異世界ファンタジー

Haphazard Fantasy ~エイルの不思議な冒険~ / 加藤大樹 様

 作品名:Haphazard Fantasy ~エイルの不思議な冒険~

 作者名:加藤大樹

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330650090906289

 ジャンル:異世界ファンタジー

 コメント記入年月日:2024年1月22日、1月25日


 以下、コメント全文。


 この度は『批評&アドバイスします』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 希望された箇所までの内容は一通り拝読致しました。

 以前の批評企画で前半部分はすでに拝読していたこともあり、残りの内容はすんなりと理解することができました。本作の客観的な分析に関しても、結果は以前とさほど変わらなかった印象です。地の文は読みやすく、それでいて情景描写や心理描写の書き込みには注力されていたように思います。だから文章がくどくなるということは少なく、分量は適度な量に収められていました。この辺りの技術力に関しては、こちらも見習いたいものです。描写とそれが生み出す雰囲気は作風と合致しており、作中世界のシリアスかつ幻想的な空気感が引き立てられていました。それは戦闘描写においても同様で、スピーディーな攻防戦から垣間見える過酷な命のやり取りは、描写力なくして生まれなかったものだといえます。


 物語について気になった点は後述しますが、少年少女の感情の機微は丁寧に表現されていました。無鉄砲さや勇気、友愛、絆など。ときとしてそれらが裏目に出ようとも、行動の起点として機能していたことは物語の求心力につながっていたと考えられます。個人差はあるでしょうが、大多数の人間が共感しやすい情動が「困難な出来事」や「悲しい出来事」を通して描かれていました。このことは子どもにとっては身近な話、大人にとってはかつて経験した想い出として、それぞれ想像を膨らませるきっかけと成り得たはずです。そうした意味ではまさしく児童文学の魅力が凝縮された作品であり、その魅力は安定した描写力によって支えられていたと考えることができます。


 では、続いては気になった点をまとめていきます。

 近況ノートにいただいたコメントをもとに、それぞれの項目に返信する形で述べていきます。なお以前の批評内容と重複、蛇足の可能性がある内容も含まれるので、不要な解説は流し読みしていただければと思います。


 ➀表現の一貫性

 ➁描写の配分

 ③「少女の夢 15」の印象

 ➃作品のツッコミどころ

 ➄前回の批評内容を踏まえて


 ➀、表現の一貫性について。

 こちらは前述の通り、特に問題はありません。表現は安定しており、単語選びには一貫性が認められました。過度に難しい、易しい、といった語彙力の落差もありません。ただし、易しい表現として「ちょっぴり」という単語は頻出していました。言い回しに問題はないのですが、あまり使いすぎると悪目立ちする恐れがあります。とりわけ小説は韻を踏んだり、文章自体を伏線にしたりする場合を除き、同じ表現の多用は避ける傾向にあります。理由は様々ですが、一つには「読者に手抜きだと思われないため」があります。同じ表現ばかりを使うと、それだけで作品に飽きられてしまうこともしばしば。是非とも持ち前の表現力を生かして、表現のレパートリーを少しだけ増やしていただければと思います。


 ➁、描写の配分。

 描写に関しては心理描写が他の描写に比べて多いですが、許容範囲ではあります。


 ③、「少女の夢 15」の印象。

 それまでの話との差は感じられませんでした。たしかに世界観の説明が主なエピソードだった一方、それまでの雰囲気を壊したようには思えません。


 ➃、作品のツッコミどころ。

 いくつかあるので、まずは箇条書きで記します。


 ・児童文学として過激すぎる内容

 ・ファンタジー要素の唐突な登場

 ・大穴に落ちる、落ちてからの行動の異常さ


 一つ目は、本作は児童文学なのかという点です。

 エルエッタとシャミィの絡みはひとまずおいて、序盤のエイルが大穴に落ちたあとに魔の者に襲われる場面は、さすがに過激すぎる印象を受けます。部位欠損や内蔵の露出などは、児童文学にふさわしくない描写でしょう。児童文学といっても素朴な味わいが売りの物語から、『ライ麦畑でつかまえて』のような攻撃的なものもありますが、本作の過激さはまたベクトルが違います。ダークファンタジーで通すのであれば問題ないですが、児童文学で通すのは厳しいのではないでしょうか。児童文学の雰囲気を意識されるのなら、該当する描写はオブラートに包んだ方が無難です。


 たとえば魔の者の幻術によって、エイルは暗闇で迷子になる。他には引っ掻かれるくらいの軽傷で済むが、子どもにとっては恐怖そのものだったという描写にするなど。子どもからすれば、暗闇でさえ十分に恐怖の対象になります。存在しないものを闇に想像し、小さな音にも怯えて飛び上がる。そこに魔の者の「ちょっとしたイタズラ」が加われば、それなりの恐怖を演出できるはずです。その場合、エイルに魔法を使わせない方法を考える必要がありますが。とにかく、過激な描写はなるべく控えることをオススメします。


 二つ目は、ファンタジー要素の登場の仕方。

 これは以前の批評でも触れた気がしますが、登場が唐突すぎます。児童文学であれば設定をそれほど理詰めする必要はありませんが、なんの説明もなくいきなりファンタジー要素が登場すると違和感は大きくなります。このことの説明は二章の序盤で為されていたので、それを一章の冒頭に持ってくることで解決できるはずです。他には、エイルが父と剣の稽古をする場面で、「お前は魔法の腕前は目を瞠るものがあるが、剣術はからっきしだ」という台詞を父に言わせ、魔法の存在を仄めかしてもいいでしょう。


 三つ目は、大穴とその後の流れ。

 大穴に落ちる場面は、やはり唐突です。文章からは狩りに成功した興奮と慢心から注意力散漫になったことが窺える反面、流れが出来すぎているようにも見えてしまいます。そこで大穴に落ちる前に、さらなる描写を足せば唐突さが緩和されるのではないでしょうか。私が思いつく範囲だと視界不良や、獣の唸り声に驚いてエイルが転倒するなど。そうしたワンクッションがあれば、ハプニングに見舞われた経緯にも説得力が増すかと思います。


 そして、その後の流れですね。これは魔の者を撃退し、エイルとヴェルダンが暗闇の先を目指す場面です。作中では成長の通過儀礼として描かれるわけですが、読者目線で考えると共感しづらいものとなっています。理由は、先に挙げた過激な描写にあります。魔の者と命のやり取り、それも生死の境を彷徨うほどの闘いをした末に大穴の調査を続行する。フィクションとはいえ、彼らの正気を疑ってしまいます。どんなに説得されようとも、ヴェルダンはエイルを大事に思うならば大穴から一刻も早く脱出するべきですし、エイルも意地の張りどころを間違えている気がしてなりません。作中での心理描写を以てしても、この考えを覆すのは難しいでしょう。生命の果実で全快したものの、エイルは腕を食い千切られるわ、内臓は引きずり出されるわと散々な目に遭っているわけなので。


 こうした違和感はすべて、描写の過激さに起因しています。魔の者との対峙がもう少し控えめなものであれば、調査を続行することに違和感は生まれないですし、児童文学としても至極真っ当な流れだと考えることができます。現状に手を加えるとするなら描写の過激さを抑える、あるいは崩落などで来た道を引き返せないといった「先に進むしかない」理由を設ける、あとは大穴の存在を父に報告することに「絶対的な使命感」を持たせる。これらのいずれかの根拠があれば一連の流れに違和感はなくなり、二人の冒険は読者が素直に応援しやすいものになるはずです。


 ➄、前回の批評内容を踏まえて。

 前回は大まかに物語の展開と、視点について触れたかと思います。今回、拝読した範囲においても同様の課題があります。とはいえ本作は習作であり、加藤様のスタンスとしても形はどうであれ、完結させることが目標であったかと思います。であれば、これ以降の内容は蛇足ではあります。以下の内容は読み飛ばしていただいても構いません。


