第59話「努力は嘘をつかない」


 目の前に立ち塞がる輝世達樹からは闘志が全身から滲み出ていた。烈矢はその様を目の当たりにし武者震いをする。


 (見てくれは何も変わってねぇ……変わったとすれば心持ちだ。びんびん伝わって来やがる……俺を問答無用で叩きのめすって意思が。だが……)


「それだけじゃ俺は打ち砕けねぇぞゴラァ!!」


 再び烈矢は機械仕掛けの腕スチーム・ドゥブラを振るい達樹へ襲いかかる。

 烈矢の機械仕掛けの腕は達樹へ直撃する事なく達樹は空中へ飛翔し回避、続けて想力を両腕へ集中。


(研ぎ澄ませ!集中しろ!気持ちで負けるな!鉄屑如き貫けないで強くなれんのか!?常識に囚われるな!イメージを強く持てば貫ける!!捻り出せ!勝利のイマジネーションを!!)

 

 一切の迷いと躊躇いのない己の力を信じたエアロヴィアカッターが烈矢へ放たれる。

 烈矢はこれを意気揚々と腕で振り払い向けられた先の木々が断裂される。


「効かねぇんだよ!てめぇがいくら覚悟ガンギマリしたとこで俺との差は埋まらね


 ゴトンッ


 烈矢の言葉は不穏な物音と共に遮られ同時に左腕が軽くなった事に気づく。目線を下に落とすとそこ映し出されたのは機械仕掛けの腕の部位。烈矢の生身の左腕が剥き出しとなる。


 (斬り落とされた?何に?あいつにか?嘘だろ?さっきまで毛ほども通さなかった俺の腕を斬り落としやがったのか!?)


「別にすぐ治せるだろ」


「!!」


 達樹は空中から降下し地に足をつける。敵を見据えて拳を握り構える。


「俺の拳はてめぇを貫けるようになった。こっからは対等だ。気抜いてたら一瞬でやられんぞ」


「……はっ。対等だぁ?俺の機械仕掛けの腕を斬り落とした程度で図に乗ってんじゃねぇぞ……俺の方がてめぇより遥かに優れてる!てめぇと俺とじゃ天と地ほどの差があるんだよ!!」


 再び両者は拳を交え、小細工なしの殴り合いが始まる。


――――――――――

 一方少々時は遡り後方地点では光也と龍二による戦闘が激化していた。

 吹き荒れる口から放たれる火炎と強靭な龍爪による猛攻が光也を襲い龍爪による斬撃が光也の頬を掠める。


「オラオラどうした!もう2分経っちまうぞ!!」


 光也の2分でぶった斬る宣言から1分半が経過。半端な攻撃は一切せずととめの一撃にのみ焦点を絞る。

 絶え間なく続く連撃の最中であっても確実に発生する僅かな隙、これ以上ない絶好の反撃の機会を耐え凌ぎ光也は極限なまでに集中していた。


 (俺は……俺達はこの数ヶ月ひたすら努力して来た。自分で言い切れちまうくらいには血の滲むような鍛錬を積んできた!!)

 

 ――――――――

 一月前 Delight本部 グラウンド


 恋による実践訓練、基礎訓練、イメージトレーニングを達樹達は莉乃達のアイドル業務の支援と並行して行っていた。

 身体中に痣ができ豆もでき布団につけば即座に眠りについてしまうほど日々疲労が蓄積し合宿に向けて、日に日に勢いを増す憎愚に対抗するため懸命に彼らは励んでいた。

 そんな中恋と共に帰宅する最中。達樹達はふと弱音をこぼしてしまう。


「どうした達樹?」


「いや……努力の仕方ってこれでいいのかなって思って」


「らしくない事言うじゃん」


「俺頭良くねぇからさ、たまに不安になるんだよ。もっと効率良いやり方があるんじゃないかとか……合宿もやるからには勝ちたいしもっと早く強い憎愚も倒せるようになりたい」


「努力は別に嫌いじゃねぇけど……勝たなきゃ意味ねぇだろ」


 その思考に行き着いてしまっていたのは光也も同じであり達樹に続いて発言する。

 自分を必要以上に卑下している訳では無いが明確に成長したと思える実感というものが光也には現状なかった。そんな二人に対して恋は説く。


「勝つためにする行為は努力じゃない」


「え?」


「お前らの言ってるのはさ、もっと具体的な練習とか修行とかそういうもんであって……それは努力とは違う」


 理解が追いつかない二人。だが本能がこれは聞かなければならない内容だと理解して耳を傾ける。


「努力ってのは自分を信じるためにやる事だ」


「自分はこれだけ死に物狂いでやった。自分はこれだけの鍛錬をやって退けた。そのやり切った事実が自信となり何より自分自身の強さとして現れる。勝つ想像力が大事な奏者にとって最も必要な事だと言っても良い」


 だから俺から言えるのは一つと恋は二人の目を見てハッキリ言い放つ。


「己を信じ切れるまでひたすら自分を磨け。お前らはまだまだ強くなれる。自分の可能性をもっと信じろ……努力は嘘をつかない」


 ――――――――――

 ゴオオオォオォ!!!


 龍二の口から高熱を帯びた広範囲の爆灼球が放たれる。だが光也は敢えてその場から動かず留まる。


「なんだぁ!?避けねぇと直撃すんぞ!!」


「構わねぇ……避ける気がねぇからな」


 両手、尻尾は攻撃の射程外。ダメージは承知の上で見つけ出した一瞬の隙。光也は傷つく身体に鞭を打ち火球へ目掛けて突っ込みながら想力を激らせ葬刀へ雷を宿らせる。


(俺の刃が通らなくてもそれでも崩れない!確信できる!そう思えるだけの日々がある。信じて積み重ねて来た俺と瑠璃華の全てを込める!!)


ズゴオオオォオォ!!!


 二刀の刃に雷が如し轟雷が充填される。その溢れんばかりの殺気と研ぎ澄まされた刃。光也の獲物を刈り取らんとする鬼の形相の前に思わずたじろぐ。


「二刀流・居合!迅雷断衡じんらいだんこう!!」


 (っこれはやべぇ……!)


 そう思ったのも束の間。回避、防御をする間もなく光也の姿が龍二の視界から消える。同時に飛び散る流血と全身に走る痛み。背後に感じる気配。龍二は即座に自分の身に何が起こったのかを理解した。


「……満たされた。楽しめたぜ市導光也」


 バタッ


 龍二は気を失う。人外幻身が解除され力付きその場に倒れ込む。


「……本気出させやがって……脳筋バカが」


 龍二を斬り伏せた光也であったが既に肉体は限界を超えている。多大な肉体ダメージと想力消費により幻身は解かれ緊張の糸が切れたように気を失い地に伏す。


 ―――― to be continued ――――

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