詩・童話・その他
本書を魔とする / 黒水 様
作品名:本書を魔とする
作者名:黒水
URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330663131320828
ジャンル:詩・童話・その他
コメント記入年月日:2024年1月24日
以下、コメント全文。
はじめまして。
この度は『批評&アドバイスします』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。
作品の方を拝読致しました。
内容としてはファンタジーな世界観を舞台に、哲学の深層に浸るという独特な試みが為されていたかと思います。作品の冒頭部分の記述から察するに、本作は黒水様が己の内側を見つめ直すためのものでもあったということで。そう考えると、「戯曲形式のオートフィクション」として内容を読み取ることもできます。そのことによる弊害は後述しますが、独創的な作品であったことに変わりはありません。物語の根底にある哲学は興味深く、久しぶりに中身の濃いものを味わえたような気がします。短編において常に課題となる内容の薄さをまったく感じさせない、たしかな経験と感性に裏打ちされた哲学には脱帽します。
文章面においては戯曲ならではの制約があるとはいえ、台詞回しには個性が表れていたように感じます。韻を踏んだジョークや、あえて空気を読まない奔放な言動など。それらはウィットに富んでおり、乾いた文体とよくマッチしていました。特に、心臓を奪われた剣士の冗談とも皮肉とも取れる台詞や、猫の好奇心の赴くままに物事を問う姿勢は、暗めの世界観にシニカルな雰囲気をもたらしていたと思います。作風からして笑う要素が少ないことを逆手に取っていた印象を受けます。もちろん、そうした味付けによって作風が乱れることはなく、没入を妨げない程度に機能していました。それと同時に、両者の関係性とその変化を暗示する役割を担っていたとも考えられます。
では、続いては気になった点を挙げます。
➀物語の意味
➁想像の余白
まずは➀、物語の意味について。
漠然とした主題ですが、ここでは「物語の使い方」を指します。本作は前述のように趣向の凝らされた部分が散見されますが、その実「作者のための作品」というイメージはかなり強いものになっています。黒水様の哲学や持論が、物語の中で形を得ていることは感心するべきことなのですが、その主張があまりに強すぎるのも事実です。そのために本作は作者の哲学や持論を論証するための道具という色が強く、物語が理屈っぽいものになっています。加えて戯曲形式ということもあり、登場人物たちが心境の変化に至るまでの過程の描写がやや強引であることも否定できません。これらのことから本作には、物語を思考実験の装置とみなしたエッセイだという印象を受けます。
その原因としては、第一に本作が個人の内側に向けたものであること、そして作品の本質に哲学があることが挙げられます。つまりは、作品を形作る要素の割合の問題です。哲学、メッセージ性を重視した作品には往々にして理屈っぽさが付き纏います。それは、「特定の場面に意味を持たせる」ことが多いからです。この場面を使って、こういうことを述べたい。何気ない場面をなにかの暗喩として使いたい。そうした「面白い」、「派手」、「悲しい」などの直情的な描写のさらに先を考えている方ほど、作品には作為的だと捉えられかねない点が表れます。これは本来ならば美点である一方で伝え方を誤ると、読者の頭にはくどさしか残らなくなってしまいます。
そこで割合の話に戻ります。理屈っぽさ、説教くささを減らすための方法。それは物語に意味を与えることです。作品の根底にある哲学とは関係なく、純粋な物語そのものの面白さを作り出す。たとえば魅力的な人物描写、予想を裏切る話の展開、洗練された文章表現など。戯曲の場合は勝手が違うので難しいですが、話の展開にはまだ手を加える余地があるはずです。まずは話の結論を急がず、過程を意識してみてください。どんな出来事、やり取りがあったから最終的な哲学が生まれたのか。一連の流れに肉付けすることができれば主張の強さが薄まり、物語単品での面白さが引き立つことになると考えられます。普通に読めば「面白い話だった」で終わる、深読みすると「そこには哲学がある」とわかる。それくらいの匙加減が理想的であるといえます。
次に➁、想像の余白について。
作中では単語や行為の理由への定義づけ、説明が徹底されています。こちらも戯曲であるがゆえの短所なのですが、これらは読者が能動的に作品を楽しむことを妨げています。小説であれば文章表現によって、いかようにも場面や心情を読者に想像させられます。しかし、戯曲はそうはいきません。読者に想像させることができない代わりに、客観的に状況や場面説明をします。このことは作品を無機質なものに変えることにつながります。本作は台詞や人物造形に力が入っていたので、そうしたものの面白味が半減するのは実に惜しいです。
戯曲形式を否定はしません。ただ、もう少し補足説明を抑えてみてはどうかと思います。本編では一部を匂わせ程度で終わらせて、「おまけ」で最終的に答え合わせをする構成でもいいでしょうし、猫のリンゴの話などは、本編の最後でその意味がわかるという展開にするのも一興ではないでしょうか。話が進む前にあらゆる情報が明かされると、どうしても先の展開に大方の想像がついてしまいます。当然すべての読者がそうではなく、想像した展開と違うなんてこともあるはずです。それでも不必要に読者の意欲を削がないためにも、想像の余白は残しておくことも重要です。これは➀にも通ずる部分であり、読者には物語がどう見えるのかという部分も関わってきます。作品の醍醐味である哲学を有効活用するためにも、明かすべき事柄とそうでないものを吟味していただければ幸いです。
最後に一点。
余談になりますが、作品の詳細部分のデータにおいて執筆状況の欄が「連載中」となっています。物語としては完結しているようなので、完結済みであれば修正された方がよいかと思います。取り急ぎご報告まで。
以上になります。
作者様の創作活動のお力になれたのならなによりです。
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