第81話「異物混入!?制限された力」
かつての地下アイドル仲間である溺愛魔虞無の強襲により戦闘を開始する楠原隼人。
全力を込めた一撃。ブレイジングブレスを放つも寸前のところで防がれてしまい戦闘不能となってしまう。
そのまま隼人の自我を落としにかかる魔虞無。沈みゆく意識の中、寸前で輝世達樹が偶然にも通りかかる。
完全に自我が無くなる前に隼人は自らに宿るアイドル因子。灯野優菜を輝世達樹へ託しそのままマグマに飲まれていく。
仲間を窮地に追いやった魔虞無に対し激しく激昂する達樹と魔虞無による戦いが幕を開ける。
――――――――――――
達樹と魔虞無。二人の拳が交わる中、達樹は優勢に立ち回る事が出来ていた。
本来疾風の力しか纏わせていないはずの拳と蹴りに強制的に炎が付与されており繰り出す攻撃自体の破壊力が増している。
(炎!?優菜ちゃんの影響か!?)
唐突に顕現した新たな力に戸惑う達樹だが今自分の身に何が起こっているのかは一旦さておき好機な事に変わりはないとこのままのペースを崩さぬよう連続攻撃を加えていく。
今輝世達樹の中には二人のアイドル因子の力が宿っている。
春風大我による疾風の力と灯野優菜による業炎の力により通常よりも高威力の技を繰り出す事が出来ている。
だが優勢だったのも束の間。達樹の身体に異変が生じる。
魔虞無に向けて繰り出した拳が勢い余って狙いを外してしまった。
(っ!?振り切りすぎた!力が上手く制御できねぇっ!!)
優勢だった戦況もここで一変。達樹の猛攻もここで途切れてしまい魔虞無の岩礁腕による一撃をモロにくらい吹き飛ばされてしまう。
(勢い余った……!上手く身体が動かせないっ……!それに大我とのコンタクトも取りにくいし頭も痛ぇ!!)
「ははっ。どうやら余計なもんプレゼントされちまったようだな」
「んだと……!」
「お前の身体はいきなり入り込んできた別の
アイドル因子を複数人宿す奏者は特殊な例を除いて存在しない。身体への負担が大きすぎるからである。
アイドル因子を宿す事は肉体こそ無いものの一人の人間を自らの内に同居させるに等しい。故に一人だけでも相当な負荷がかかる。
現在達樹の内に宿る灯野優菜の魂は安定していない。達樹へ助言をする事も自らの力を抑え込み従来の力で戦わせる事も不可能。宿主が変わった事から優菜自身の存在もままならない状態でいる。
「ぐっ……!!」
(大我と連携が取れない以上完全顕現も出来ねぇ……!はやくこいつをぶっ倒さねぇと隼人が危ねぇのに!!)
本来の大我自身の力を引き出す事も出来ず、灯野優菜の力を運用したくても達樹自身が優菜のことを深く知り得ていない故に半端な力しか引き出せない。
今の達樹の状態を職場で例えると従来の決まった業務のルーティンに沿って日々仕事をしていた所唐突に大幅な仕事内容と流れを変更されたような状態に近い。
習慣化された動きはほぼ出来ず新たな方針、指示に適応せねばならない。更に命が懸かった土壇場でそれらに合わせるのは限りなく不可能に近い。
(数分したらマシになるとも思えねぇ。大我達の力を引き出そうとすると調子が狂う。このまま何も出来なくなるくらいなら……!)
「お?」
瞳を閉じ敢えてアイドル因子を心底へと一旦遠ざける。達樹の髪色から桜を彷彿とさせる桃色と緑色のカラーが消え大我の名を知る前の完全茶髪サイドテールの不完全な幻身状態へ移行する。
「まだこっちの方がマシだ」
「なるほど。確かにそうすりゃ最低限の動きは出来るだろうが何一つ問題の解決にはなってねぇな!」
魔虞無は目にも止まらぬ速さで接近し溶岩迸る拳が達樹へ振るわれる。大幅に弱体化した達樹は咄嗟に拳を受け止めるが先ほどまでとは打って変わりまるで捌ききれず致命傷だけは避けようと必死に守りに徹する。
(こいつの言う通りこのままじゃ後にやられる……!動けるようにはなったけど攻めも守りも余計半端になった。1分も持たねぇぞこのままじゃ!)
徐々に確実に押されて行く中、疾風の力を使えない達樹に今できる事は近接格闘のみ。達樹は次々と拳を振るう魔虞無の僅かな一瞬の隙をつき身を屈め、懐に入り込み魔虞無の顎目掛けて渾身のアッパーカットを叩き込む。
ようやく反撃の隙が生じた事で宙へ舞う魔虞無の片足を強引に掴み反撃の隙を与える事なく豪快にハンマー投げの容量で投げ飛ばす。
「っ!……生意気な!……!!」
受け身を取り達樹の次なる手に対処すべく身構えようとするも既に達樹は魔虞無の顔面上空へと移動しておりそのまま渾身の力を込めた踵落としをぶちかます。
衝撃から地面をバウンドする魔虞無に対し顔面を掴み上げ、その勢いのまま渾身の「デストヴィアインパクト」を顔面に叩き込む。
(ろくに威力が出せないならとことんぶちこんでいく!相手が倒れるまで攻撃の手を止めるな!)
デストヴィアインパクトを受け吹き飛ぶ魔虞無。自分のペースに持って行けたと舞い上がっていそうな達樹に対し魔虞無は激しく苛立ち怒り狂う。
「アイドル様の顔面をボコスカ殴ってんじゃねぇぞぉぉ!!!」
魔虞無の咆哮と共に戦況は一変。空中で両腕からマグマを噴出し回転して体勢を整えた矢先に達樹に向かって濁流の如くマグマの塊を複数射出する。
(まずい!避け切れるだけの速さが出せない!モロに当たる!!)
直撃は避けられないかと思った次の瞬間。勢いよく達樹の両脚から疾風が巻き起こり魔虞無と距離を取りつつ大樹の枝部へと身を潜める事に成功する。
『ふぅー!間一髪でしたね達樹さん!』
「大我!」
時間経過と共に灯野優菜の魂は中和。ノイズのようにお互いの存在を認識出来ていなかった状態が大幅に緩和される。
春風大我との連携が可能となり疾風のちからも一部運用が可能となる。
同時に極度に動揺し取り乱す灯野優菜の声も聞こえてくる。
『達樹さん大変なんですっ!!隼人さんが!!隼人さんがっ!!』
「わかってる。一旦落ち着いて状況を教えてくれるか」
達樹達は灯野優菜から何があったのかを聞き状況を理解する。
「隼人の自我を無くして拉致ろうって訳か。ふざけやがって……!」
これ以上放置が続くと取り返しのつかない事になりかね無い。隼人の救出に向かいたいが魔虞無が徘徊しこちらを索敵している状況から迂闊には近づけ無い。
何より魔虞無に対抗する手段がこちらにはなかった。
『私の疾風の力……まだ完全には引き出せません。いつもみたいに全身に巡らせようとしたんですけど下半身しか無理でした』
その発言に違和感を抱く。達樹は普段通りとは行かずとも全身に想力の循環を感じていた。
普段よりかは暖かい。情熱に溢れんばかりの太陽にも負けん熱気が上半身を巡っている。
達樹は試しに腕に想力を集中させ解放するとその腕には灼熱の炎が顕現され頭髪にはポニーテールが出現した。
「!!」
『これって!?』
達樹は研ぎ澄ませる。自らに宿る想力の性質を探究し上半身には灯野優菜による炎。下半身には春風大我による疾風の力が循環していることを確認する。
(大我と優菜ちゃんの力が上下に分かれて二分化されてんのか。わからない事も多いがこれならなんとかなるかもしれねぇ!)
「見つけたぜぇ!!ガキぃぃ!!」
最新の注意を図ってはいたものの想力の開放により魔虞無は達樹の居場所を特定。凄まじい形相で拳を掲げ迫ってくる。
「バレたか!二人とも探り探りなとこ悪りぃが上手く合わせてくれ!」
『『はい!!』』
達樹は再度幻身しサイドテールとポニーテールを引っ提げ疾風の力を脚に宿らせて加速。炎を宿した拳で魔虞無の攻撃を真っ向から受け止める。
「見てくれが変わったな!!」
「見てくれだけじゃねぇぞ!!」
――――――――――
地下アイドルの従来のにより荒れ狂う想武島。そんな中パニック状態の孤島へと向かう一人の男の影があった。男は橙色の髪を波風に揺らしながら一本の刀を携え海面を蹴り、風を裂いて疾走する。
『
「あぁ、わかった。ありがとう
(頼む……どうか間に合ってくれ……!)
―――― to be continued ――――
あとがき
異物混入のくだりの補足解説です。
上手く例えるの難しいんですけど、いつものバイト先じゃなくて他店にヘルプ行かされた時に物の場所とか違うしやり方も違うしで普段通りに仕事ができ無いみたいなのあると思うんですけどそんな感じなんです(どんな感じやねん)
要は普段通りの段取りで出来無い感覚というか。いきなり他人のやり方に適応するのは難しいというか。そんな感じとなっております!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます