俺だけ裏ダンジョンに潜っていた件~表ダンジョンをクリアした美少女有名配信者が1Fのゴブリンにボコられてたのを助けたら彼女に粘着されてそれ以来なんかバズってる~
1:ダンジョン潜って早2年。誰とも出会ったことがありません…
俺だけ裏ダンジョンに潜っていた件~表ダンジョンをクリアした美少女有名配信者が1Fのゴブリンにボコられてたのを助けたら彼女に粘着されてそれ以来なんかバズってる~
八゜幡寺
1:ダンジョン潜って早2年。誰とも出会ったことがありません…
目の前に立ちはだかる……、一匹の巨大なカマキリ。
そいつが右腕の鎌を振り上げた瞬間、俺は瞬時に飛びのいた。
刹那に、真空の飛刃が、俺の足首を数センチだけ切り裂いた……っ!
「痛っ! くそ、反応が遅れた……!」
とか言ってる間にも人食いカマキリの飛刃攻撃が襲ってくる。ちょっとは容赦してほしいものだが……モンスターには、人間の都合なんて関係ない。
仕方なく、半身になって剣を構えて……敵の飛刃が剣に触れたタイミングで瞬間に角度を調整して攻撃を受け流す!
なにせ見えない刃が、立て続けに飛んでくるのだ。俺の実力じゃ……すべてを避け切ることは不可能。
だからなるべく表面積を狭くして、剣を盾代わりに、後は己の反射神経を信じて受け流す! 剣に触れないような斬撃で身体の端々がちょくちょく切り刻まれて痛いけど、それは仕方ない! 諦める!
飛刃を受け流しつつ、半身になった後ろ手でポケットをまさぐる。手にした小瓶はポーションと呼ばれる回復薬だ。
一瓶2000円……。高校生のお小遣いには高額だ。
痛いからってすぐに飲まずに、体力の減少幅と回復量が見合うギリッギリを見極めて……飲むっ!
味は炭酸の抜けた常温のコーラってとこか! やや不味い寄りの風味! だけどそんなこと気にしてる暇はないので、一気に飲み下す!
たちまち傷が癒えていく。痛みもみるみる引いていく。
そしたら丁度、カマキリの攻撃もインターバルを挟むタイミングとなった。これを待っていた!
「うおおおおっ! ダンジョンマジック発動! 【
「ギギィッ!?」
よしっ! 命中!
一瞬だけ相手の動きを止める魔法だが、本当に一瞬だけだから使い所の見極めが難しい、ダンジョン内でのみ使える魔法だ。
一度のダンジョン潜行での使用回数も決まってるし、そしてこれが、最後の一回だった。当たってよかった……!
麻痺による硬直時間は、俺の場合はだいたい0.5秒。
……ダンジョン配信の動画を見てると、誰もが【
もう2年も、このダンジョンで切磋琢磨してるんだけどなあ。
「ダンジョンスキル【
なんて、自分を卑下しながらも、相手が動けない内にさっさと片付けよう。【
スキルを使用し、全筋力を躍動させて、カマキリの首を目掛けて渾身の一振りを見舞う。
俺の剣とカマキリの首が衝突すると、まるで飲み終わった空き缶を捻り潰すような金属音が鳴り響いた。スキルの効果で、それがもう一度聞こえてきたのと同時に、渾身の力を込めた剣は、反対側へヌルッと振り抜けた。
無事にカマキリの首を切り落とすことに成功したのだった。
「はぁ……今日はもう、これでダンジョンを出よう。【
最後に巨大カマキリからドロップした魔石とモンスター素材を回収して、帰還アイテム【白鷲の羽】を使って……俺は、自室へと舞い戻った。
……電気がついていて室内は明るいものの、外は真っ暗だ。時計を確認すれば、午前二時……。どうりで、眠いわけだ。
「……今日は、12Fまで行けたよ。でも『タイラントマンティス』は、やっぱ何度やっても慣れないな。どうしてもポーションを使う確率が高くなる。どうにかあいつと鉢合わないで、階層を降りれたら、もうちょっといけるんだけど……」
使い古されたダンジョン・ダイブ用のヘッドセットに、意味もなく語りかけた。
ダンジョン・ダイブは、モンスターに殺される危険と隣り合わせな反面、ダンジョンでしか入手できないアイテムで一攫千金を狙えることもあり、特に、動画配信で爆発的な人気を誇るジャンルの一つだ。
人々は見たこともないお宝を、配信を通して夢見たり……。
または、配信者が今にも死ぬかもしれないという背徳感と臨場感を期待して、見入ってしまうのだ。
俺もダンジョンの配信動画は、ダンジョン・ダイブし始めた頃はよく見ていた。
ダンジョン内での立ち回りや、モンスターの対処法などを学ぶためだ。
だけど俺の実力がないために、全然、動画のようにうまく立ち回れないでいた。
結局、地道な経験に基づいて、ちょっとずつ攻略していくしかなかったわけだが……。次第に配信は見なくなった。見ても全然学べないから。
……それに、配信者達は、平均で30Fあたりをコンスタントに挑戦していけるのに対して、俺はせいぜい、10Fあたりをウロウロするだけ。
劣等感で、見てられないってわけだ……。
通っている高校にもダンジョン・ダイブをしている生徒たちはかなりいるが、聞けば、20Fまでは余裕とのこと。
タイラントマンティスなんて、苦戦する意味がわからないとまで言われたことがある。このやろう。バカにしやがって。
俺はこれまで、俺以外にダンジョン・ダイブしている人と、ダンジョン内で出会ったことがない。
それは、俺が弱すぎて低層で足踏みしている間に、みんなとっくに上の階層で熟練していっているためだと、この頃、気づいた。
「……ま、だからといって、やめるつもりは無いんだけどさ。どうせ趣味だしな……」
モンスターと戦っていると、嫌なこととか、煩わしいことが、忘れられるんだ。死と隣り合わせである緊張感が、ウザったい日常なんてすっ飛ばしてくれる。それが心地よいんだ。
ただ、趣味でも人に負けるのは落ち込むって話……。
「ふあ……風呂入って、寝よ。アイテムは明日にでもまた母さんに頼んで、換金してもらって……」
──そして今日もまた、俺はダンジョンに潜る。
独りぼっちで、1Fから地道に階層を重ねていく……。
「きゃあああああっ! 誰か助けてえええっ!」
……え!?
人の悲鳴。突然のことに、頭がパニクる。
ダンジョン内で、誰かの声を聞いたのは初めてだった。
ここはまだ1F。出てくるモンスターはゴブリンしかいなくて、しかも大抵は一匹ずつしか現れない。
ほとんどの場合、こんなところで苦戦する冒険者なんていやしない。
……俺は、めちゃくちゃ苦戦したけどな。
聞いていたよりもよっぽど強くて、凶暴で、ここのゴブリン共には何度も殺されかけた。
もしかしたら、俺と同じような、ダンジョン探索の才能のかけらもない新人が、勇んでやって来て、返り討ちにあっているのかもしれない。
ダンジョンにおいて最弱とされるゴブリンといえど、その殺傷能力は十分に人の命を奪える。
悲鳴の主が危ない。
急いで駆け出し、人命救助という役割の緊張感に、震えた。
幸いにも、すぐに彼女を発見することができた。
だけど今にも、ゴブリンの毒牙にかかろうとしている。一刻の猶予もない……!
「ダンジョンマジック発動! 【
人差し指で標的を補足して魔法を発動! 悲鳴の主に気を取られていたゴブリンは、避ける間もなく、まんまと命中した。
だけど俺の【
まあ俺のメイン武器は弓矢だから、問題ないんだけどっ! 矢は消耗品だからもったいないって話っ!
今の俺なら、ゴブリン程度、スキルを発動するまでもない。
脳天めがけての三連射でもって、サクッとゴブリンを絶命せしめた。
ふう……。なんとか、間に合った。
ぺたんと尻餅をつく新人女性冒険者。いや、新人……? なんだか、見たことある顔なんだけど……?
「うう……こわかったあああ! マジで今、ヤバかったよおおお!!! 死ぬかと思ったあああ!!!」
顔を真っ赤にして泣きべそをかいて、その所作はまんま新人冒険者そのものなのだが……。
あれ? なんだか、装備品が、熟練のそれにしか見えないわけで……。
というか、中継用の『カメラファンネル』飛ばしてる? 配信者?
ん、配信者……?
あれ? この顔……この装備……!?
「……え? まさか、あの有名配信者の、
え、まじ? いや見間違うはずがない。
黒とピンクのアシメカラーの髪。装備品に貼られた、オリジナルのハート型のステッカー。
てか、スポンサーのロゴマークついとるやん……。
俺が、ダンジョンに潜るための予備知識として見ていた、美少女有名配信者だ!
なんで1Fなんかでゴブリンに殺されかけてんだ!?
「てか……なんでここに冒険者いるの!?」
「いや、それはこっちのセリフ……。なんであの
彼女のダンジョン探索は、俺の目指したプレイスタイルだった。彼女を追いかけて、俺はダンジョンに潜ったと言ってもいい。
それがどうして……。
「いやいや、私もまさか1Fのモンスターがここまで強いなんて思ってもなかったし……てかほんと、なんでここに冒険者がいるわけ? 表ダンジョンのラスボスを倒さないと入れない裏ダンジョンなんですけど!? 表の完全制覇って、私が一番最初のはずなんですけど!?」
「……へ?」
裏ダンジョン……?
俺が今まで攻略していたこのダンジョン、もしかして、他の人よりも格段に難易度高かったのか!?
俺がこれまで挑んできた敵たちは、有名配信者が手も足も出ないほどのモンスターだったってのか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます