点滅
西坂
ロボット
荒廃した星には少年とロボット以外はおらず、二人はこの星の最後の住人だった。
星の街々は荒廃しているだけでなく、大気中の空気は汚染され、毒々しさが漂っている。
過酷な環境下の中にもかかわらず、少年は生き延びていた。
一方、ロボットの方は外装が錆びていて、体を構成する諸々の部品にはガタがきていた。
かろうじて健全なのは規則性もなく目が赤く点滅する機能だけで、他は動くことはない。
しかし少年にとってロボットは大切な存在だった。
不規則に目が点滅するたびに、自分は一人ではないと教えてくれているような気がした。
だからこそ少年は、ロボットが完全に機能停止しないように、毎日メンテナンスに使いそうな部品を探しに行っていた。
荒廃した街々には、かつての文明が生み出した金属物がたくさんあった。
それらの中にはボルトや銅板などの汎用性が高いものから、少し加工するだけで部品になりそうな鉄くずなど様々な物があった。
少年はそれらを拾い集め、ロボットに移植していた。
部位ごとに適切な部品を移植したり、器用に鉄くずを加工し、ロボットが機能停止しないよう奮闘していた。
そのおかげでロボットは機能停止することなく、不規則に目を赤く点滅させる。
ありがとう、ありがとう。
目の点滅が少年にそう訴えかけているのかもしれない。
しかし、ロボットがそれ以上動作することはなかった。
どれだけ丁寧に手間ひまをかけても、ロボットの体が動くことはなかった。
あくまで目の点滅にとどまったが、荒廃した世界で生きる希望にはそれだけで十分だった。
部品や鉄くずを拾い集める日々が何年も続いた頃。
次第に部品や鉄くずが見つけにくくなっていた。
それは日を増すごとに深刻になった。
そしてとうとう少年は部品や鉄くずを見つけられなくなった。
どこをいくら探しても使えそうな物や加工できそうな物はなかった。
探し尽くしたのだ。
それに伴い、ロボットの目が点滅する回数が少なくなってきた。
なんとかして最悪の事態を防がなくてはならない。
少年はおもむろに先端の鋭い鉄片で自分の脇腹を刺した。
しかし少年の脇腹から血は流れず、鉄片は脇腹に深く入り込んだ。
そのまま鉄片をぐりぐりと動かすと、少年の脇腹から肌色のプレートが崩れ、機械部分が剥き出しになった。
そして逆の手で剥き出しになった箇所から、いくつかの部品を引き抜いた。
導線が絡みついたが、力任せにそれを引きちぎった。
少年は引き抜いた部品を全てロボットに移植した。
しばらく作業を続けると、不意にロボットの目が赤く点滅し始めた。
その頻度は少年の作業が進むにつれて増し、ロボットは以前と同じように健全に目が赤く点滅するようになった。
◆
大方の部品を引き抜いた少年はもう動かなかった。
横たわった少年の脇腹からは導線が流れ出ていた。
少年は自分の生きがいを貫き通した。
ロボットは部品のほとんどが新調され、以前と比べて真新しくなった。
不意にロボットの手がピクリと動く。
それを合図にロボットはゆっくりと起き上がり、上から機能停止した少年をしばらく見つめた。
するとロボットは少年の隣に座り込み、目を赤く点滅させた。
いつもより多く、目は赤く点滅している。
ロボットは少年の手から鋭い鉄片を拾い、それで自分のボディーを躊躇なく刺した。
そして逆の手で体内の部品を引き抜き、それを少年の体に移植していった。
部品は少年の体にピッタリとハマり、作業は流れるように進んだ。
少年の体が再生されていくにつれて、ロボットの目は何度も赤く点滅していた。
ロボットの体から徐々に部品がなくなっていった。
けれどもロボットはどこか嬉しそうに見えた。
少年の顔は目の点滅でチカチカと赤く照らされていた。
点滅 西坂 @nishisaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます