殺人のすすめ

雨宮 徹

殺人のすすめ

 ワイドショーでは常にある話題が取り上げられていた。「どのようにして警察にバレないように殺人をするか」。




「今日は犯罪心理学者の前園教授におこしいただきました。よろしくお願いいたします」



「こちらこそ、よろしくお願いします」



「さて、前園教授。ここ数年、検挙された犯罪者の割合が大きく変わりましたね。今まで窃盗、いわゆる万引きが半数を占めていましたが、ガクッと減りました。これはなぜでしょうか?」



「そうですね。窃盗の件数が減ったというよりも、殺人が増えたために相対的に割合が減りました。これは10年前に刑法が改正されたのが大きいですね」



 その先の流れは聞き飽きている。隆太はテレビの電源を切った。



 10年前、殺人罪は大きく改正された。隆太はその内容を暗記していた。



「刑法 第199条 人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。ただし、成人を殺しかつ1年の間に逮捕されなかった者は国より1億円を支給し、刑を免れる」



 勉強が苦手な隆太は、改正の理由を知らない。でも、小学生の義務教育では散々殺人罪について勉強させられた。家族や知り合いを殺すのはバレやすいだの、いかにすれば殺人がバレないのかなど。



 もちろん、ただ人を殺せばいいわけではない。殺人を犯し、それから1年経っているという客観的な証拠が必要なのだ。それも相まって家電量販店ではビデオカメラが飛ぶように売れていた。



 刑法改正により、子供の憧れる職業も変わった。憧れの職業1位は連続殺人犯。もちろん、殺人から1年以内にバレれば、死刑ものである。でも、そのリスクを背負っても今の子供たちにとっては憧れの存在なのである。



 世間もガラッと変わった。書店に行けば平積みされている本は「年収3億年の連続殺人犯、その手法を語る」などが多くなった。いまや、株への投資の時代は終わりを告げていた。本の内容も「土に埋めるというのは素人の考え。埋めた場合には白骨化するまでにかかる時間が増えるのでおすすめしない」など具体的だった。




 隆太にはどうしても殺したい人物がいた。どこに住んでいるのか、日々のルーティンも完全に把握している。今夜は9時ころに自宅に車で帰るはずだ。車庫の中なら人目にもつきにくい。隆太は殺人を実行すべく、レインコートを羽織って目的地に向かう。




 標的の自宅に着くと、隆太は車庫のそばに身を隠した。あと30分ほどで9時だ。戻ってきた奴をナイフで刺す。単純な方法だ。




 9時過ぎ。車庫のシャッターが開く。標的が返ってきた合図だ。急いで車庫の中に入り込む。あとは奴が車から降りてくるのを待てばいい。



「おい、そこにいるのは誰だ!」



 どうやら、奴にバレてしまったらしい。そんなことは問題ない。真正面から胸元にナイフを突き立てる。標的が苦しみ悶えながら倒れる。隆太の前に倒れたのは――犯罪心理学者の前園教授だった。



「くそ、何をしやがる」前園教授は口から血を吐きながら、叫ぶ。



「前園、お前は犯罪心理学者でありながら、世間をにぎわせている連続殺人犯なんだろ?」



「どうしてそれを……」



「どうやって知ったかはどうでもいい。さっさとくたばれ」



 隆太はそういうと何度も何度も前園を刺した。気づいた時には前園は息絶えていた。この後の行き先は決まっていた。




「お巡りさん、人を殺しました」



 隆太は交番を訪れるとそう言った。それからの流れは予想どおりだった。血まみれなのだから、殺人を犯したのは明白だ。その場で警官に逮捕された。




 前園殺しから数日。隆太は取り調べを受けていた。



「まさか、前園教授が連続殺人犯だったとはな。殺人者の心理を研究し過ぎておかしくなったのだろうな。それにしても、あんたはなんで自首したんだ? 警官の俺が聞くのもなんだが、1年バレなかったら1億円だぜ?」



 隆太の答えは決まっていた。



「俺は金を稼ぐために人を殺す奴とは違う。連続殺人犯を殺して被害の拡大を防ぐ。正義を執行したんだ。これのどこが悪い?」

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殺人のすすめ 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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