プロローグ
遠くで、僕の家が燃えていた。
母さんと過ごした思い出の家が。ベッドで人間の国の物語を読み聞かせてくれた夜が。人間の国の音楽を教えてくれた朝が。母さんと共に生きた十七年の温かな日々が、
「
前を走る父さんが、僕──オルフェの手首をグッ、と引いた。
僕はもつれそうな足を必死に動かした。走って、走って、走って。
「父さん……!」
船の上で
その
──なにか、なにか言わなくちゃ……。
これが、父さんとの最後の会話になる。分かっているのに言葉が出ない。何を言うべきなのか、分からない。
「
父さんはそう言って船の
布の中から出て来たのは、家の
母さんの遺骨を
「オルフェ。母さんは、お前の自由を願っていた。お前の幸せを願っていた──でも、この島じゃそれは
父さんが言い終えた直後、黒煙がけぶる赤い空に、高らかに角笛の音が
次の
母さんが生まれた人間の国で、『
「どうやら、向こうもなりふり構っていられないようだな」
父さんは僕に背を向けて立ち上がり、十字に背負った二つの武器を
左手には二メートル近い無骨な
右手には全長一メートルほどで
父さんが魔槍の穂先を魔砲剣の付け根に差し込んで
「よく聞け、オルフェ。お前が島の『結界』を出るまで、俺はアイツらを落とせるだけ落とす。お前はその船で人間の国に行け。そして母さんの故郷──星都サン=エッラに向かうんだ。あそこならアイツらも、簡単に手出しは出来ない」
魔砲剣に宿った光を見つけた悪魔たちが、
父さんは
「ッシ!」
歯の
悪魔たちが
「さあ、お別れだ。オルフェ」
「父さん、僕も……!」
戦う、と言い掛けた僕に、父さんは首を横に振った。
「ありがとう。俺にはもったいない
船を
「愛してるぞ、オルフェ。お前は自由だ──幸せになれ!」
再び黄金の光を灯した魔砲剣グラネーシャを下段に構えた父さんは、光線が砲身から迸ると同時に、小船の
「っぅわああああああああああ!!」
ただ
父さんだ。僕の船を囲むように放たれる光弾で、悪魔の肉体が
断続的に通り過ぎる光の弾幕に守られながら
──落ちる……っ!
船べりを
──ひょっとして、『結界』?
そう頭をよぎった瞬間、船底から衝撃。
着水した、と
いくつもの波を裂きながら減速し、くるりと
「……あぁ」
小船の上にへたり込んだ僕の口から、意味のない音が
生まれて初めて結界の外から見た僕の故郷は、
その
──何が、『
──あそこに残ったところで、僕に何が出来る? 父さんの足を引っ張るだけじゃないか。
父さんは僕を守るために戦っている。僕が父さんのために出来ることは、悪魔たちに
──わかっている。わかっているのに。
「……ズッ……ゔぅう……」
鼻の奥が痛くて息が出来ない。奥歯が
「──っ! なに、あれ……」
不意に、島の真上に何の
──ダメだ、ここに居たら……!
落雷の衝撃が結界を通り抜け、僕の乗る小船を
悲鳴を上げる間もなく、僕の
やけにゆっくりと動く視界の
「──母、さんっ……!」
失うまいと
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