
▲▽▲▽▲▽▲
「で、ココット何やってんだ、お前は」
こっそり転移したきたのに、目敏いご主人様の言葉に私は数センチ飛び跳ねた。
「いえ、何も……」
「嘘つけ。ライラックの匂いがする。魔術を使ったあとのお前の身体からはいつもその匂いがするのを俺が知らないとでも?」
うっと言葉を詰まらせると、容赦ない鋭い視線が飛んでくる。魔術はつかえないのに、この瞳は何でも見抜くのが不思議だ。
この国で魔術が使えるものは片手の指ほど。私もその一人だけれど使えるのは容姿を変える擬態の術と転移だけ。しかも使ったあとには独特の香りが残るから実践的ではない。
普段はご主人を護衛するため、学園の使用人に扮していて。その時ついうっかり怪我をした私に優しくしてくれたのがライリーさんだった。
そのライリーさんが泣きながら廊下を走るのを見て、後から教室から出てきたご主人様に話を聞き、おおよそのことは理解した。
窓から外を見れば、裏門を出るライリーさんが見えて。心配して跡をつけたらよろよろ覚束ない足取りで怪しげな路地に入っていく。
このままではよからぬ輩に絡まれるのではと、占い師に化けて上手く話を合わせ、転移魔術で校庭まで送り届けたのだけれど。
「何がうまく話を合わせただ。ライリーはクロードが魔術にかかったと勘違いしていたではないか」
あれ、途中から声にでてましたか。
「そうなんですよね。何故か話を合わせているとそうなっちゃって」
「そうなっちゃってじゃない。お前のせいであの二人は拗れたのだろう」
ま、確かにそうかもしれませんが。
悪気はなかったんですよ、と膨れっ面で抗議を表す。
そんな私を横目にご主人様のお小言はまだ続く。
「だいたい、あの解毒の魔術はなんだったんだ? 朝露に薔薇の花? 出鱈目すぎだろう」
「思い込みには思い込みで対応すべきかと。とりあえずきっかけがあれば何とかなるんですよ、あーいうのは」
「なんだその根拠のない推測。よくそれで上手く行ったな」
分かってないな、ご主人様。きっかけを作るのがどれだけ大事か。世の中の大半の運命は小さなきっかけから始まるのですよ。
「全くお前は
「でも、ご主人様の発言も誤解の一つだったのですよ?」
ご主人様が『その言葉と一緒に本音を伝えたらどうだ』なんて言うから、ライリーさんは婚約破棄されると不安になったわけで。
「あれはクロードのことを思って言ったんだ。俺に非はない」
ご主人様だけずるい。
それなら私にも非は無いと思うのだけれど。
むしろ誤解を解いたのだから褒めて頂きたい!
あっ、そうだ。思い出した!!
これをご主人様に見てもらおうと思っていたのだ。
「へへっ、ご主人様、見てください。私、本になったんですよ」
でん、と『裏路地の魔法使い』の本を目の前に突きつけると、はぁ、と大きなため息をしながらも受け取ってくださる。
渋い顔でパラパラとページを捲るご主人様のために、私は甲斐甲斐しくお茶をいれてあげよう。
「……何かを待っているようだが、褒めてはやらんぞ」
「ご主人様は素直じゃありませんからね」
『裏路地の魔法使い』は私がご主人様の命を受けて考えたこと。
それがこんなに有名になるとは、予想外。
「なぁ、俺がお前に命じたのはこういうことだったか?」
「ざっくりとその線で間違いないかと」
「俺にはそもそもの方向性が間違っているとしか思えないが」
そう言いながらも唇の端が少し上がっていますよ。
大丈夫、言わなくても私は分かっています。
ご主人様が内心私を自慢に思っていること。
ね、そうでしょう、ご主人様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます