第2章 合同強化合宿編

地獄の外周マラソン編

第53話「集う新鋭!いざ行かん想武島!」


2023年 8月1日 9:30分


「ここが東京港かぁー!!」


『天気も最高ですねっ!』

 

 夏風の心地よさを全身で感じながら深く息を吸う。天気も良好。輝世達樹、春風大我は集合場所の東京港へ到着した。

 合同強化合宿が行われる想武島へ向かう大型客船の前に集まる一癖も二癖もある輩やあからさまに一般人ではない気迫に満ちた面々もいる。

 いずれ手合わせする事となる強者達に心躍らせる達樹であったがそんな中目に入ったのはかつて命を張って共に共闘した前髪ピンクのツインテ地雷少女三竹未萌奈の姿。


「おー!未萌奈じゃねーか!元気にしてたか?」


「別に普通よ。とりあえず暑っ苦しいから離れてくれる?」


「そんな近くねぇだろ!」


そう言う未萌奈の口振りはいつにも増してトーンダウンしており気怠げそうなのがこれでもかという程発せさせており無言の圧を感じる。

 暑さを少しでも和らげる為か後ろ髪もツインテールにまとめられておりよりボリュームが増している。


「みもちーは暑いのにとことん弱弱屋さんだから仕方ないのでち。その点えむちゆはさいかわ遺伝子を含んだ超絶ハイブリッドヒューマンなのでへっちゃらなのでち!」


「……えっ?……なんて?」


 未萌奈の横にいたショートツインの小柄の女子。いきなり達樹へ話しかけて来たと思えばその言語はまさに混沌を極めていた。瞬く間に沈黙が発生する。


「えっ?……ま、まさかえむちゆの最適化された宇宙一かわちい言語が……通じていないっ!!一大事でち!エマージェンシーでち!誰か救急車を!目の前にド級のおばかさんがいます!」


「……おい、こいつは一体何者なにもんだ」


「私と同じ四番隊の越ヶ谷恵夢こしがやえむ。いつもこんな感じだから気にしないで」


「こいつも抗者なのかよ!?」


「言っておきまちゅが、えむちゆとみもちーとくすみーの三人が合わされば天下無双!一騎当千でちよ!」


 まじで熱いからやめろと付き離す未萌奈の逆側で恵夢に抱き寄せられていたのは黒髪ロングの女性、見るからに大人しそうな性格が滲み出ている。前髪も目がほぼ見えない程長い。口振りから同じ四番隊の仲間なのだと達樹は推測する。


灰羽久澄はいばねくすみ。お互い全力を出し合って悔いのない結果にしましょうね」


「はいっ!」

 (これだけでわかった。この人は常識のある良い人だぜ)


 その後未萌奈達に着信が入る。隊長が到着したから先に行くとこの場を離れて行こうとするが未萌奈がふと立ち止まる。


「言い忘れてた」


「?」


「あの時はありがとう。でも今回のこれとは関係ないから容赦はしない」


「!……あぁ。望むとこだ!!」


 そう言い残して未萌奈達は去っていった。その後ろ姿からは勇ましさすら感じ、以前の未萌奈よりも更に強くなっている事が見受けられた。


 (強くなってんな未萌奈……他の二人だってきっと強ぇはずだ。へっ……わくわくしてきやがった!)


 友の確かな成長に心躍らせていた矢先、物陰から何者かが達樹へ襲いかかる。


「っ!?」


 バシッ!!


