女子の相談役をしたら、いつの間にか病んだ彼女候補を量産していた件

まちかぜ レオン

第1話 「相談役」は誘われる

 誰かに話を聞いてもらいたいのなら、聞き役に徹した方がいい――というのが、女子の「相談役」を務めてきた自分の実感だ。


 相談役というのは、俺――安田やすだ誠一郎せいいちろうのことだ。


 やることは単純。困った人がいれば話を聞く。それだけだ。


 どうして相談役となったか。始まりは自然なものだ。同姓からの相談を受けるうちに、次第に評判が立った。女子にも話題が広がっていき、いまや女子からの恋愛相談が主、という状態である。


 話を聞く立場上、恋愛事情には精通している。最低な浮気、同性間での牽制、妬み嫉みの応酬……と、恋愛の負の側面を抱え込んでいる。


 キラキラとした女子の裏側まで見られる立場ではあるが、俺は陽のグループに属していない。イケメンでもなければ、容姿を補う積極性もない。


 要するに、俺は都合のいい相談相手なのだ。口が堅く、情報漏れの心配がない。そして、弱ったところをつけ込まれる心配もない。


 置かれている立場を、なかば自虐的にとらえていた。それでも、誇りは持っていた。



「……で、どうして九条は、相談役の僕をクリスマスに呼んだの?」


 きょうはクリスマス。二十五日。恋人たちのためにあるような日。


 相談は受けても、恋愛に無縁だと踏んでいた自分が、イルミネーションの会場に立っている。


「彼氏に振られたから。浮気されて、クリスマス直前にポイされたから」


 目の前で白い息を吐いているのは、黒髪と眼鏡が似合うクラスメイト。さきほどここにやってきた、僕を呼んだ張本人。


 九条くじょう紗夜さやである。


「こんな僕とかりそめのデートをして、慰めになるのかな」

「私が望んでいる以上に、なにか理由は必要?」


 悪戯っぽく笑う姿は痛々しかった。自分の傷を覆い隠してつくろっているだけだから。


 九条からは、何度か相談を受けていた。


『彼氏が本気で取り合ってくれないの』


 それが、最初の相談だった。熱烈な告白してきたのは男の方だったのに、すぐに冷たくなってしまった。


 九条は責任感が強く、真面目である。学級委員長の任を務めたり、生徒会に立候補したりと、周りに貢献したい気質なのだ。


 元彼氏は、尽くさないと不安になるようなちゃらんぽらんぶりを見せた。世話焼き気質のある九条は、その男によくも悪くもハマってしまったのだ。


 ……というのが、大まかな話。


「わかったよ。理由はどうであれ、『クリスマスって暇だったりする?』なんて思わせぶりなメッセージ、僕じゃなきゃ誤解するから気をつけなよ」

「もしも、誤解じゃなかったら、どう?」


 一歩詰め寄ってくる。上目遣いで黙って見つめてくる。


「よくないよ、そういうの」


 横に目線を逸らす。可愛い子を見るだけなら慣れている。シチュエーションがプラスされると、許容できる基準値を超えてしまう。


「振られた次の日にアタックしちゃう子って、悪い子なのかな」

「九条はきっと勘違いをしているんだよ。弱った心が、話し相手に恋心があると誤認させているだけで」

「なにも出来合いの感情じゃないの。前々から、安田くんを思っていたの」


 声のトーンが下がる。いつもの、快活そうな九条の姿はない。


 こちらに愛情を向けられるとは思っていなかった。ただの相談役と相談者の関係ではなかったのだろうか。


「きょとんとしないでよ」

「理解が追いつかない。まだ、腑に落ちないというか」

「皮肉な話だよね。灯台下暗し、かな。他人の恋はよく見えるのに、自分の恋はぼやけて見えている」


 近づきすぎた距離が元に戻る。乱れていた鼓動が落ち着いていく。


「ともかくきょうは、すべて忘れさせてほしいの。わがままだけど、お願い」

「……九条さんの頼みなら、断れないよ」


 都合のいい関係、という考えは捨てきれない。


 でも、いいか。


 釈然としない気持ちはある。それでも、せっかく一緒にいたいと九条さんがいってくれるのだ。乗ってみて、考えよう。


 もしも、破滅的な願望ゆえに僕と一緒にいたいと思っているのなら、きっぱりはねのけるまでだ。まずは様子見としよう。



【あとがき】

本作はカクヨムコン参加作品です。


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