彼女に振られ自暴自棄になった俺は、車に轢かれそうになっていた美少女を突き飛ばして代わりに轢かれました 〜恩返しがあるなんて聞いてない〜
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
1.出会いと別れ
第1話
「好きな人ができたから別れてほしいんだけど」
幼馴染でもあり彼女でもある
純花とは中学1年生の頃から交際をしており、高校2年生になった俺たちはすでに4年もの間交際を続けている。
これからもずっと、純花との交際は続いていくと思っていた俺は、純花からの突然の別れ話に驚きを隠せなかった。
「えっ--。それはドッキリ……とかじゃなくて?」
「本気に決まってるじゃない。私がそんなタチの悪い冗談を言う人間に見える?」
俺と付き合っているのに『好きな人ができた』と言っている時点でかなりタチが悪いということに気付いていないのだろうか。
そんな考えをグッと飲み込み、純花に訊いてみた。
「俺に何か悪いところがあったのか?」
「悪いところが無いのが悪いところかしらね」
「悪いところが無いのが悪い……?」
悪いところが無いのであれば、俺のことを好きではなくなる意味がわからない。
純花の言う通り、『悪いところが無いのが悪い』というのが俺を好きではなくなった本当の理由だとするならば、それはあまりにも腑に落ちない。
「まあ強いていうなら……。いや、なんでもないわ」
「なんだよそれ。何かあるならはっきり言えよ」
「恋愛にはね、スパイスが必要なの。わかる?」
「なんだよスパイスって……。そんなのわかるわけないだろ」
「スパイスはスパイスよ。瑛太がそれをわかってたらこうはなってなかったかもしれないわね」
急に『別れる』だとか、『悪いところは無い』だとか、『スパイス』だとか--。
わけのわからないことを言われ、何が何なのかわからなくなり混乱してしまった俺だったが、考えるのをやめることはせず、必死に頭を働かせて質問を続けた。
「その好きな人ってのは誰のことなんだ?」
「
「高宮先輩⁉︎」
純花からその名前を聞いた俺は、声を裏返えらせてしまった。
高宮先輩の周りにはいつも女子が群がっており、一際目立つ存在なので、男の俺ですら高宮先輩には惚れてしまいそうになる。
見た目だけならまず間違いなく高宮先輩には勝てないし、あの人を好きになられてしまったのなら仕方がないと思えるレベルなのだが、それでも純花には、『高宮先輩だけはやめておけ』と伝えなければならない。
なぜなら、高宮先輩は彼女への束縛が激しく、付き合った女子に対して暴力的になることで有名な人だからだ。
噂の範疇を超えない話かもしれないが、純花は俺の幼馴染であり、恋人であり、大切な人。
俺と別れる理由がどんなものであったとしても、純花には幸せでいてほしい。
だから、別れを切り出されたことを悲観するよりも先に、高宮先輩に関する噂だけは純花に伝えなければならない。
「あいつだけはやめとけって! みんなあいつのことは女たらしで束縛が厳しいクズ男だって言ってるし、あんまりいい噂は聞かないぞ?」
「何よ高宮先輩のこと悪く言って‼︎ そんなこと言って私の気を引き留めておきたいだけなんでしょ⁉︎ 最っ低!」
「はぁ⁉︎ 俺はお前のために言ってやったんだぞ⁉︎」
純花のためを思って言った言葉なのに、純花の口から飛び出したあまりにも俺に対する敬意を欠いた返答に、俺は開いた口が塞がらなかった。
わけのわからない理由で俺と別れると言い始めただけではなく、親切心で高宮先輩はやめておけと伝えてやった俺に対して、『最低』と言い放つとは、どれだけ失礼な奴なのだろうか。
純花のことが大好きで、大切に思っていた俺だが、流石に人間性を疑ってしまう。
「はいはいわかったから静かにして。どれだけ引き留められたところで、私が好きになった人のことをクズ呼ばわりするような人とはもう絶対付き合えないから」
「勘違いすんなよ⁉︎ 俺は純花が別れたいっていうなら純花の気持ちを尊重するし、心の底から純花のことが大好きで、別れた後も危ない目にあわずに幸せになってほしいから言ってるんだからな⁉︎」
「何を言っても惨めなだけよ。それ以上喋るのはやめておきなさいクズ男君」
「なっ--」
何度でも言うが、俺は純花のことが大好きだ。
だからこそ、別れたいと言われれば惨めに引き留めたいという気持ちを抑えて別れることを受け入れるし、次に付き合う男とも幸せになってほしいと思う。
それなのに、こちらの話に聞く耳を持たず身勝手に話を進めてくる純花に、俺はもう呆れることしかできなかった。
「それじゃあ私行くから。アンタとはもう恋人でもなければ幼馴染でもないし、友達でもないから。今後は私と付き合ってたこととか幼馴染だって話、絶対誰かにしないでよね」
「なっ、なんだよそれ⁉︎ 自分が身勝手に他の男を好きになったからって俺との思い出まで消し去るつもりかよ⁉︎」
「サヨナラ。矢歌君」
「ちょっ--純花っ⁉︎」
純花は昔から俺のことを瑛太と名前で呼んでくれていたし、君付けして呼んでいたのだって出会ったばかりの頃だけだった。
そんな純花が急に矢歌君と苗字で呼んできただけでなく、君を付けて名前を呼んできたのは、純花が言ったように、俺と付き合っていたことも、幼馴染だってことも、何もかも無かったことにして他人になったことを俺に知らしめようとしているのだろう。
そんな純花を追いかけることも引き留めることもできず、俺はただ呆然とその場に立ち尽くし、あまりにも突然の出来事に涙を流すことさえできなかった。
認めたくはないが生気を失った表情をしている今の俺はきっと、純花が言う通り誰が見ても惨めな男にしか見えないのだろう。
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