気持ちよく死んだはずが、また人生はじまっちゃった件
ぽんすけんた
最初の人生
「お父さん!!今までありがとう!」
娘たちの声がする、その横で啜り泣く妻の声もする、「あー、俺はもうすぐ死ぬんだなー、いい人生だったなー」と冷静に考える。
反抗期に口も聞いてくれなかった娘たちや、
仕事の付き合いで帰りが遅くなり、呆れ果てて、目も合わせてくれなかった妻の姿もない。この瞬間がもしかしたら人生で1番幸せなのかもと思う。
我ながら、いい人生だったと思う。決して裕福な家庭に生まれたわけではないが、両親に自由奔放に育てられ、そこそこの大学を出てそこそこの会社に入り、結婚して娘が2人生まれて、妻も娘も大きな病気をすることなくここまで来れた。
私自身は、持病が悪化し、72歳という世間からすると、少し早めに人生を終えた。
入院してからは、よく今までの人生を振り返るようになった。というか思い出すようにしていた。
小学生の頃は、サッカーに明け暮れ、ご飯が出来るまで家の外壁にボールを蹴り込み、運動会では、リレーのアンカーをやり、中学・高校でもそれなりに充実した学生生活を過ごした。自分で言うのもおかしいがモテた。
全て自分中心に回っていると思っていた。
子供の頃は、隣に住む、あきおくんが親友で、よく遊んだ。
あきおくんの家は、所謂お金持ちで、お母さんは綺麗でスタイルも良く、子供ながらに『女』として見ていたことを思い出す。
あきおくんは温厚で、優しくて、子供ながらにお金持ちのゆとりを感じさせてくれる男の子だった。
中学時代に至っては、あきおくんと遊ぶより、あきおくんのお母さんを見たくて遊びに行っていたと言っても過言ではない。
しかし、残念なのは、大学に進み、疎遠になっていた、あきおくんは20歳のとき、不慮の事故で亡くなり、それ以来会えていないということだ。
大学時代は、彼女が出来て、その子と遊ぶことだけを考えていた。優子ちゃんだ。
家庭環境までは知り得なかったが、
とても純粋で、真っ直ぐで、いつもニコニコしてる本当にいい子だった。
が、自分の粗相がたたり振られてしまった。
「意外と昔のこと、覚えているなー」なんて
呑気に思っていた。
後悔することもあった。
小学生の頃、はじめてのおつかいで、堂々と道路を突っ走り、こっそり後をつけて来た、母親に店内で怒鳴り散らかされたこと。
20歳の時に、友達のノリでタバコをふかしたことで、まんまとニコチン中毒になり、それが持病を悪化させることになったこと。
仕事を始めてから、少しだけ単身赴任になり家族と離れて過ごしている間に、女遊びをしなかったこと。など、後悔する内容は、どれも薄くどうでも良いことばかりだなと思った。
そんなことを考えているうちに、徐々に体調な悪化し、自分でも先は長くないと感じ始めた。娘や妻が、わざと明るく振る舞ってくれていることや、目を腫らしていることなど。
どれも嬉しく幸せだった。
そうした日々を過ごし、幸せだった。
そう噛み締めて、私は深い眠りについた。
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