第26話 何がゾンビ? ゾンビって何?

「よーし! じゃあ引くぞー! 虹か豚足かくつした。虹か豚足かくつした……」

 呪文のように唱えるキリンちゃんがスマホに前脚を添えてガチャを引く。続いて全員が一斉に画面を覗き込むも――残念ながら虹も豚足もくつしたもなし。


 そうして当たったのは「ゾンビ」だった。


「ま、まあ最初の1回はこんなモンだよねー。最初からそんな都合良くレアキャラ出ないよねー」

 うん。まあ若干棒読み気味だけどキリンちゃんの言う通り。最初っからレアキャラなんてそうそう出るワケない。10回の内に1回出ればまだいい方だし、まぁまだ回数はあるる。最初は星3のノーマルキャラ「ゾンビ」で問題なし。

 ゾンビは元のゲームにおいて1番登場する1番弱いクリーチャー。当然このゲームでも立場は同じなので、寧ろコイツを当てなきゃゲームが始まらないまである。


 ……という勝手な言い訳を脳内でしていると。

「良し……次こそはっ!」

 気合を入れ直したキリンちゃんが2回目に挑む。再びみんなで覗き込めば――

『おおっ!』

 虹が出たっ! 2回目で虹は幸先いいんじゃない? 期待に胸を膨らませていると画面に現れたのは――


 ――ゾンビ。


「なんで虹出たのに星3のゾンビなのっ!」

 キリンちゃんよりも先に私がツッコミを入れていると。

「いや違うぞつみれ……良く見ろ。こいつは『ゾンビ』じゃなくて『活きのいいゾンビ』。歴とした星5キャラだ」

 活きのいいゾンビッ! 普通ゾンビって死んでるからイキイキしてるワケないじゃん!

 と思いつつさっきのゾンビと見比べてみると――

「あ……ほんとだ。星5の方がちょっとだけ顔色いいわ」

 てかこれただの色違いじゃない? 星3と星5のキャラで色が違うだけってゲーム的にどうなの?

 と疑問を抱いているとグレーちゃん。

「因みに『活きのいいゾンビ』は全米で48番目の人気キャラですね」

 USA48!! またビミョーな順位ね。


 ってな事をしている内に。

「この勢いでもう1丁!」

 キリンちゃんがガチャを引く。背景には虹――だけどまた出たのはゾンビ。

「どうせこれも見た目はゾンビだけど星5だから『死にたてホヤホヤのゾンビ』とかなんでしょ?」

 私が先手をうって誰となしに釘を刺してみるも。

「違うな……これは『顔色の悪い山本さん』。顔色が悪いだけで普通の人間……公務員だ」

「人間なのっ!? 片目飛び出してるよこの人! 歯も殆ど抜けてるし!」

 私が小豆ちゃんに訴えかければ、小豆ちゃんは画面に視線を落とし。

「片目が飛び出し歯もボロボロとなればさすがの山本さんとて顔色も悪くなるだろう?」

 だから誰なの山本さんてっ! 逆にそれで顔色悪いだけで済むって超人公務員じゃんっ! ってゆーか言っちゃうと山本さんもゾンビと活きのいいゾンビの色違いじゃん!

「因みに『顔色の悪い山本さん』はフランスの2流シェフの間で人気ナンバー3ですね」

「えぇ……全米に比べてコミュニティ小さくない? ってか誰がどうやってその順位調査してるのグレーちゃん……?」


「よし次!」

 もう私達の会話が終わるのを待たずしてキリンちゃんが次を引く。

 確定演出はなにもなしで――ここで出てきたのは耳の尖ったセクシーな金髪の美女。

 私はスマホの画面を指差しながら。

「これってもしかしてエルフ?」

 グレーちゃんは一応だけどそもそもエルフだから仲間にエルフが居てもおかしくはない。というか私としては戦闘員Aのマスクを脱ぎ捨てたグレーちゃんの素顔がコレなんじゃないかな〜? と期待も込めて予想してみたんだけど――?

 と画面を覗き込んだ小豆ちゃん。

「ああ、これは星4の『エルフっぽいゾンビ』だな」

「これゾンビなのっ!」

 ゾンビになったエルフじゃなくてエルフっぽいゾンビ! その割には血色良過ぎじゃない?

「因みに『エルフっぽいゾンビ』は公務員の山本さんに人気が高いですね」

「実在したの山本さんっ!」

 あ、いや全国探せば普通に居るか……ただの公務員の山本さんなら。でもホントそれどこリサーチなのグレーちゃん?


「じゃあ最後!」

 キリンちゃんが自身最後の1回を引く。

「ん?」

「おっ?」

『キターーーーッ!』

 私とキリンちゃんの声が揃う。それもそのはずで今回はガチャマシーンの後ろに虹じゃなくて豚足が出てきたから。

「と、豚足が出たって事はグレーちゃん確定って事だよね?」

 私が意気揚々と小豆ちゃんとグレーちゃんに確認を取るも。

「確定だ。だがしかし今出たのは豚足ではなく『豚足っぽいゾンビ』だ」

「またゾンビかいっ! なんでそんなモン作るかな運営さん! 確定演出にフェイク混ぜたら確定演出じゃないじゃん!」

 私ががなると小豆ちゃんはヤラヤレと言った感じで肩を竦め。

「私に怒るな。私は運営じゃないぞ……ほら良く見てみろ。豚足にしては顔色が悪いだろう?」

『豚足にしては顔色が悪い』ってここだけ切り抜くと言ってる事がメチャクチャなんだけど……足なのか顔なのかハッキリして。

 と私が頬に汗を垂らしているとグレーちゃん。

「因みに豚足っぽいゾンビが出た時に確定するキャラは星5の『エルフっぽい豚足』です」

 どんな豚足ぅ? いや……もう説明いいや……。このゲームがクソゲーって事はわかったから……ガチャに関しては……。


 ――結局。このあと私はグレーちゃんもスカーレットお嬢様も当てられず、何回かリセマラしてグレーちゃんをようやく当てました。

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