第3話 潜入捜査
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
俺の名前は馬喰(ばくろ)太郎。都市伝説ハンターだ。
俺はパンダの都市伝説を探るため、U動物園の近くに建つワンルーム物件を借りた。その部屋からパンダの檻と管理室が見える。俺の都市伝説ハンターとしての経験から、24時間パンダの檻と管理室を監視すれば何か情報が掴めると思っていた。
パンダは、開園時間は展示用の檻の中にいて、閉園時間を過ぎれば専用の管理室に移される。
俺は2週間ほどワンルーム物件からパンダの檻と管理室を監視していたが、特に動きがないまま時間だけが過ぎていった。
俺が2週間観察したところ、管理室に出入りしているのは数名の女性だけだった。
情報屋から聞いた肉屋はU動物園の入口で職員に品物を渡しているだけで、中には入っていない。ワンボックスカーのドライバーは車から出てこない。
俺はU動物園の職員を監視しようと思ったのだが、こいつが曲者だった。
その職員は管理室への受け渡しの時だけにU動物園に現れる。上下黒のスーツを着用していたが、左の胸元が膨らんでいたから拳銃を携帯していることが分かる。イヤホンマイクで常に誰かとやり取りしているから、俺の予想では公安だ。下手に動くと危険だから別の監視対象を探すことにした。
ちなみに、情報屋が言っていた肉屋は『肉のハ〇〇サ』だった。肉以外にも食料が運ばれていたのが見えたから、パンダのエサではなく某国飼育員の食料だと思う。
パンダが肉食かもしれないが管理室で食べているのであれば、確認のしようがない。
しかたなく、俺は毎週日曜日の閉園後にやってくる車を尾行することにした。俺がデリヘルだと考えている黒いワンボックスカーだ。
U動物園は警備が厳重で管理室に近づくことは難しい。関係者でさえパンダ飼育員には接触できないのだから、俺が潜入しても得られる情報は何もない。それよりも、U動物園の外の方がガードは緩い。少し金を払えば、情報を聞き出すことができるかもしれない。
俺は黒いワンボックスカーが発車すると50メートルの間隔を空けて尾行した。車はU公園を出た後、A葉原の商業施設の駐車場に入った。車からは若い女性が4名降りてきた。若い女性は目隠しをされている。女4人は外に出るかと思いきや、別のドライバーが運転する車に乗り換えた。今度はグレーのワンボックスカーだ。
グレーのワンボックスカーはH比谷公園の駐車場に入った後、さらに別のドライバーが運転する白いワンボックスカーに乗り換えて走り出した。その後、T都内にある高級店に入った。
「ここかー」
俺はこの店を知っていた。都内では最高級の店と言えるだろう。店の入り口にはパンチパーマの男性が立っていた。
今日は女性4人が店に出てこないかもしれないから、俺は翌日から潜入捜査をすることとした。
***
翌日、俺は勇気を出して店に飛び込んだ。
店の入り口で、俺は男性スタッフに尋ねた。
「この店で一番人気の子は?」
U動物園に入っていった4人の女性。望遠レンズを使って写真を撮ったが、夜だったのと目隠しをされていたからハッキリと顔が分からない。
何度も車を乗り換えてU動物園に行っていたことを考慮すると、U動物園の顧客は超VIP。一番人気の女性を指名していないはずがない。俺はそう考えた。
「それなら〇〇ちゃんですねー」
愛想良くスタッフは俺に言った。
「じゃあ、〇〇ちゃんをお願いします」
この日から俺の潜入捜査が始まった。
パンダの謎に迫る手掛かりは、今のところこの店しかない。金と体力が続く限り、この店に通い詰めることにした。
パンダの情報を得るために、俺はその店に1日2回通い詰めた。
男性なら分かると思うが、毎日2回風俗に通うのは修行・苦行……言うならば、毎日フルマラソンを完走するくらいの激務だった。
でも、俺は情報を得るために通い続けた。貯金と体力をすり減らしながら……
最初のうちは何の情報も得られなかった。でも、状況は急に好転した。
あれは通い始めて1カ月が過ぎたころだったと思う。
その日は〇〇ちゃんの機嫌が良くなかった。他の客なら分からないくらいの僅かな表情の違いだったが、既に60回以上通っていた俺は〇〇ちゃんの変化を感じ取った。
俺は〇〇ちゃんとかなり仲良くなっていたから、理由を尋ねた。
「今日はどうしたの?」
「わかる?」
「そりゃ、分かるよ。だって、何回きてると思ってるの?」
「そうね。ちょっと嫌なことがあって……」
「俺で良かったら聞くけど?」
〇〇ちゃんは少し考えてから俺に言った。
「昨日、VIPのお客さんに呼ばれたんだけど……」
――VIPということはU動物園だな……
俺は〇〇ちゃんの話を聞き逃さないように神経を集中する。
「そのVIPと何かあったの?」
「今まで何回か指名してくれた人だったんだ。だけど、急に私のことが気に入らないから「チェンジしろ!」と言い出した……」
「それは酷い話だね……」
「わたし、そんな扱いを受けたのが初めてで……」
〇〇ちゃんは落ち込んでいる。ここで〇〇ちゃんに信用してもらえれば、パンダの真実に近づくことができる。
「気持ちは分かるよ。俺だったらそんな言い方しない」
「太郎さんは優しいんだね。ありがとう」
「それで?」
「実は指定された場所に車でいったから、チェンジできる女の子がいなくて……」
「お店じゃなかったんだ。それは大変だね」
「うん、わたし、どうしたらいいか分からなくて……」
「それにしても、〇〇ちゃんを呼びつけるなんて、すごいVIPだね」
「私も詳しく知らない。マネジャーも詳しく知らないと思う」
「へー、どんなお客さんなの?」
「見た目は普通の人。ただ、ほとんど外国人だった」
「外国人が〇〇ちゃんを「チェンジしろ!」って言ったの?」
「違う。その人は日本人。あー、ムカつく!」
〇〇ちゃんは昨日の出来事を思い出して、感情をあらわにした。
もう少しだ。もう少しで〇〇ちゃんの信頼を得られる……
それにしても、俺は事前情報から某国飼育員だけが管理室にいると思っていた。
――パンダの管理室に日本人がいるのか……
俺は〇〇ちゃんからさらに情報を聞き出すことにした。
「ああ、本当に最低な奴だな。〇〇ちゃんに酷いことして」
「ありがとう。外国人はチェンジしたことない。前にいた日本人もチェンジしなかったな……。そんなこと言い出したのは、あの日本人だけ」
「じゃあ、その日本人は最近入ったんだ?」
「そうだと思う。2週間前から見かけるようになったから」
俺は〇〇ちゃんに取引を持ち掛けることにした。
「ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「俺はその日本人の情報を知りたいんだ。どこの誰か調べてくれないかな?」
「えぇっ? お客さんの情報を外にだすのはちょっと……」
「タダとは言わないよ。〇百万円でどうかな?」
「〇百万円?」
「どう?」
「うーん。やる……」
交渉は成立した。
〇百万円は大金だが、このままこの店に通い続けると俺の貯金が底をついてしまう。
それにしても、その日本人は大きなミスをした。
――女性を怒らせるとろくなことがない……
〇〇ちゃんからの情報を待って、俺はその日本人を調べるつもりだ。
そうすれば、パンダの都市伝説を解明できる!
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