第43話
思わぬところで純花と鉢合わせた俺は一瞬動揺してしまったが、動揺するなと自分に言い聞かせて平静を保った。
生活圏が同じなのだから、こうしてばったり遭遇してしまう可能性は大いにある。
それは以前から予想していたことで、もしそんな状況に陥ったとしても焦らないようにとイメージトレーニングは重ねている。
それに同じ学校に通っているのだから、いくら心姫が一緒にいるとはいえこれくらいで動揺してはいられない。
というかこの状況、前向きに捉えるとするならチャンスなのではないか?
心姫のおかげで純花に対する未練や復讐心は消え去っているものの、どうぞ復讐してくださいというチャンスを目の前にぶら下げられれば、それなら復讐してやるかという気にもなる。
俺は心姫と純花を会わせる気なんて一切無かったし、今後も会わせる予定は無い。
しかし、偶然、本当に偶然心姫と純花が顔を合わせてしまったのだから、今が純花に復讐できる最大のチャンス。
よしっ、こうなったらやってやろうじゃねぇか。
復讐するしかない状況を作り上げたのは神様なのだから、復讐をしたとしても神様は俺のことを許してくれるだろう。
むしろ復讐しないと罰を与えられてしまうまであるかもしれない。
純花の姿を見た時は思わず焦って名前を呼んでしまったが、復讐をするならまずは……。
「なっ、何してるのよこんなところで」
「……」
「なっ、なんとか言いなさいよ。なんで無視するわけ?」
「……」
俺は復讐として純花からの言葉にダンマリを決め込んだ。
何せ『もう恋人でも幼馴染でも友達でもない』、要するに俺たちは他人だと言い放ったのは純花本人なのだから。
その本人が俺に声をかけてきているとは、なんとも矛盾した話であるがな。
「……あの時のことは本当にごめん。高宮先輩の女グセが悪いって話、瑛太から聞いた時は信じられなかったんだけど、やっぱり瑛太のいう通りだった」
今更そんな心の込もってない口先だけの謝罪なんていらない。
別れたばかりの頃の俺だったらその口先だけの謝罪を欲していたかもしれないが、俺にはもう心姫という心強い味方がいる。
「……」
「だからね、私、また瑛太と付き合いたいと思ってる」
……は? 付き合いたい?
純花の発言はかなり衝撃的な内容で、無反応でいるのは難しかったが、なんとか無反応を貫いた。
なんて都合のいい奴なんだこいつは……。
心姫と知り合う前の俺だったら絶対に何かしら反応を見せていただろうし、動揺を隠すことはできなかっただろう。
なんなら純花の発言を受け止めて、もう一度純花と付き合っていたかもしれない。
それでも俺が無反応でいることができたのは、今の俺には心姫がいるからだ。
俺と付き合っているのに高宮先輩のことを好きになった純花はもっての他だが、心姫以外は誰もいらないと、そう強く思えるほど俺の中の心姫という存在は大きいものになっていた。
というかこいつ、また同じ過ちを犯そうとしているのか?
高宮先輩と付き合っているはずなのに、俺と寄りを戻そうだなんて……。
「……」
「ねぇ私の話聞いてる?」
「……」
「ねぇ瑛太! なんで私のこと無視するのよ! 私たち幼馴染でしょ⁉︎」
タイミングを見計らって、今しかないと思った俺はついに純花へと言葉を返した。
「……さあ? 俺に幼馴染なんていないからわからないな」
「--っ⁉︎」
純花は俺の思惑通り、驚きの表情を見せる。
そんなに驚かれたって悪いのは最初に幼馴染でも友達でもないって言ったそっちだからな。
これまで純花にされてきた仕打ちの数々を思い出せば、驚いた表情を見せる純花に対して罪の意識なんて生まれない。
『やるならやられる覚悟で』なんて言葉を耳にしたことがあるが、純花の場合は自分がやられるだなんて微塵も思っていなかっただろう。
「ていうかその一緒にいる子は瑛太の何なの⁉︎」
「わっ、私は……」
心姫の存在をどう純花に話すかは本当に悩んだ。
今の心姫は俺にとって友達だが、友達だと純花に伝えるだけでは俺と心姫の深い関係性は伝わらず、それではなんの復讐にもならない。
心姫の通う学校では、心姫には彼氏がいてその彼氏が俺という噂が広まっているんだし、それなら純花にも……。
「こいつは新屋敷心姫、俺の彼女だ」
「かっ、彼女⁉︎」「えっ--⁉︎」
俺の言葉に純花も心姫も驚きを見せる。
純花からしてみれば俺にこんなに可愛い彼女ができるとは思わないだろうし、心姫からしてみれば心姫の通う学校では俺と心姫が付き合っているという噂が流れているにしろ、まさか彼女だと紹介されるとは思っていなかっただろう。
「う、嘘はやめなさいよ。こんなに可愛い子が彼女な訳……」
「嘘じゃない。本当だ。な? 心姫」
「あっ、えーっと……はい。瑛太さんとお付き合いさせていただいています」
「……」
心姫の言葉を聞いた純花は言葉を失ってしまう。
「……のよ」
「……え? なんだって?」
「なんでアンタだけ幸せなのよ!」
純花はプルプルと震えながら、理解に苦しむ内容を叫んで見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます