第49話「相性最悪の不利マッチ!隼人vsコウチュウ」


「おい!しっかりしろ圭太!!そんな簡単に唆されんな!!お前が一番やりたくねぇ事しようとしてんだぞ!」


「違うな、これが俺の本望だ。心の奥底に眠っていた真なる願い。莉乃ちゃんのアイドル人生をここで終わらせる!どんな手を使っても!お前を殺してでもな!!」


 達樹は会場への損害がなるべく無いように配慮しながら立ち回る一方圭太は一切の迷いなく猛攻を仕掛けてくる。

 少しの破損からの被害も後のライブに影響しかねない。何よりこの狭い通路ではこの条件下では著しく戦いにくい。

 そうしてる間にも次々た壁に鎌による切り込みが入っていく。莉乃も逃げようにも激しい戦いの最中逃げ出すタイミングが無い。


 (とりあえず場所を変えねぇと……!ここからだと外に出すなら壁でもブチ抜かねぇと厳しい!莉乃もこのまま居座らせるといつ怪我してもおかしくねぇ……!)


 ここよりも広く地の利を得る事ができ人気の少ない広々とした空間。攻撃を捌く中、向かい側の通路の先にある程度の広さを有するライブステージが広がっていることを確認した。

 セットなどが何もないステージ中央に狙いを定めて圭太に拳の照準を合わせる。

 根幹に届かない程度の重い一撃。敢えて疾風を纏わせない想力のみを込めた渾身の一撃。

 

「デストヴィアインパクト!!」


 圭太の懐に渾身の右拳が炸裂し圭太をステージまで殴り飛ばし達樹も瞬時にステージへと移動する。


「広い場所に移れて良かったな。ここなら思う存分戦えますってか?」


「あぁ。でもそれだけじゃねぇ」


「なに?」


「お前にはこれ以上誰一人傷つけさせはしねぇ。何がなんでもな」


「見捨てないとでも言うのか?俺はお前を心底憎んでいる!ふてぶてしく莉乃ちゃんの隣に居座り続けるお前を排除したくて堪らない!!」


「お前が俺をどう思ってようが知らん。それにお前は本気でそんな事思ってねぇよ」


「思ってるさ!!この醜い姿がその何よりの証拠だろう!?」


 再び両者拳と鎌が交差する。疾風を纏いし拳は斬撃効果を付与し鎌を難なく受け切ることに成功している。

 圭太は溢れ出す負の感情。嫉妬、憎しみ、自分への憐れみの感情がとめど無く溢れ出て止まる事を知らない。

 圭太の側頭蹴りが達樹は直撃し蹴り飛ばされる。


「これ以上無駄な足掻きはやめろ。俺のような被害者を増やさないためにも桂木莉乃というアイドルはここで終わらせる必要がある……」


 したり顔でそう語る圭太。一方達樹は呆れ顔でやっと終わったかとでも言いたげな面をしている。


「聞いているのか輝世達樹!ここでお前も莉乃ちゃんも死ぬんだよ!この俺を傷つけ裏切った償いも込めてな!」


「なーんにも響かねぇ!!」


 達樹は圭太の言葉を遮るように高々と声を上げる。


「なっ……なんだと……?」


「心の底から思ってもねぇ事言われても……聞く気にならねぇって言ってんだよ」


「貴様ぁ……!!」


 両者再び激しく衝突する一方。屋外では圭太の憎力が分離して産み出された憎愚達と光也、隼人による戦闘が続いていた。


 ――――――――――

 

 隼人のウィザリングブレイガンによる『バニシングシュート』がテントウムシ憎愚『紅蟲コウチュウ』へ直撃する。


「ウマウマですわぁ!」


『なっ!?あいつ炎を食べてますよ!?』

「みたいだね。さぁどうしようか」


 敢えて火を纏わせないでの攻撃も勿論可能ではある。だがその分威力は劣る。


 (力量的に中級並みの実力を秘めている。となると生半可な攻撃は通じない。想力量でゴリ押そうにもちょっと足りないかな)


 依然として優勢。相手の用いるメインウェポンは炎。勝利を確信し余裕の態度で憎愚は語り出す。

 

「私はテントウムシを元にして産み出された憎愚。テントウムシを漢字にするとどう書くか知っていますか?」


「知らないな」


「天道虫。太陽に向かい飛んで行く様子から太陽神の使いであるとされこの字をあてがわれた」

「私の前に太陽を連想させる高熱の類は通用しません。全て私が捕食し喰らい続けます。言うなれば栄養を与え続けるようなもの。あなたに勝ち目はありません」


「なるほど、まーた相性不利か」


 本来なら光也とバトンタッチが好ましく利口な判断と言える。


「いかがなさいますか?みっともなく無様にあちらの黒髪ツインテのお方にお代わりになられますか?」


『ぐ……た、確かに炎が通用しないとなるとあっちの憎愚の相手をした方が……』


 優菜も得意な炎での攻撃が一切通用しない敵の前に有利不利を考えた上で憎愚の意見に賛同しそうになる。

 本来であれば勝ち目が一向に見当たらない相手。だが隼人に退くと言う選択肢はなかった。


「不思議なもんだな。今の話を聞いた上でも退く気に全くならないし……その上で真っ向からお前を踏破したいと考えてる自分がいる」


『は、隼人さん!?』


「あはははっ!懸命な判断を下さる方だと思っていましたが……見るに耐えないお馬鹿さんだったのですね。失望しましたわ」


「確かにこのままやり合っても勝ち目はないな。でも退くわけには行かない。俺達の闘いはここで終わる訳じゃないから」


『どういう事ですか?』


「あいつよりも強い憎愚は確実に存在する。今後また炎が通じない憎愚が現れた時、ここで引いたらまた逃げ出さないといけなくなる。そんなのは願い下げだ」

「不利な事から逃げちゃダメだ。もしここであいつを炎を持ってして攻略する事が出来れば……次同じ条件下に置かれても逃げなくて済む」


 隼人の言葉は尻込みする優菜の闘志を徐々に滾らせていく。


「二人で乗り越えよう。特訓の成果を見せてやろうぜ優菜ちゃん」


『!……はいっ!!』


 ゴオオオオオォォォ!!!


「っ!?なんですっ……?」


 隼人の周りを業火が包み込む。勢い良く右手で炎を振り払い現れたのは真っ赤に染まった業炎を拳に宿す灯野優菜。

 隼人は完全顕現し灯野優菜へ肉体の主導権を明け渡す。


「苦難上等!茨の道も真っ向から薙ぎ払って突き進む!!」

「ここからは私、灯野優菜のオンステージです!!」


 ―――― to be continued ――――

 

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