 達樹は即座に気配を察知し幻身。目の前の男は仮面を付けていた。繰り出された空中での踵落としを片腕で受け止める。一瞬奇襲かと身構えたが繰り出された一撃に殺意は感じない。となると敵の意図がわからない。あらゆる思考を巡らせる中仮面の男が口を開く。


「いやはや恐れ入りました。そこらの雑魚はこれで仕留めれるのですがやっぱり拙者の親友はお強い!」


「!?……その声は……!」


 聞き覚えのある声は自分の事を友と呼ぶ。達樹は驚きの表情を隠せない。

 男は意気揚々と仮面を取り友の前に成長した姿を公開する。


「お久しゅうでござるな達樹殿!寺田卓夫!長くに続いた地獄の特訓を経て再び見参!」


「た、卓夫ぉぉ!?」


 達樹の目の前にいる寺田卓夫を語る男は以前の彼の外観とは似ても似つかなすぎる姿と化していた。

 体型や髪型も以前の姿からブラッシュアップされておりそこから不潔感は一切感じさせない筋肉質で健康的な人間と化していた。


「どうですかな達樹殿!これはもうめちゃモテ委員長もといめちゃイケ男子高校生としか言いようがないでしょう!拙者イケメソパラダイスのオーディション受けて来てよろしか!?」


「いや……爽やかになったのは良い事なんだろうけどさ……なんていうかその……アイデンティティーが……」


「のおおおぉぉ!!?ま、まさかこんな微妙な反応されるとは微塵も思ってなかったでござるよ!?普通にすげー!とかモテモテだなとかそういう感じの事言って拙者の自己肯定感爆上げさせてくだされ!?」


 卓夫はエレンジーナの猛特訓の末無駄な贅肉や体力不足が改善されていた。彼女の美意識へのこだわりもあり肌ツヤなども良くなっている。

 だが内面や喋り方は相変わらずなようで達樹は心なしか安心する。


「本当に強くなったんだな。嬉しいよ。めっちゃな」


「うむ!今なら達樹殿にも負ける気はしませんよ」


「言うじゃねーか。俄然楽しみになって来たぜ」


 親友との久々の再会に感情に浸る両者。だが明日には共に力をぶつけ合い戦い合う相手でもある。力を付けた卓夫を見て達樹は更に胸の高鳴りを確かに感じていた。


「卓夫ー!エレン先生が10秒以内に来ないと髪全剃りって言ってるネー!」


 船上からひょいと顔を覗かせて一人の少女が声高に叫ぶ。


「なっなんですとおおぉぉぉぉ!!?た、達樹殿また後でお会いしましょう!なんか船内にはプールとか色々あるみたいですぞ!」


「マジかそれは!?」


 卓夫は自らの毛髪を死守するべく急いで船上へ向けてジャンプして飛び立つ。その最中達樹にこれだけは伝えねばと言い放たれる。


「あ!それと!」


「な、なんだ?」

 (言い残すの流行ってるのか?)


「拙者達三番隊の烈矢殿には気を付けてくだされ!それはもうめっちゃくっちゃに!」


「め、めっちゃくっちゃに!?」


 最後にモヤモヤを残されてしまった達樹。内容も抽象的でイマイチ何に気をつければ良いかわからない。

 どうしたもんかと頭を悩ませると同時に脳天へ手刀が突き刺さる。


「いってぇ!?」


「遅い」


「遅刻だ。めっちゃくっちゃな」


 達樹へ怒りの手刀を繰り出したのは同じく五番隊の同期である市導光也。隣で澄ました顔で遅刻の圧をかけているのは同じく五番隊の三人を束ねるリーダーとなった楠原隼人。

 

「は!?ちゃんと9時半には着いてただろーが!」


「8時半だ俺達の集合時間は」


「え?マジ?」


 衝撃の事実にスマホを確認すると確かに8時半港へ集合と記されていた。


「8と9って見間違いやすいよな。寝ぼけてると特に。改正したほうがいいと思うなやっぱ」


「バカな事言ってねぇで行くぞ。出航時間も迫ってる」


「恋さんは?」


「他の隊の隊長さんとバスケしてる」


「バスケもできんの!?」


 こうして達樹は想武島への大型客船『ミレニアムクルーズ』へ乗船した輝世達樹一向。全国各地から集められた新鋭ルーキー達による合同強化合宿が今始まる。


 ―― 第2章 合同強化合宿編 to be continued ――

 

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