10:火ぶたは切って落とされる
手続きが済むと、【三番コロシアム控室B】と書かれたTP《トランスポーター》を受け取った。それをヘッドセットに接続することで、決闘の舞台へワープすることができるようになるというわけだ。
コロシアムのシステムはまず、冒険者バトルの参加者各自、控室にワープする。
そこで試合用の武器防具に着替え、必要に応じたダンジョンマジックとダンジョンスキルをセット。
魔法もスキルも、セット上限は、コロシアム内では三つまでとなるみたいだな。この組み合わせでいかに相手を圧倒するか、翻弄するかが、カギとなるわけだ。
「うーん、対人戦は専門外だから、どの魔法とスキルがあればいいのか、よくわからないねー」
せっかくだし、一緒に控室まで来てもらった芒野こっこに意見を伺ってみるも、そんな言葉が返ってくる。そりゃそうか。
俺やこっこみたいに、ダンジョン探索を主とする冒険者がいる一方で、対人専門のプロバトラーなんて人もいる。
……というか、むしろコロシアム選手の方が、ぶっちゃけダンジョンに入り浸る冒険者よりも人口は多い。
コロシアムじゃ、死ぬことなんてまずないもんな。
ダンジョン探索では、どうしてもモンスターに命を奪われる可能性は否定できない。だから代わりに、スポーツ感覚で冒険者バトルができるコロシアムの敷居の低さは、エンジョイ勢には魅力的なのだ。
……俺が、コロシアムのダンジョンTP《トランスポーター》を持たなかった理由の一つでもある。もちろん金銭面の割合の方が大きいが……。
何より、ぬるま湯一度でも浸かってしまったら、ダンジョン攻略なんて殺伐とした世界には戻れなくなってしまうような気がして、なかなか手が出なかったのだ。
とはいえ、興味もあった。だからこっこの誘いにも乗ったしな。
そして【芒野こっこファンクラブ】のイカレ野郎共を、合法的にボコボコにできる機会に恵まれたこの機を逃す理由はない。
完膚なきまでにボコボコにしたるっ!
そんなわけで、いかにあいつらの鼻を明かしてやるかを考えているわけだ。
そのための魔法とスキル選びが……うーん。悩ましい。
――今回のバトルのルールは、一対一のシングルマッチ。
あいつら三人、もしくはもっと大勢で、俺をリンチにしようだなんて考えているのだろうと踏んでいたのだが、以外にも、シングルマッチを提案したのは向こうからだった。
俺を、ただのダンジョン攻略者だと思っているのか? あいつら、よっぽど対人戦に自身があるのか?
だけどわかってる? 俺が潜っていたの、裏ダンジョンなんですけどー? それホントにわかってるー? そこらの一般冒険者と一緒にしてくれるなよ?
――なんて、舐めてかかってやらないぞ。俺は。
どうせあいつらのことだ。何かあるに決まっている。
プロバトラーでも呼んできてるのかもしれないな。なんせ、決闘罪の自爆覚悟で俺を犯罪者に仕立て上げようとするようなイカレ野郎共だ。むしろそれくらい、ふつうにしてくる。
となれば、さらに俺を追い詰める工夫がなされていると考えてもいいだろう。
コロシアムのフィールドに何か罠を仕掛けているとかもあり得る。注意しないとな……。うーむ……。
「あー、やめた。いろいろ気取って、考えるの、バカらしくなってきた」
「えー、そう? どうすれば攻略できるか考えるの、楽しいけどな」
そりゃこっこは遊び感覚だもの。相手の素性も、俺の知り合いかなんかだとしか思ってない。
友達なら、そりゃ気合い入れて勝ちに行くし、腹の探り合いなんて楽しいにきまってる。勝っても負けても笑い合えるだろうよ。
だけど今回の相手は、負けたら死ぬほど悔しいってか惨めってか屈辱だし……。
なにより、勝ってもあんま嬉しくなさそうなんだよな……。
家に出たゴキブリ潰しても、別にうれしくないじゃん? そんな気持ち。
だから俺の選択肢は、もう、これでいいや――。
――そして準備が完了したので、いよいよ俺は、コロシアムのフィールドに降り立った。
ライトがまぶしい。一瞬、目をつぶって……そして、割れんばかりの大歓声に、俺は心底、度肝を抜かれたのだった……。
「わあああああああああああああああ!!! 山本カズキがきたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「すげええええええええええ!!! ミスター裏ダンジョンがコロシアムにやってきたああああああああああああ!!!」
「くたばれええええええええええええええ!!!」
「カズキくううううううん!!! がんばってえええええええええ!!!」
「しねえええええええええええ!!!」
「こっこをかえせえええええええええええええええ!!!」
いろんな声援。暴言。入り乱れ、うるさく脳内に反響する。
なんだ、これ……!? 何がどうなってんの!?
「ヘイ! 挑戦者カズキ! 今日はよろしく頼むぜ……! この俺様に、ボコボコにされるために来てくれてありがとなァ! こんなに観客を敷き詰めてくれるサプライズまであるなんて、俺様、すっごくウレシイぜ!?」
そしてフィールドで待ち構えていた、筋肉質のスキンヘッドが意気揚々と話しかけてくる。
こいつが対戦者か……。確かに、強そうだな。バトル慣れしている感じがひしひしと伝わってくる。
まさかあいつら、こんなに大勢の観客を用意していたとは、なるほど。たまげたよ。
見れば、中継用の【カメラファンネル】も複数台、飛び回っている。
俺が無様にやられる姿を、誰もが納得する形で全国中継することで、俺の心をズタボロに折る作戦だったか。
確かに負けたら、あいつらの想定通り、俺の心はへし折れるだろうな。
……まあでもそれは、負けたらの話だけどな?
あいにく負けてやるつもりはない。
全力でぶっ倒す!
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