第60話「絶対に勝つという意思」


 市導光也と宮守龍二との激闘は自らを信じ勝利のイマジネーションを強く誇示した光也が勝ち星を上げた。

 一方で達樹に対して異様なまでの対抗心を燃やす安達烈矢との戦いは熾烈を極めていた。


 ――――――――――


 ドゴォォォ!!!


 金属と拳の衝突による激しい衝突音が鳴り響く。両者の額には血が流れ意識もふらつく中、ダメージの蓄積も多大。両者の力は互角であり一瞬の油断が命取りとなる過酷な状況下にいた。


 その最中両者の一撃が同時に繰り出される。交わる拳と拳。吹き飛ばされたのは達樹であった。


「緩めちまったなぁ!!輝世達樹ぃ!!」


 吹き飛ばされる達樹へ追撃を入れようと左腕で殴りかかろうとした矢先、烈矢の機械仕掛けの腕スチーム・ドゥブラがバラバラに崩れ落ちる。


 (技自体の破壊力を分散して俺の機械仕掛けの腕を分解する事に特化させやがった。しかも両腕ともやって退けちまうたぁ恐れ入ったぜ)


 だが……!!


「それでも俺には及ばねぇ!!俺はお前に勝つ!!勝たなきゃいけねぇんだ!!」


「っ!!」


 分解された廃材、金属が再び集約されていく。それらは烈矢の胸先で巨大な大砲となって達樹へ向けて形成される。膨大な破壊力を秘めた高熱の想力が重鎮されていく。達樹も即座に身構え迎え打つ態勢を取る。


(覚悟が伝わってくる……俺を全力で撃ち倒そうと言う強い想いが……半端じゃねぇ……!それでも気圧されるな!!お前にどんな勝たなきゃいけねぇ理由があるかはしらねぇが……)


 脳裏に過ぎる。幼馴染と交わした約束。


「勝たなきゃ行けねぇのは……俺も同じだ!!」


 ゴオオオォォォォォォ!!!


 拳へありったけの想力を込める。これまでの修行の日々により洗練された精神力、集中力が研ぎ澄まされる。その圧は烈矢の全身を武者震いさせるほどに伝わる。


「真っ向から迎え打つ気かぁ!?無駄だぁ!!俺の屑廃殺滅砲デトゥリーヴ・カノンはテメェ如きには絶対に止められねぇ!!一瞬で灰になんぞぉ!!」


「今更気遣いか?真正面から迎え撃ってやるよ。消し炭にでもなったなら……俺は所詮、その程度の人間だったってだけの話だ」


「上等じゃあねぇか!!」


(大我……お前の技、借りるぞ!)


 両者の準備は万端。渾身の力を込めて全身の底から吐き出すかのように力を捻り出し撃ち放つ。


屑廃殺滅砲デトゥリーヴ・カノン!!」


「ドルネイドブラスタアアアァァァァァ!!」


 ドゴオオォォォォォォォォ!!!!!


 両者の全力の技が衝突する。互いの技は拮抗し木々が千切れんばかりに揺れ動き大気と海面が振動し躍動する。


「「ウオオオォォァァァァァァァ!!!」」


 両者の意地がぶつかり合う。絶対に勝つという意志が交差する。その強い意志と共に載せられた力は限界を迎え、お互いのエネルギー波は弾け飛ぶ。

 土煙が舞う中次第に視界が開かれていく。烈矢は意識が朧げになる中目の前に視界を向ける。地面に這いつくばっているであろう輝世達樹の姿を確認しようとするが。


「……ちっ……俺の負けかよ」


 烈矢の視界に達樹の姿はなかった。次の瞬間。


ドゴォッ!!


 衝撃の後、達樹は烈矢へ向けて空高く跳躍。達樹の渾身の拳が烈矢の左頬へと直撃しぶっ飛ばした。


 ――――――――――


「…………んん……」


「おっ目覚めたか」


 気絶していた烈矢が目を覚ます。地べたには達樹の上着が敷かれておりあれだけ負傷した傷も完治とまでは行かないが身動きをなんとか取れる程には治癒されていた。

 輝世達樹の想力量は平均水準よりも遥かに多く、このまま負傷した状態で進んでも疲弊するだけと判断しこの場に止まり自らの治癒と烈矢の治療に徹していた。


「……お前がやったのか?」


「あぁ。こう見えて俺ヒーラーでもあるんだぜ。まだそこまで精度高くは出来ねぇけどな」


「ちっ……余計な事しやがって……!!」


「治してもらってなんだよその物言い……いちいちツンケンしなきゃ生きてらんねぇのかお前は」


「誰にでもこうな訳じゃない!てめぇにだけだ!」


「そうそう。それも聞きたかった。お前なんで俺に突っかかってくんだよ。俺がお前に何したってんだよ」


「何しただぁ……?テメェのそうやって自分の罪深さにも気づいてねぇ所がまた俺を苛立たせやがる。湧き上がってくるぜ腹の底から怒りがなぁ……!!」


「おま、そんな力んだら」


 ブシュウゥゥ


「ぐおぉぉっ!!き、傷口から血が!!がはぁ!!」


「お前バカだろ。これで抑えとけもう」


 達樹は持っていたハンカチを手渡し止血のために使えと手渡す。烈矢は致し方なく受け取り安静にすべく横になり、少しの沈黙の後口を開く。


「俺がなんでここまでお前に執着するか聞きたいか?」


「ん?あぁ……まぁ聞きたいかな」


「そんなに聞きたいのか?」


「……まぁ、そう……かな」


「気になって気になっていてもたってもいられないか?」


「あーもー!うぜぇな!気になるっつってんの!これで大した事ねぇ理由だったらぶっ飛ばすぞ!?」


「……俺が抗者になったのは俺のクソみてぇな人生を薔薇色に変えてくれたかけがえのない存在。俺の最推しを守る為だ。俺はその子を側で守れるようになるために鍛錬してきた」


「推し……って言うとアイドルかなんかか?」


「あぁ。その子は初対面にも関わらず易々と揺らがない事で定評のある俺の心をぶち抜いていきやがった。俺の荒んだ心は一瞬にして浄化され彼女は俺の生き甲斐になった。

 後に彼女の命が脅かされている事も知った。俺は居ても立っても居られず抗者になる事に決めた。その子の防人として従事する為に……ここまで言えばもうわかるか」


「……お前の最推しって莉乃の事か?」


「そうだ!!気安く呼びやがって……!まぁ幼馴染らしいからな。そこはまぁいいさ。そこはな!

 だがお前は幼馴染というだけに飽き足らず莉乃たその防人にまでなりやがった!エンゲージは恋さん一人で基本受け持ってるって聞いてたから妥協してたが専属となりゃ話は変わってくる。しかもその防人は全員後輩と来たもんだから我慢ならねぇ!」


 大手の芸能事務所の防人をほぼ一人で受け持っていたのかと失笑をこぼしつつ驚く中烈矢は続ける。


「俺の生き甲斐で目標だったんだよ。莉乃たその防人になる事が。上に俺の力を見せつけたら防人として認めてくれるって、そう信じて頑張ってきた。だが実際はお前らが防人になった。

 俺は恋さんの部下って理由と幼馴染ってだけで選ばれたと思ってた。でもお前とぶつかってわかった。お前はなるべくして成ったんだ。莉乃たその防人に」

 

そう語る烈矢はどこか寂しげで脱力しきっていた。燃え尽きてしまったような虚な目で達樹へ語る。

 

「お前に勝ってお前より優れてる事を証明したかった。俺の方が防人として相応しいんだと。でも俺は負けちまった……今俺は他に自分を奮い立たせられる物はねぇか必死に考えてるとこだ」


「……別にやりゃよくね?一緒に防人」


「……はい?」


「光也達もダメだなんて言わないだろうし。俺らも恋さんに頼む時あるし……俺たちが手付かずの時に烈矢に受け持って貰えばいいんじゃねぇかな」


「そ、そういう問題じゃねぇ!いいかガキンチョ。こういうのにはそれぞれ上から仕事が割り振られる物で勝手に俺達で決めていいもんじゃねぇの!」


「じゃあ俺が恋さんに言っとくよ。どうせオッケーするよ。あの人も適当だし」


 烈矢は唖然とした表情で固まる。同時に自分が防人となる事に執着しすぎていたか、如何に頭に血が上り意固地になっていたかを自覚する。

 だがそれだけではない。烈矢は余りの事の呆気なさを受け入れられずにいた。


「お、お前はそれでいいのかよ!!」


「なにが?」


「お、俺が……莉乃たその側にいても……」


「?その為に頑張ってきたんじゃねぇの?」


「そんな簡単に俺を信用していいのかって言ってんだよ!もしかしたら……俺が変な気を起こして莉乃たそを襲っちまう可能性だって」


「お前はそんな事しないだろ」


達樹は曇りなき瞳でそう言い切る。


「!!」


「こ、根拠は!?」


「上手くは言えねぇけど……直勘かな」


「直勘だぁ!?」


 烈矢は言葉を再度失う中達樹は烈矢と拳を交えて感じ取っていた。烈矢の莉乃への熱い情熱を。烈矢にとって大切な物だからこそあそこまで死力を尽くして本気でぶつかってきたのだと納得できた。

 自分に通ずる物がある。莉乃を思いやる気持ち。故に烈矢の本心を聞き分かり合える存在だと、自分と同じく真っ直ぐに莉乃を守りたい同士なのだと本能的に理解していた。


(違うぜ輝世達樹。俺はお前が思うほど出来た人間じゃない……莉乃たそを大事に思う側面で推しを独占したい浅はかな欲望も持ち合わせちまってたんだ。防人になればあわよくば……ってな。劣情まみれだったんだ俺は……)


 烈矢は思い知らされた。自分の未熟さ。何より推しへの心遣いが欠けていたと。自分の身勝手さに怒りが込み上げてくる。

 少しの間静寂が続いたと思いきや次の瞬間烈矢は思い切り自分の両頬をビンタする。


「ど、どうした?」


「愚かな自分を追っ払った」


「……そっか」


達樹は何が何だかわからなかったが烈矢の顔に生気が戻った事は理解でき自然と笑みが溢れる。

 

「てめぇを一旦防人として認めてやる。だがお前が少しでも莉乃たその側にいる男として相応しくねぇと思ったら即座にぶちのめしてやるからそれだけ覚えとけゴラ!!」


「おう。そん時は遠慮なく喝入れてくれ」


 へっ……と心躍らせつつほくそ笑む烈矢。マラソンの終了時刻は徐々に迫り来る中両者の疲労も緩和。本題へ戻るため立ちあがろうとする達樹を烈矢が呼び止める。


「ちょっと待て」


「なんだよ。時間も迫ってるし動けるようになったならさっさと走りださねぇとマジで間に合わなくなるだろうが」


「馬鹿正直にまともにちんたら走ってもこのマラソンは絶対に踏破できない。そういう風に出来てる。このマラソンには必勝法がある」


―――― to be continued ――――


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