最終話 正夢になると良いね!
瀬戸くん……もう虹川くんだけれど、新婚旅行から帰ってきて少し経った後、私達に報告してきた。
「月乃さんが、僕の子を妊娠してくれたんだ。僕、高等部生だけれど、絶対良いお父さんになるよ」
私達は驚いた。
「……高等部生で、父親……?」
「うん。お父さん。生まれたら赤ちゃん見に来てね」
「…………」
虹川くん……。どれだけ虹川さんのことが好きなんだ。
結婚してこんなにすぐに妊娠なんて、どんなラブラブ夫婦だ。
「それは……。おめでとう」
まだ信じられない顔をしながら、深見くんがお祝いを述べた。
私も、まだ驚きながら言った。
「虹川くん……。おめでとう。良いお父さんになってね」
「お父さんか……。何だか信じられないけれど。おめでとう。虹川先輩に身体を大切にするように言ってね」
山井さんもお祝いをした。
赤ちゃんは冬に生まれるらしい。
♦ ♦ ♦
冬になったある日。虹川くんは欠席した。
どうも虹川さんが産気づいたらしい。彼は翌日、疲れ果てた顔で登校してきた。
「無事に生まれたよ。女の子だった。
それから虹川くんは、すごく子育てを頑張っているようだった。
授業中こそなんとか起きているけれど、休み時間やお昼など、机に突っ伏して眠ってしまう。
たとえ深見くんが揺り動かしても、ぴくりともしないで深く眠っている。
聞くところによると、虹川さんが『
自分の子どもなのに可愛く思えなかったり、無性に苛々したり、わけもなく泣いてしまったり、食欲や睡眠欲もなくなってしまうらしい。
虹川さんがそんな状態ならば、虹川くんはその分頑張るだろう。
机で眠る虹川くんを見ながら、そっと起こさないように私のコートを背中にかけてあげた。虹川さん、お大事に。虹川くん、頑張れ!
そんな日々が続いて、私達は大学生になった。
♦ ♦ ♦
大学に入学してすぐ。虹川くんからメールをもらった。
『少し落ち着いてきたので、良かったら、ちーちゃん見に来てください』
私と深見くんと山井さんは、早速出産祝い品を考え始めた。
「何がいいだろう……。俺、男だから見当もつかないよ」
「私だってわからないよ」
深見くんと山井さんが言う。私は考えてみた。
「他の人と被っても大丈夫なものがいいと思う。……消耗品とか」
「消耗品? 何だろう。粉ミルクとか……おむつとか?」
深見くんの躊躇いながらの提案に、思いついた!
「おむつ! いいじゃん。絶対たくさん使うだろうし」
「でも飾り気も、へったくれもないし……」
深見くんが言葉を濁すので、私は家へ帰って、ネットで調べてみた。
「えっと……おむつ、おむつ……。おむつ、ケーキ?」
調べてみると、出産祝い用に「おむつケーキ」というものが販売されているらしい。売ってもいるが、自分達でラッピングしても良いようだ。
次の日、二人に「おむつケーキ」の話をして、ちーちゃん用にラッピングすることにした。勿論おむつサイズは、言われた通り三か月の赤ちゃんサイズにして、ネットで評判の良かったメーカーのおむつにした。
手を殺菌してから、おむつが汚れないように綺麗に三人で包んで、三段のウェディングケーキのようにした。
持って行くと、二人はとても喜んでくれた。
虹川さんは、多少やつれていたけれど、少し回復したようだ。
「ありがとう。このメーカーのおむつ、蒸れないからいつも使っているのよ。大切に使わせてもらうわね。だけど綺麗に包んであって、崩すのがもったいないわ」
ちーちゃんは虹川くんに似て、とても可愛かった。首が据わっていないというので、首を腕で支えるようにして、抱っこさせてもらった。
「また時々、見に来てもいいですか?」
「いいわよ。いつでも来てね」
虹川さんがそう言ってくれたので、私は時々連絡して、ちーちゃんを見に通った。
♦ ♦ ♦
ちーちゃんが四歳になった頃、たどたどしく、私に話しかけてきた。
「よりこおねえさん。わたし、このまえ、ゆめをみたよ。よりこおねえさんが、すごくきれいな、おひめさまみたいな、およめさんになっていたゆめなの」
可愛らしく笑いかけられ、私も笑顔になった。
「それは、すごく嬉しい夢だね。絶対正夢になると良いね!」
私はちーちゃんを抱き上げて、にっこりした。
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