15:初デート
若者の街と呼ばれる、その駅前。ガムを食べながらこっこを待つ。
……何気に、女の子とこうして待ち合わせて出かける経験は、初めてだな。
デートではない。ただ買い物に付き合うだけ。いやそれデートちゃうんか。いやそれを言うならダンジョンを一緒に潜るのもデートか?
……デートだな。ダンジョンデートってよくあるって聞くし。でもそもそもデートの定義ってなんだ? お付き合いをしている男女が一緒に出歩くとかそういう意味なら、俺とこっこはまだ付き合ってない。おい、まだってなんだ。まるで今後付き合う可能性があるかのようにさらっと言いやがって。俺の脳みそお花畑か!
……落ち着け。一人で何を浮かれてんだ。
まあ、ひとえに、俺の心の持ちようだということで、この話は心の中に仕舞うことにした。
俺がデートだと思えばそれは俺の中ではデートなのだ。
こっこにその気が無かろうと、他の誰もが否定しようと、俺は憧れのこっことデートをする。そう思い込むことにしとこう。
『ついたよー!』
ふと、メッセージが届く。『俺もいる』と返信。
『どこ?』
『駅前』
『私も! 見つけて♡』
くそう。見つけてやる。
勢い勇んで辺りをキョロキョロと探る。いない。どこだ。芒野こっこの髪型は特徴的だ。すぐに見つけられそうなものだが……。対して俺はごくごく一般的な高校生。制服も着ていて圧倒的モブ感!
「残念でした! 私の方が先にみーっけ!」
だというのに、俺が見つけるよりも早く、背後からこっこの声がした。
しめしめといった口ぶりに、ちょっと悔しさを募らせ、しかし、あの芒野こっこが、こんな人通りの多い場所で俺をすぐに見つけてくれたことがかなり嬉しかった。
黒とピンクのアシメカラーは、紺色のキャスケット帽で隠され、さらにまん丸の伊達メガネで一応の変装はしているみたいだった。
「……俺の事見つけてからメッセージ送ったでしょ?」
「えー? ちがいますけどー?」
こんな感じのやり取りに胸をほわほわさせつつ、彼女の案内のもと、その【推しショップ】なる場所へ向かった。駅から徒歩で10分くらいだと言うが、クレープなんか買ったりして、あとこっこが店の前でウィンドウショッピングにも花を咲かせるので、なかなか辿り着けないでいた。
「こっこー?」
「あーごめん! ごめん! 今行きまーす! はーい!」
うん、これは、デートじゃねえな。
……子守りだ。物欲に負けそうな子供を諫める親か親戚のおじさんみたいな。そんな立ち位置だ、俺。
しかしこっこなら、欲しいと思ったらとりあえず買う。なんてことくらいできるほど稼いでると思うんだが、目を輝かせて服を見るも、結局買わないんだよな。欲しいものを見て、目の保養ができれば十分なのかな?
俺はそろそろ、歩くの疲れたんだけど……。
「ねーまだー?」
そんな不満が口に出た。我ながらガキのようなことを言う。
こっこは笑って「もうそろそろ」だと言うが、それは十分前にも聞いた気が……。
「あったあった。ほら、あそこ!」
角を曲がって、小路地に差しかかる。
途端に人通りが少なくなって、建物の影が日を遮り、気温もふわりと涼しくなった。ふう、と一息ついた気分だ。
こっこが指さす方を見ると――。
――そんな気分も、途端に吹き飛んだ。
その門構えの圧倒的存在感に、俺は思わず、生唾を飲む。ゴクリと喉が鳴った。隣のこっこも俺の変化に気づいたようで、ちらりと彼女を見ると、目を合わせてきて、ニィと笑うのだった。
「やっぱり、カズキくんにもこのヤバさ……分かっちゃうよね。ね! もうこの店、見るからにゾクゾクするよね!」
いやこれ、誰が見たってやべぇだろ!
周りの建物はコンクリートやレンガ調の外観のビル群にだというのに、この店……まず木造平屋。ヤバい。浮いてる。存在が浮いてる。
それで店構えはカウンター形式になっているんだが、カウンターには盾を背にクロスした剣の紋章がトレードマークとして描かれており、もうそれを見ただけで武器屋ってわかる。
それだけでわかるのに! 店には看板が掲げてあるんだけど、それにもう【武器屋】って書いちゃってる! 店の名前! 武器屋! すごくシンプルでわかりやすい!
「やべぇ……武器屋だ。武器屋がある!」
「ゾクゾクするでしょ?」
「ゾクゾクする!」
興奮が冷めやらない。俺は今、武器屋の前に立っているのだ。どこかで見たことあるような平凡な……だけど絶対にあるわけがない。そんな場所に今、立っている!
こんな店があるなんて、全然知らなかった。いつもホームセンターで揃えるだけだもんな……。しかもなるべく特売になってるやつを選ぶ……。
ダンジョン専門店なんてあるのは知っていたが、雑誌で見るのは、それこそ、服や靴みたいに、おしゃれなビルにおしゃれに展示してあったり、海外ブランドの数十万するものだったりで、全然足を運んでみようという気にならなかったんだよな。
だけどここは! なんというか、心をくすぐられるっていうか!
来たかいがあった。とでも言っておくか……!
「やっほー店長さん。新作あるって聞いて、飛んできたよー!」
さっそくこっこがフレンドリーにカウンターの奥にいるおじさんへと話しかける。おじさんも頭に手ぬぐいなんて巻いて、筋肉質なのに、太ってる! お相撲さん体型だ。これぞ武器屋のオヤジってかんじ!
「おうおう、こっこちゃん! 来てくれたか! ……って、なんだい、男連れか。こっこちゃんもとうとう、彼氏の一人でも作る歳になったんかねえ……」
最初にこっこを見て嬉しそうに対応する武器屋のオヤジは、しかしこっこの横に立つ俺に目をやると、怪訝な顔をしてみせた。
気難しそうなところもまた、いい……。
「ちっちがうしー! 彼氏じゃないしー! もう、私の配信ちゃんと見てたらわかるでしょー?」
「なにぃ? その物言い、まさかこいつが、こっこちゃんよりも先に裏ダンジョンにいたカズキか?」
「へへへ……ども……」
俺のことを知ってくれているようだ。今更隠すこともないし、素直に肯定してみせる。
するとなぜか、さっきの怪訝な表情よりも、さらに険しく俺を睨みつけるのだった。
「……カズキくんとやら。一つ聞く。お前にとって武器ってなんだ?」
「え、ロマン……」
あ、反射で即答しちまった。これたぶん武器屋のオヤジが俺を見定めるテストで聞いたんだろうに、もうちょっと考えて答えたかった……! たぶん認めて貰えなかったら、ここから買わせてもらえないんだろうな。
再試あるかな……。
「ロマンだとぉ!? ふざけてんのかてめぇ!」
案の定、怒られた! 待ってこれゲームで例えるなら会話ボタン連打しすぎて急に出てきた選択肢の一番上選んじゃっただけだから! ほんとはもっと気の利いたこと言えるから!
だけども今はまだオヤジの会話ターン。ここで言い訳するのは逆効果だ。俺は聴に徹するのみ……。
「カズキくんよぉ。武器はロマンだとかぬかす奴が、今、どんな武器使ってるよ? そこら辺で買い揃えた適当な剣と弓だろ? なあ、それのどこにロマンあんだよ?」
「いやそれは……お金の問題がですね……」
「金がねえ!? 裏ダンジョンに潜っといて、あんな高純度の魔石や上質なモンスター素材今までかき集めて、金がないってどういうことだよ!?」
それは俺も知りたい。てか、表と裏じゃ魔石の純度が違うってさっき知ったばかりなのだから、それを俺に聞かれても困る。
マジでどういうことやねん。
「あ、それ私も気になったんだけど。メッセージで聞かれた時も、違和感ありまくりだったんだよねー。普段、魔石の換金どうしてるの?」
うーん……。
母さんに頼んどくと、数日のうちに、表の相場通りの現金を手渡しされるんだけど、まさか、母さんが勝手に残りを預かってる? それとも、母さんが利用してる換金ショップに騙されてる……?
うわあ、これはなかなか、聞きにくいぞ……。
あと身内のこと、こっこにも言い辛い。ちょっと一人で、探ってみるか……。
「――なんてことがあってさ。師匠、どう思う?」
「さあね。妾に親心なんてわかんないし、バレるような詐欺行為をするショップの知能だってわかりゃしないわよ。ウダウダ考えてないで、直接聞いてみることね」
「だよなあ。はあ、気が重いなあ」
まさか母さんが俺に入るはずの金銭を中抜きしていたとかは、考えたくもないが……実際問題、消えた金があるのだ。俺だってもしこのまま黙っていれば、搾取され続けるだけかもしれない。それは嫌だ。
「ところでカズキ。今日は話の重さのわりに、結構調子良さそうね。あ、武器変えたの?」
「当たりー。こっこが記念にプレゼントしてくれたんだよね。武器屋のククリナイフ。初めて使うのに、なんだか手になじむんだよ」
実は、コロシアムでスキンヘッドが使っていたこれを見て、かなりときめいたんだよな。俺のロマンが、うずうずとな……!
それ以来、ククリナイフは一度使ってみたかったんだ。
それにククリナイフは師匠の曲刀みたいに刀身の側面が広く、敵の攻撃を受け流すこともできるようになった。師匠がやっているのを何度も見てるから、それほど苦もなくできるようになった。やったぜ。ダンジョン攻略のバリエーションが増えた!
「ふーん……ま、頑張りなさいよ。今日も勝ちは譲ってあげるわ」
「ありがとうございます。師匠!」
正面からの斬り合いに押し勝ち、正々堂々と師匠の首をとれたのも何気に初だ。今日は本当に調子がいい。
嫌なことから目をそむけている時って、なぜか、びっくりするくらい、それ以外のことが
タイラントマンティスの飛刃も対処できたのが、なんだか上手くいきすぎてる気がして、今日は魔法もスキルもほとんど消費していなかったけど、12Fで切り上げた。
明日は、ちょっと母さんと話してみるか……。
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