天使すぎる転生幼女は魔族を平和に導きたい!
由岐
第1章 魔王の王宮へようこそ
第1話 どうして私は幼女なの?
……はて、ここはどこでしょうか?
私はさっきまで、仕事を終えて家へ帰ろうとしていたはずなんだけど……。
見渡す限りの木、木、木。
どこからどう見ても森の中。おまけに夜。
それに、異変はそれだけじゃない。
周囲の景色が、やけに大きく見えるのだ。
……というか、私が小さくなっているらしい。
パッと開いた手の平は、もみじのように小さく可愛らしい。腕も白くてむちむちしていて、平均ぐらいはあった胸もぺったんこである。
「ようじょ……ようじょ体型になってゆ……」
……
私、喋り方まで幼女になってゆ。
うーん、
そういう訳で、どうしてか全く分からないけれど、私──
持っていたはずの荷物は、見当たらなかった。
自分がどこまで若返ってしまったのか分からないけれど、鞄に入れていた手鏡も無いから、確かめる術も無い。
ある日突然子供に戻ってるだなんて、どこの推理漫画の主人公ですか?
珍しいお酒でも飲んだら、元の姿に戻れるのかしら……と、現実逃避に思考を割いていないと、夜の森だなんて不気味な場所で冷静にしていられる気がしなかった。
「うぅん……ひとまじゅ、森を出ないとはじまらないよね?」
……そうは言っても、こんな身体で森を抜けられる保証も無い。
空に星は輝いているけれど、明かりも持たずに森を歩くのは危険だろう。
流石に私も二十歳を超えた立派な大人だもの。遭難したら、下手に動かない方が良いってことぐらい知ってますとも!
「朝になゆまで、ここで大人しくしゅる……!」
そう言いながら、一人ガッツポーズを決めて気合いを入れる私。
……ああ、いちいち噛むから格好が付かないね!
いったい何歳ぐらいになっちゃったんだろう?
早く元に戻って、無事に家に帰れれば良いんだけど……。
近くの木に背中を預けて、そっと座り込む。
その時、ジーンズを履いていたはずの脚が曝け出されていたのに気が付いた。
暗くて細かい所はよく見えないけれど、姿だけでなく、着ていた服も変わっているらしい。どうやら今の私が来ているのは、白っぽいワンピースのようだった。
裾に触ってみると、細かい刺繍がしてあるのが分かった。布の触り心地も、何だか高そうな感じがする。
「……ユーカイでも、されたのかな?」
幼女誘拐事件、とか? お金持ちの家の子を攫って……って、そんなまさか!
……いや、それよりもだ。夢か冗談か、みたいなことが自分の身体に起こってたわね。理由は分からないけど、大人が子供になっちゃってるんだもの。
謎は、ますます深まるばかりだ。
「このまま戻れなかったら、どうしよ……」
しばらくそんな風に考え事をしていたら、どんどん不安感が増してくる。
その時だった。
ガサガサッ!
と、近くの茂みから何かが飛び出してきたのだ。
「にゃっ、にゃに!? あいたぁっ!!」
急な物音にビックリして、後頭部を木の幹にぶつけてしまう私。
いったたぁ〜……!
幼女化してしまった影響か、大人の時よりも痛みが強く感じる気がするよ……!
涙目で頭を押さえながら、いったい何が飛び出してきたのか確かめる。
すると、そこに居たのは──
「……わん、ちゃん……?」
美しく白い毛並みをした、大型犬だったのだ。
どうしてこんな森の中にワンコがいるの?
……あれ? よくよく考えたら、森の中に居る犬って野犬なのでは?
あんなに大きな犬に噛まれたら……こんな子供なんて、ひとたまりもないのでは??
その結論に至った瞬間、幼女化した私の涙腺が一気に崩壊する。
「う……うわぁぁぁああぁぁぁぁん!!」
死んじゃう〜!
まもとに対抗出来ない子供なんて、野犬に襲われたら美味しく召し上がられる未来しか見えないじゃんか〜!!
「こっちこにゃいでよぉぉぉぉ! びえぇぇぇええ〜っ!!」
──しかし、その瞬間。
大声を上げて泣き叫ぶ私の身体が、眩い光に包まれた。
「ふぇ……?」
自分の身に何が起きているのか分からなくて、ボロ泣きしていた大粒の涙も、ビックリしすぎて引っ込んでしまう。
思わずボーッとしていたら、頭上からヒラヒラと白いものが舞っているのが見えた。
……羽根だ。白い羽根が飛んでいる。
「なぁに? これ……」
どうしていきなり、私の周りを羽根が舞って……?
「……あ、あれ……? きゅうに、フラフラして……ねむく、なって……きちゃ……」
頭が、ぐるぐるする……。
あ、ダメ……意識が、保てない……!
……ああ、だけど……このまま野犬に食べられちゃうんだったら、意識なんて無いままの方が、幸せなのかも……?
そのまま私は、木に背中を預けたままの姿勢で目蓋を閉じた。
少し後、誰かが私を抱き上げるような感覚があったけれど……。
もしかしたら、天使様がお迎えに来てくれたのかもしれないね。
だってほら、子供は死んだら天使になるっていうじゃない?
そんな事をぼんやりと考えながら、私は今度こそ意識を手放した。
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