気付いたらクラスメイトの文学少女と図書準備室に秘密基地を築いていた
蘭
第1話 図書当番
「ねえ川瀬、図書準備室についてどう思う?」
クラスメイトで同じ図書委員の藤井がいきなり俺にそんなことを尋ねてきた。藤井は退屈そうな顔をして受付の机に肘をつきながら、図書室の風景をぼーっと眺めている。
「図書準備室? ……どう思うかって言われても、そもそも入ったことない」
俺は図書準備室について特に何も思い浮かばなかったのでそう答えるしかなかった。
「ま、そうだよね」
藤井は自分で俺に質問を投げかけておきながら、まるで俺がそう答えることをわかっていたかのように特にそれといった反応は見せなかった。
「図書準備室に何か思い入れでもあるのか?」
俺はつい、そう尋ねたくなった。
「別に思い入れとかはないよ。ただたまたま図書準備室の扉が視界に入ってなんとなく気になっただけ」
「なるほどな」
たしかに俺たちが今いる図書室の受付のところから図書準備室の扉は見ることができる。図書準備室の扉は図書室の端っこにひっそりと存在していた。こうして藤井に言われるまで、そこに図書準備室の扉があることなんて気にも留めていなかった。
————図書準備室。
しかしながら『図書準備室』という単語は馴染みがあるようでない、いまいち具体的なイメージのつきにくい単語だ。藤井の目のつけどころはなかなか興味深い。
「ちなみに、藤井は図書準備室に入ったことはあるのか?」
「ないよ。少なくとも高校に上がってからはね。小学校とか中学校の頃にはもしかしたら入っていたかもしれない。だけどもう覚えてない」
「そうか」
ここで俺はふと、受付の机に置かれていた鍵の束を手に取ってみる。
ジャランと金属の触れ合う音を鳴らしながら束になっている鍵をそれぞれ確認してみると、その中の一つに『図書準備室』と書かれた鍵があるのを発見した。
「もしかしてそれ、図書準備室の鍵?」
いつの間にか藤井は横から俺の手元を覗き込んでいた。
「ああ。図書準備室の鍵ってこんなところにくっついてたんだな」
「へぇ……」
藤井はしばらくその鍵をじっと眺めていた。どうやら少なからず図書準備室に対して興味があるらしい。
現在図書室にいるのは計4名。うち2人が俺と藤井で、もう2人の生徒は机で勉強をしている。つまり俺たち図書委員がこの受付の囲いの中でする仕事はほとんど何もない。……となれば、暇つぶしの一つくらいしてもいいだろう。
「行ってみるか、図書準備室」
俺は思い切ってそう提案してみた。藤井は目を丸くする。
「え、いいの?」
「どうせ暇だしな。それに興味あるんだろ、図書準備室」
「ま、まあ……」
「なら行ってみよう。俺も正直ちょっと興味あるし」
俺がさっそく図書準備室の鍵を持って立ち上がり受付の囲いの中から出ると、藤井も恐る恐るといった様子で俺に続いたのだった。
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