9.好きすぎて




───結局、布団は新しくした。私のヘソクリで充分なものが買えた。大きい布団を二枚並べて、寝転がる。


「わぁ~、やっぱり新しい布団って気持ち良いね~」


 フカフカの布団に顔を埋めて、すぅ〜と息を吸い込む。


「気持ち良いけど、遠くね?」


 彼はそう言って、私の布団の中に入ってくる。


「俺はこの方が良い」


 ぎゅーっと抱き締められて。徐々に彼の手が服の中に滑り込んでくる。……首元を、唇が這う。私もあっという間にスイッチが入った。



 気付けば、服は布団の外に散らばっていて。

 密着して二人の体温を交換し合い、夢中でキスをしていた。



 ふと、彼が耳の方に顔を近づけてくる。



 くすぐったくて身を捩った……そのときだった。






「………好き…」





………え?


 今のは幻聴かと、身体を離して彼を見る。


「俺、あんたのこと好きだ」


 真っ直ぐに見つめ合う。

 なんでだろう……、すごく切ない顔をしてる。


「私も好きだよ」


 あふれる想いをぶつけるように、力強く伝えた。



 彼は「ふぅ~」と大きく息を吐いて。

 愛おしそうに私の頬をそっと撫でながら……






「好きすぎて殺したくなる」







 今、なんて……?


 衝撃的な言葉に、固まってしまう。


「───…え?」

「………やっぱ俺おかしいよな。忘れて」


 ゆっくりと身体が離れていく。自分の布団に戻ろうとする彼の背中に、ピタッとくっ付いた。


 背を向けたまま、彼は話し始める。



「………怖いんだ」

「……え?」

「俺ん中に流れてる血が……。殺人犯の血が……怖いんだよ……。いつか自分もやりかねない。……そうゆう衝動があんの、俺にも」


 いつもは逞しい男の子の背中が、震えていた。


 私は上体を起こすと、彼を仰向けにさせて跨る。

 覆い被さって顔を近づけ、そっと唇にキスを落とした。



「いいよ」

「………え?」


 彼は、ぼんやりした顔で固まってる。


「殺されたって別にかまわないよ、私は」



 本心だった。もう、そう思えるくらいには充分に、彼のことを愛していた。


 好きな人の手でこの命を終わらせてもらえるのなら……むしろ、幸せの極みだ。


 彼はフワッと柔らかい顔をして。

 私の身体を自分にピッタリくっ付けると、




「………ありがとう」



 いつかのあの日みたいに。

 優しい声で、そう言ってくれた────


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