魔女の守り人

@ts5430

序章『旅立ち』編

第1話

私の名前はアンナ・バーヴェルシュタイン。


この滅びゆく祖国アルデシアの王妃にして、死んだ浮気者の元国王ヘルクの元妻だ。




私は今、夜に何者かの襲撃を受け、生死を彷徨っている。


いや、違うな。


私はもうすぐ死ぬ。


何者かに刺され、瀕死の状態だ。




…だから。


走馬灯のように、今までの苦しい思い出が蘇る。


特に私の元夫の言葉が脳裏に浮かんだ。


"君を一人にしないよ"




嘘だ。


ふざけるな。


ヘルクは私を裏切った。


国を裏切った。


彼は死んで当然の男だ。


でも…


私は…


まだ父の愛したこの国を守らなくてはならない。


このままでは奴に国を乗っ取られてしまう。


隣国エトワシアの軍団に国を乗っ取られてしまう。




嫌だ。


私はまだ死にたくない。


まだやりたいことがあるのに。


まだ国を守らなくてはいけないのに。


まだ何一つ守れていないのに…!








…許せない。


誰が私を後ろから刺した?


きっとあの貴族だ。


上級貴族マーガレット…あの女だ。


あの令嬢に違いない。




何故なら彼女は王妃である私に弟の件で恨みがあるのだ。


でも…それは仕方なかったのだ。


彼は…私の父親を殺したのだから。


彼は国を転覆しようとした反逆者だ。


だから仕方なかったのだ!


だから…




その刹那、冷たくなった背筋に罪の意識が伝った。


この足音…


気配で分かった。


王妃マーガレットだ。


私にトドメを刺しに来たのだ。




マーガレットは私に問う。


『最後に言い残すことは?』


『ないわ』


『なら死ね。弟の仇…アンナ・ハーヴェルシュタイン』






…ない?


ない??


この世の未練が??




嘘だ。


真っ赤な嘘だ。


本当は私もかつての愛人に愛されたかった。


父親を守りたかった。


滅びゆく祖国を守りたかった。


でも…私には無理だった。










私は…無力だ。








その瞬間、私は死んだ。


(………………)


目が覚めた。


目が覚めると私は暖かい部屋にいた。


ここは…どこだ?




この赤ん坊の声は誰だ?


周りには大人がいる?何故だ?


私は死んだはずじゃ…


すると、腹から血を流して喜んでいる母親らしい20代くらいの女性は言った。


『これが私の子…フフッ。良かったあ』





すると。


隣りにいた父親らしき同じく20代くらいの青年が…私を?持ち上げ…え?え?…え??


私!持ち上げられてる!


おんぶされてる!!


もしかして私!


赤ちゃんに転生した!!?


すると、その父親は言った。


『これでエリー!僕達の子ができたよ!これでこの世界でたった一人のエリーの後継者が…』


『駄目よ。ケイン』


『でも…』


『絶対に駄目。この子は魔女になんかしません。この子は普通に生きるのよ』




なるほど。私の転生したのは魔女の一家…なのかな?


世界に一人しかいない魔女が母親なんて。


本当に凄い奇跡だ。




はあ…まだ胸が痛むなあ。


もう今日は疲れた。


今日は赤ちゃんらしく寝るかな。


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