第15話 挨拶

 俺は突き付けられた銃口を見る。

 次に息の荒いギャングを一瞥し、息を吐きながら笑った。


「随分な挨拶だなァ。エイリアンだってもう少し礼儀正しいぜ?」


 他のギャング達も拳銃を所持している。

 まだ手に取ってはおらず、ニヤけた顔でやり取りを見守っていた。

 自分達が優勢だと思っているのだ。

 ヤクでハイになっているのかもしれない。


 遠巻きに眺める部下は、ハラハラとした様子でこちらを見るばかりである。

 俺はアイコンタクトで手出し無用だと伝えておく。


 一触即発の空気だった。

 もしスリングで肩がけした短機関銃を手に取れば、即座に銃撃戦が始まるだろう。

 俺は頭をぶち抜かれて即死して、アパート内の殺し合いは激化する。


 その光景に興味が湧くも、生憎とここで死ぬつもりはなかった。

 俺は余裕の態度を崩さず、銃を突き付けてくるギャングを語りかける。


「気を付けろよ。死亡フラグが立っているぜ。皆、あんたが死ぬと予想しているからな」


「……皆って誰だ。お前の部下達か?」


「そっちもそうだが、あんたには分からないことさ」


 俺がとぼけると、銃口が強く押し付けられた。

 ギャングは眉間に皺を寄せながら脅しをかけてくる。


「うるせぇ奴だ。そのお喋りな口が開かねぇようにしてやろうか?」


「それな困るな。アイデンティティーなんだ」


 俺は尚も軽口で応じる。

 ギャング達の殺気がさらに高まっていた。

 今にも爆発しそうだが、これでいい。


(作戦通りだ)


 どんな状況でも冷静さを欠く者は失敗する。

 挑発して揺さぶりをかけるのは俺の常套手段だった。


 俺は両手を上げたまま指を鳴らす。


「そういえば、俺の自己紹介がまだ済んでいなかったな」


「あぁ? そんなもんは必要ねぇ――」


 ギャングが怒鳴ろうとした瞬間、俺は遮るように膝蹴りを打つ。

 不意の一撃は腹に直撃した。

 ダメージは内臓まで響いただろう。


「ごぉえっ!?」


 ギャングは目が飛び出そうな顔で胴体を折る。

 俺は突きつけられた銃を片手で弾いた。

 直後に放たれた弾丸は天井に刺さる。


 俺はギャングの腕を捻って拳銃を奪うと、そいつを壁に突き飛ばした。

 悠々と引き金に指をかけて照準を合わせる。


「俺はこういう者だ」


 躊躇いなく発砲する。

 腹と胸と額に一発ずつだ。


 ギャングは間抜けな顔で額から血を流した。

 壁を背にずり落ちて、血痕を付けながら横になる。

 それきり動かなくなった。

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