 まずは物語の展開について。

 やはり間延びしています。第二章はエルエッタが中心の話で、肝心のエイルは蚊帳の外。作中世界の事情や設定は明らかになっても、物語は一向に進む様子がありません。群像劇で物語が進むこと、作品の尺(あと何万字で完結するのか)が不透明ということも相まって、客観的にみると先行きの怪しい作品に思えてなりません。プロットを用意されているのかはわかりませんが一旦、本作の趣旨を明らかにしてみてください。誰がなにをする話なのか。ここを定めない限り、物語は要領を得ないものになってしまいます。執筆の途中で挫折することを防ぐためにも一度、本作の趣旨を改めて意識することをオススメします。


 続いて視点について。

 作中では神の視点が使われています。そのためにときとして描写が必要以上に増え、場面の説明が過剰になっている箇所が散見されます。特に心理描写に関しては、すべての人物の心境が詳らかになっています。このことは描写の丁寧さにつながっている一方、読者が自由に想像する機会を奪っているのも事実です。数学の計算問題でたとえるならば、問題を解く前にヒントどころか解答を教えられるようなものです。問題を解く気でいた人は、複雑な気分になるはずです。描写のしすぎは場合によっては読者が興ざめすることにつながるので、注意が必要です。一応、以下に三人称視点の分類をまとめておきます。参考までにどうぞ。


 すべての事柄、人物の心情を描写する→神の視点

 特定の人物越しに、客観的に事柄を描写する→三人称一元視点

 誰の内部にも触れず、客観的な事柄のみを描写する→三人称視点



 最後に誤植などの報告になります。

 意図的なものか判断しかねるものもありましたが、一応すべてピックアップしています。ご参照ください。


 彷徨う:ヴェルダンは大きく息を吐き出して、自身に内に燻る不安を外に追い出した。→自身の内に燻ぶる不安。

    :これが作ったのは小型の動物か、~~。→これを作ったのは。

 立ち止まって:ヴェルダンの呼びかけに、エイルはうなづいた。→現代の表記では「うなずく」が正しい。意図的なものなら、すみません。

 先へ先へ:その明かりは、通路を少し先までなら届くようだ。→通路の少し先。

     :二人が同時にうなづいた。→うなずいた。

 エルエッタ:二人がうなづいた。→うなずいた。

      :エイルも彼に続いてうなづいた。→うなずいた。

 舞踏:寸でのところで、エイルが身をかわすと、~~。→既のところで、

 説得:「……私の命に替えても、ここでエイルを殺しておいたほうが、シャミィは喜ぶと思うわ」→この場合、命に代えても、の方が適切。

 道の果てにあるもの:ふたりは同時にうなづいた。→うなずいた。

 少女の夢 4:人間の兵士との揉め事から、約一週が経過していた。→一週間?

 少女の夢 7:無言でうなづくエルエッタに、~~。→うなずく。

 少女の夢 11:まだ銃後にも満たない少女の兵士が、近くの上官に問いかける。→年齢の「十五」の誤字でしょうか、それとも戦場の後方支援という意味の「銃後」?

       :彼はその問いにうなづいた。→うなずいた。

 少女の夢 13:少し躊躇ったあと、エルエッタは観念したようにうなづいた。→うなずいた。

 少女の夢 16:~~エルエッタは恐怖とも安心とも判断しかねる気持ちに襲われて、ぶるりと実を震わせた。→身を震わせた。


 以上になります。

 ここで述べたことが作者様の気づきにつながったのなら幸いです。




 近況ノートにいただいたコメントを拝読しました。

 以下、それに対する返信になります。


 ➀序盤の改善

 「蝶が魔法を使う」という描写は、先へのヒントになっていたかと思います。一つのエピソードの末尾の文で設定が明かされたことも、読者の注意を引くことにつながっていたのではないでしょうか。一方で、もう一押しほしいというのも正直なところです。野暮な指摘ですが、前述した描写だけでは読者は「魔法? 誰が使えて、どんな種類があるのだろう」と理解よりも漠然とした疑問を抱く可能性もあります。その他、本作は精霊や不死の兵士といった様々な要素が含まれるために、読み進める中で「なんでもありの作品」と思われかねない危険性も孕んでいます。


 前提として、本作の序盤でみられる唐突さは「エイルが狩りで、いきなり特殊能力を使う」ことにあります。それまでの話ではこのことに言及されないため、違和感が生まれているのです。ただし現状の内容に設定の説明を加えると、序盤の文章が冗長になってしまう。そのことが加藤様は気がかりなのだと私は考えています。であるならば、序盤で大まかに「この世界は神秘で溢れている」ことを描写できないでしょうか。蝶の描写をはじめ、鹿が魔法を使って逃げたり、人々の生活の一部に精霊信仰があることを記したり。詳しい説明をしなくとも、世界観としてあらかじめ描写されれば違和感は生まれません。読者は最初から、本作の毛色を理解して馴染むことができるはずです。


 ➁第二章全体への見解

 まず、第二章に対する私(一読者)の解釈を記します。


 第二章の役割

 ・世界観の説明

 ・エルエッタとシャミィの関係の掘り下げ

 ・人間の少女の捜索→今後の伏線


 エルエッタとシャミィの描写に関しては、作風のブレを感じます。省くべきとまでは言いませんが、本当に必要な描写なのかは判断が難しいところです。第二章以降でエイルとエルエッタの共闘、あるいは復讐の連鎖を描こうとされているならば必要性を感じますが、もしそうでないのなら不必要に文字を割いているとも考えられます。とにかく今後の話の展開次第で、意味が生まれるか否かが決まるという具合です。


 第二章全体については唐突な部分は見当たりません。設定の開示はすでに済んでおり、新たな設定に関してはしっかりと説明がされていました。その反面、尺の長さに対して物語の面白さはまだ十分に発揮されていないように思います。加藤様がここでの「物語の面白さ」をどう定義されているのかにもよりますが、読者に先を読ませる求心力は回を重ねるごとに弱まっている印象です。その理由は、実際には物語が進んでいないからです。


 第一章:エイルとヴェルダンは洞窟の存在を知り、外からの脅威に挑む心意気を示す。

 第二章:エルエッタは、シャミィとの冒険や恋愛などの想い出に浸る。


 別の人物や時間軸、伏線など。これらが合わさった結果、謎は深まるばかりという結論が出ます。このこと自体は悪くないのですが、そこに「兆し」が表れないのはときに物語を破綻させることにつながります。前回の批評でも触れたように、誰がなにをする話なのかがわからなくなるからです。かつ作品の字数は、現段階で10万字に到達。これほどの字数を費やして先の展開が悪い意味で不透明というのは、かなりピンチな状況です。二時間の映画にたとえるなら、一時間観ても作品の趣旨がわからないということです。先を楽しむ気になるのか、というのは考えるまでもありません。


 私も初投稿作品は加藤様と同様、プロットなし群像劇で書きました。当然ながら話は寄り道し放題で、最終的に約19万字で完結となりました。自分で読み返しても面白いのかよくわからないものですが、書き続けられたのは「誰がなにをする話なのか」を常に考えていたからです。この部分さえあれば、物語の原型は必ず生まれます。仮にそれを読者に上手く伝えられなくとも、大まかな物語は筋道立ったものになります。なので、物語の面白さを磨くことも大切ですが、筋道を明確にすることも同じくらい意識してみてください。大雑把でも構いません。タイトル通りにエイルの冒険を軸にしてもいいですし、種族間の対立をテーマにされてもいいでしょう。それを基に物語を書き進める。そうすれば「兆し」が生まれ、次第に物語に面白さが付加されるはずです。作品を確実に完結させるためにも是非一度、創作の原点に立ち返っていただければと思います。


 あとは、より多くの人から意見を集めることも効果的です。どんなに長々と書いても上記の内容は、あくまでも一個人の捉え方にすぎません。人によっては、別の角度からの見方や現状の肯定もあるはずです。SNSで作品への意見を募る、カクヨムで企画を開くなどしてできる限り多くの方の意見を得ることができれば、作品をより客観視できることかと思います。柔軟に意見を取り入れ、自分なりの形に咀嚼していただければ幸いです。


 以上になります。

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