第7話 聖女??

 ――シコナが入社して2~3日後の話。


 私とリキとシコナは都に呼び出しを受けていた――。


 私達3人が呼び出された部屋に行ってみると――見知らぬ人物が部屋のど真ん中に1人。イスにちょこんと腰を下ろしていた。無論だが都ではない。都は都でその見知らぬ人物の傍らに佇んでいたからだ。

 そしてその人物の特徴だが――特筆すべき点は2つ。1つは日本人とは思えないナチュラルなピンクの髪。そしてもう1つは開いているのか閉じているのかわからないほど糸のように細い眼をしたキツネ顔の女性だった。

「来たか。皆、好きなところに座ってくれ」

 都は私達に気が付くと、それだけ言って真っ先に近くの机の上に腰を下ろした。イスがあるのにわざわざ机の上に座る辺り、本当に好きなところに座って構わないのだろう。……と各々判断したか、シコナは床に正座、リキはイスに座ったのを見て。私はリキの膝の上に座ってみた。

「ええっ!」

 リキの驚いた声が私の後頭部に飛んでくる。それを見兼ねたか都が。

「流石だなダイコン。好きなところに座っていい=リキの膝の上もアリ。その発想は嫌いじゃないがリキが困っているので座るなら私かシコナの膝の上にしろ」

「……おっ?」

 余計な事を言うな。自分だけにしろ、今度はシコナが狼狽えて変なところから声を出しているではないか。

「いや、これは軽いジョークとスキンシップだ。普通にイスに座る」

 という訳で私は軽いジョークを挟んでようやく席へと着いた。


 そして――。

「それで? もう先に訊いてしまうがその人は誰なんだ?」

 と私は謎のキツネ顔の女性をアゴで指す。すると都が。

「彼女の名は『マッスル・米田よねだ』。見ての通り華奢なボディビルダーだ」

 華奢なボディビルダーなど1行矛盾もいいところだが確かに華奢だな。どこに筋肉があるのかわからないくらい華奢なボディビルダーだ。まあ、それはそれとして。

「大根乱だ」

 私が名乗ると。

「長洲力です」

「熊野プー三と申す」

 リキとシコナも続く――が。

「彼女の事はヨネとかマッスル・ヨネと呼んでやってくれ」

 とこれを言ったのは都で、当の本人は黙礼をするだけ。

「……?」

 それに些かの違和感を覚えた私が頭に疑問符を浮かべていると。

「流石だなダイコン。もう察したか? まあ、どこまで気付いたかはわからんが、察しの通り彼女はある理由で口が利けないのだ」

 む? やはりか。まあ正確には無口なだけなのか喋れないのかまでは判別出来なかったが、そのどちらかだろうというのが頭を過ったのは確かだ。都はその機微を捉えたのだろう。

「なるほど。で、その理由とやらは訊ねても?」

 私の質問に都は大きく頷き。

「問題ない。彼女が私の友人であり、君達が我々の仲間になった以上は彼女の事は知っておいてもらいたいのだ」

 つまりは彼女の自己紹介ならぬ他者紹介、或いはウーバー力士紹介をしようという訳か。


 という事で都が紡ぎ出す。

「で。彼女が口を利けなくなった理由だが――。実は彼女は幼少の頃、凶悪な殺人犯によって目の前で両親を殺されたのだ」

『なっ!』

 私とリキとシコナの声が揃う。

「ではその時のショックでヨネは口が……?」

 私が問いかけると都はゆっくりと深く頷き。

「ああ、その通りだ。ヨネはその時のショックで喋れるようになったのだ」

 この言葉にリキとシコナがダイナミックに肩透かしを喰らっていた。なので私が――

「おい待て。それだとヨネは元々は喋れなかった事になるぞ……どういう事だ」

 すると都は反省の色など全く見せず。

「ん? あぁ、すまんすまん。言っていなかったな? 実はヨネは生来口が利けなかったのだが――。ショック療法というヤツだな。この出来事で普通に喋れるようになったのだ」

 それは先に言っておけ。まあ……不幸中の幸いというか怪我の功名というか、前向きな部分があって良かったとしておこう。だがそれはそれとして。

「ではそこから喋れるようになったとして、今喋れないという事は喋れなくなる理由がまた別にあったという事だな?」

 これに都は一つ頷き。

「ああ。実は彼女は異世界人でな……彼女が15、6歳の時に魔王と戦う勇者の1人としてこの世界に召喚されたのだ」

 異世界人……どうりでナチュラルなピンク色の髪をしている訳だ。

「だが――。そこでちょっとした問題が起きた。実は魔王を倒すために召喚された勇者は全部で359人いたのだが、本当に勇者だったのは358人でヨネは勇者召喚に巻き込まれただけのただの一般人だったのだ。恐らく勇者達と一緒にタクシーに乗っていたから巻き込まれたのだと私は推測している」

 所謂巻き込まれ系というヤツか。しかしそれは巻き込まれても仕方がない状況と言える。ただそれだとタクシーの運転手も巻き込まれたはず……いや、違うか。358人の勇者が全員タクシーの運転手だっただけの話か。

「まあ、そんな訳で呼び出されたのに勇者ではなかったヨネは仕方がなかったので冒険者となり、S級パーティー『片翼の天使の尿漏れ』で聖女をやって過ごしていた」

 ま た 聖 女 か !

「いや待て待て。仕方なしに聖女をするより勇者でなかったなら元の世界に戻れば良いだろ? 何故戻ろうとはしなかった? 戻れない理由や戻りたくない理由でもあったのか?」

「理由? 理由は簡単だ。帰りのタクシーが捕まらなかったのだ」

 あぁ、運転手がみな勇者になってしまったからか……それは仕方がないな。

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