第11話 食糧問題

 俺達はほどなくして三階のフロアを封鎖した。

 各階に繋がる階段を即席のバリケードで塞いで、窓も板張りにして侵入できないようにする。

 ブービートラップも設置したので、万が一にも侵入された際も安心だろう。


 封鎖の途中、何度かゴブリンの襲撃を受けたが問題なく殺害した。

 ゴブリンは小学生くらいの背丈で腕力は成人並みだ。

 気を抜けば思わぬ反撃を食らうものの、俺達は特殊部隊の人間である。

 鍛え上げている上に戦闘術も習得していた。

 ナイフや棍棒を振り回すだけのゴブリンに負けるはずがない。


 現在、俺達は休息と見張りを交代しながら行っていた。

 この状況は心身の疲弊が著しい。

 休める時に休むべきだろう。


 幸いにも各部屋に菓子や食糧や酒があったので、節度を守るように言って自由にさせている。

 大事な食糧だが、別のフロアにもあるはずだ。

 あまりに節約を意識しすぎると、盗む者が現れて争いの種になりかねない。

 最初から飲み食いさせておけばトラブルは起きにくいだろう。

 今は隊員の回復に努めた方がいい。


 専門知識を持つ隊員には、ゴブリンの死体を解剖させていた。

 奴らの肉体構造を暴いてもらっている。


 異世界の生物の特徴は知っておくべきだ。

 戦闘で役立つかもしれないし、食肉にできるかをチェックしておいた方がいい。

 これが重要だ。

 もしゴブリンを食えるのなら、食糧問題は解消する。

 下の階にもいるので、アパートから出なくとも食い繋ぐことができる。


 一通りの作業を終えた後、俺は部屋の一つで休憩する。

 煙草を吸いながらリラックスしていると、外の物音に気付いた。


「ん?」


 板張りされた窓の隙間を覗き込む。

 地上に数人のギャングがいる。

 負傷した彼らは、辺りを気にしながら敷地の外へ向かっていた。


(このアパートから脱出するつもりか)


 敷地内を示すコンクリートの地面を少し進めば、青々とした草原が広がっている。

 間もなく先頭を歩く一人が草原に踏み込んだ。

 次の瞬間、そのギャングが膝をついて苦しみ始める。


「うぐっ」


「どうした!? 大丈夫かっ」


 それを目にした仲間のギャングが慌てて駆け寄る。

 草原に入った途端、そいつも同じように苦しんだ。

 二人とも泡を噴きながら震えている。

 顔色も悪く、今にも死にそうだった。


 未だコンクリートに立つ他のギャングは動揺していた。

 そのうち一人が怒鳴る。


「おい、こんなところで止まるな! 奴らに気付かれるだろうが」


 するとアパート内からゴブリンの喚き声が聞こえてきた。

 今の怒鳴り声に反応したのだ。

 間もなく十数体のゴブリンがギャング達のもとに押し寄せてきた。


「畜生、来やがった!」


「とにかく逃げるぞ! ここで戦っても死ぬだけだ!」


 ギャング達は発砲しながら草原の方角へと走る。

 そして、コンクリートから出た者達から順に倒れていく。


「ぐぉっ!?」


「あ、ぎぎ……ぁっ」


 ギャング達は次々と苦悶し、誰も起き上がれずに泡を噴いている。

 最初に苦しみ始めた二人に至っては、既に息をしていないようだった。


(敷地外に出ると死ぬのか)


 新たな発見に感心していると、ゴブリン達がギャングに駆け寄る。

 動けない彼らを容赦なく滅多打ちにして、死体を前に歓声を上げるのだった。

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