第2話 まさかの異世界転生
それにしてもこんな美少女が私だなんて未だに信じられない。おもむろに頬をつねってみたら、案の定とっても痛くて涙が滲む。
「お嬢様!何をなさいますかっ……」
せっかくの美しいお肌が!とあたふたする姿がとても可愛い…………とにかく自分は何者で、この女性は誰なのか理解する必要があるわ。
オリビアという名前にラベンダーピンクの髪、中世ヨーロッパのような部屋、ハニーブラウンの髪を1つに束ねている女性…………待って、心当たりがあるわ。ひとまず女性に自分の本名を聞いてみる事にした。
「ねぇ、私の本名って……」
「お嬢様のお名前ですか?私のような者が口にして良いのか迷うのですが……」と口ごもるのでどんだけ偉い人物なの……と思いつつ「構わないわ」と催促するとおずおずと口にしてくれた名前に仰天した。
「オリビア・クラレンス様です。」
「?!」
……………………そ、その名前にはとても心当たりがあるわ…………私が大好きだった恋愛ファンタジー小説に出てくる登場人物じゃない!!オリビアは確か悪役令嬢で、最後は処刑される運命なのよね…………。
病死する前の私の唯一の趣味が小説を読む事で、忙しい合間をぬって少しづつ読み進める事が大好きだった。特に大好きで読み込んでいたのが「トワイライトlove」という小説なんだけど、王子様が異世界からの聖女と共に世界を平和に導き、二人は結ばれるという王道の恋愛ファンタジー。
王子様は元々公爵令嬢と婚約していて、聖女の出現によって立場がなくなった公爵令嬢が王子様だけは奪われたくなくて、あの手この手で聖女を排除しようとするのよね…………それこそ社交界で大恥をかかせてみたり、暗殺者を雇ってみたり、毒殺しようとしたり…………全部失敗するんだけど。
最終的には全て犯人が公爵令嬢だと発覚して彼女は処刑、一族も取り潰しになり聖女と王子様はようやく一緒になれた、というハッピーエンドで終わる物語。
その小説に出てくる王子様の婚約者が、公爵令嬢であるオリビア・クラレンス。クラレンス公爵家の一人娘で母親が早くに亡くなってしまったから、公爵はこれでもかっていうくらいオリビアを甘やかしたが為にとっても粘着質な性格に育ってしまって……すっかり悪役令嬢になってしまうのよね。
あんな最期になってしまったけど、私はオリビアの人間臭さが好きだった。彼女は王太子の事が本当に好きで初恋だったはず……王太子妃候補に選ばれ、ずっと一途に想い続けて王太子妃教育も頑張っていたのに……ポッと出の聖女に立場を奪われてしまうだなんて。
世の中不公平だわ。能力がある人間にはどう頑張っても勝てないっていうのが…………読んでいてオリビアが可哀想で仕方なくて。彼女が幸せになるルートをあれこれ妄想した事もあったな。
それにしても、オリビアってこんなに美少女だったのね……そりゃ我が儘になるわ、と納得するほどの美少女だった。こんなに美しくてお金持ちなら、何でも手に入ってしまいそう。
そんな事を思いながら鏡の中の自分をまじまじと見ていると、心配した女性が声をかけてきた。
「お嬢様、まだ頭がボーっとしますか?ひとまずベッドに戻りましょう。それから公爵閣下とお医者様をお呼びいたしますね!」
そう言って私を支えてベッドまで連れて行ってくれた後、ペコリと頭を下げて扉を出ていった女性は、おそらくオリビア付きの侍女のマリーベルだろう。
小説ではマリーと愛称で呼ぶほど二人は仲が良かった。というのもマリーベルはオリビアの乳母の子供で、オリビアより2歳年上であり、母が早くに亡くなったオリビアにとっては乳母のメンデルが母親代わりであったのもあってか、二人は幼い頃から一緒に育った姉妹のような関係でもあった。
マリーベルがオリビア付きの侍女になったのもそれが最適であると父親である公爵が判断し、オリビアもマリーベルの言う事なら従ったからだ。それほど仲が良い関係だったので、オリビアがおかしくなり処刑された後、マリーベルはオリビアの後を追って命を絶ってしまった。
私にはそれが本当に悲しくて辛いお話だったのよね…………この世界のマリーベルも変わらず優しくて、オリビア思いの良い子……絶対に小説のような最後にしてはいけない、そう固く心に誓った。
それと同時に廊下の方がバタバタと騒がしくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。