第18話 レッドとブルー

 ――それは突然やって来た。


 まあ。正確には私の方があとから来たんだけどそれは置いといて――


 この日。私はたまには外でランチにしようと思い、昼休みに会社を出てどの店に入ろうかウロウロしている内に――結局いつものファミレスに入ってしまった。やっぱ慣れてるお店がいいよねーっと自分に変な言い訳をしつつ……。店に入ってから酷く後悔した。


 ――何故ならレッドとブルーが既に客として居たからである。


 なんで? 平日の昼間だよ? ブルーはともかくレッドって学校じゃないの? たまたま開校記念日とかだったとか?

 とアレコレ考えるものの幸いな事に向こうはまだ私に気が付いていない様子。なので私は2人にバレないようにコソコソ隠れながら、お店の人には悪いけど案内される前にレッドの後ろ側の席に着席した。ってかそうしないと私達ってここの超常連だから普通に案内されるといつもの席――つまりレッドとブルーが居る席に案内される。昼休みであんま時間ないし、さすがに平日まであいつらと一緒に食事をする気分じゃない。せめてキリンちゃんが居れば気が休まってお茶くらいなら付き合っても良かったけど、会社にキリンちゃんは連れてこれないからね……。

 んでお店の人の案内を振り切ってまでこの席を選んだのは――たぶん。たぶんだけどこの席は死角になっててレッド達に見つかり難いはず。そして私が居ない時にこの2人がどんな会話をしているのか個人的に興味があったので聴いてみたい……と思ったので選んでみた。


 ――ので早速聞き耳を立ててみると。


「ブルーよ。フト疑問に思ったのだが、ぶどうは英語でグレープ。つまりグレープは日本語でぶどうとなる」

「ふむ。当然ですな?」

「で、だ。そのぶどうが名の由来となっているグレープフルーツは、日本語にするとぶどう果物となるのか?」

 そんな事疑問に思ったの? マジレスすると固有名詞だろって話だけど、そうじゃなくても直訳しないで『ぶどうみたいな果物』とか『ぶどうッポイ果物』って事でしょう? 実の付け方からして。


 んだけども。

「確かに不思議ですな? ぶどうはそもそも果物なのにぶどう果物とは……? もしや我々が知らないだけでグレープスポーツやグレープ酢コンブといった物があるのかもしれませんな?」

 良かった〜安心した。こいつら私が居ないところでもバカだった。真面目な話とかしてたらどうしようかと思った。


 というところでブルーが続ける。

「……と。そういえばフルーツで思い出しましたが、この世界にはドラゴンフルーツと呼ばれるフルーツがあるのをご存知で?」

「いや、知らんな? 名前からしてドラゴンが守っている、ドラゴンを倒さねば手に入らない伝説のフルーツとみた」

 あんた達の世界だとそれが常識なんでしょうね?

「やはりレッド殿もそう思われますか? しかし聞いた話によると、どこでも売っているワケではないが探せば普通にスーパーや八百屋で売っているらしい……とのこと」

「本当か? 驚いたな……この世界の八百屋は普段からドラゴンを狩っているという事か」

「左様。レベル99の八百屋ともなれば大根でドラゴンを撲殺するのも容易かと思われますな……」

 なんでわざわざ商品だいこんで撲殺するかな? 八百屋とは思えない暴挙なんだけど。

「いや待てブルー。レベル99の八百屋ともなれば大根に炎を纏わせるくらい出来て当然。更にはその大根を自らの周囲に浮かせ、自動オート標的ターゲットに攻撃させる事も可能だろう。オマケに攻撃されても残像を残して攻撃をかわし『残像だ』とセリフを吐くくらいの事は簡単にやってのけるはずだ」

「た、確かに。となれば撲殺以外にもドラゴンを屠る手段は多様に持ち合わせていると……」

 うん。それ絶対八百屋より他に向いてる職業あるよね?


 ――と。

「……ん? いや待たれよレッド殿。我々は一つ大きな見落としをしているかもしれませんぞ?」

「見落とし? 一体なんのだ?」

「ドラゴンが守っているフルーツがドラゴンフルーツなのであれば……パッションが守っているフルーツがパッションフルーツなのでは?」

「パ、パッション! あのドラゴンをも一撃で葬ると言われている魔物かっ!」

 そうなのっ!? パッションフルーツのパッションって情熱って意味じゃない事は知ってたけど魔物だったの!?

 ってそんなワケあるかい……とは声に出して突っ込めないでいると。

「つまり俺達が見落としていたのは、八百屋はドラゴンよりも強いパッションを狩ってパッションフルーツを店に並べているという事……」

「左様。それ即ち八百屋の中には限界突破を果たしたレベル100の八百屋が間違いなく幾人か存在しているという事ですな」

「なるほど。レベル100の八百屋ともなれば長ネギでビリヤードをするなど朝飯前」

 それさっきよりショボくなってない? 私でも出来そうなんだけど?

「場合によっては限界突破八百屋の上の覚醒八百屋も存在しているかもしれませんな?」

「あぁ。覚醒八百屋ともなれば、意に介さずして川で泳いでいるウナギを素手で捕まえる事も可能だからな」

 もう八百屋関係なくない? 寧ろ魚屋レベル98とかじゃないのそれ?


 とアホな事ばっかりしていると。

「ドラゴンやパッション……そして八百屋の話で血が滾ってきたな」

「フフッ。奇遇ですな? レッド殿もですか?」

「という事はお前もかブルー。ならば話は早い……腹ごなしに俺達も一つドラゴンやパッションを狩って食後のデザート用のフルーツをゲットしに行こうじゃないか?」

「御意!」

 と返事をしてからの2人は早い。2人は颯爽とお会計を済ませると、どこに居るのか知らないけどドラゴンとパッションを狩りに店を後にする。私はそんな2人の背中をこっそり見送りつつ――


 本当アホだなアイツら……。まあいいや、私も早くお昼食べて会社戻ろ。

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