天白あおいの3分で読めるラブコメ集
天白あおい
第1話 パイナップルピザ
「美味しい?」
目の前の女子に見つめられる。名前は小鳥遊。クラスメイトの大人しめの女子だ。あまり絡むことも無かったから意識していなかったが、近くで見ると猫を彷彿とさせるような可愛らしい顔立ちをしていて、少しドキドキしてしまう。ちなみに僕たちは学校帰りに、少しおしゃれなピザ屋でパイナップルピザを食べることになっていた。半ば強引に……
原因は今日の放課後、教室で友達と「料理に果物はないよなー」という話で盛り上がっているときだった。不意に視線を感じ振り返るとそこには小鳥遊がいて、有無を言わせぬ圧力とジト目を持ってここへ強制送還させられた。「食べたことないのに決めつけないで」そう言われると何も言えなかった。あと、友達はいつの間にか姿を消していた。
そして目の前にはチーズの上に乗ったホカホカのパイナップル。メニューの写真には写っていたベーコンが見当たらない。迷子になってしまったらしい。
「ベーコンは抜いたよ。ないほうが美味しいから」
まさかの発言に返す言葉が見当たらなかった。最後の希望が物理的に消えていたのだから。正直言って食べたくはなかった。が、目の前にいる女の子に期待のこもった目を向けられると、食べないわけにはいかない。恐る恐る一口かじる。
「美味しい?」
なんとも言えない味だった。美味しくはあるけど特段美味しいわけでもない。何といったものか困っていると、
「美味しい?」
再び訪ねてきた。距離が近い。
「お、美味しいよ」
嘘は言ってない。他のピザの方が美味しい気もするけど。
「でしょ!」
嬉しそうにそう言う小鳥遊。
「パイナップルとピザって合うんだよ! 美味しいの! あったかいパイナップルとチーズが合わさってめちゃくちゃ美味しくなるんだよ! チーズはあるだけおいしい!」
それはチーズが好きなだけでは?
そういうと満足したのか、自分の分のピザをとって口に入れる。僕より小さな一口だけど、その幸せそうな顔を見ると満足度は小鳥遊のほうが高そうだった。
「そうだ! 今週の日曜日空いてる?」
イメージとは逆の積極さに少し気圧される。
「空いてるけど……」
「じゃあ、今度はパイナップルバーガー食べに行かない? 美味しいお店知ってるの!」
今度はパイナップルバーガーらしい。少し悩んでから答える。
「いいよ」
「ほんと! やったー!」
嬉しそうにはしゃぐ小鳥遊を見ながら思う。この笑顔が見られるなら、休日の時間を割くのも悪くはないなと。
天白あおいの3分で読めるラブコメ集 天白あおい @fuka_amane
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