第37話「屈辱のリベンジマッチ!未萌奈決死の大技!」


 挙式会場での未萌奈と謙也による戦いは開始早々激しいぶつかり合いとなった。

 謙也は前回の戦いにより未萌奈の実力は測り取れている。

 その上で約半日ぶりという短時間での手合わせ。勝機を見越しての戦闘なら何かしらのドーピングなる物を施してきたかと頭の片隅に置いていたが手合わせの感触からその前はないと断定する。

 

「特に強度が増したり身体的強化がされてる訳でもないな。丁寧にこっちの能力の仕組みすら教えてあげたのに……とんでもない死にたがりだ」


「そんな訳無いでしょブス」


「お前みたいな馬鹿女にはもう一度教えてやるよ!!」


 謙也の能力殴蹴寵愛おうしゅうちょうあいは女性を虐待する事に身体能力が底上げされるというシンプルな物。

 女性を殴る蹴るを行う事に微力ながらも能力は向上する。

 殺すまで至れば大幅に伸び、幅が増え対象の女性が謙也に対して強い感情を抱いていれば抱いているほど更に加速度的に上昇する。


 ドガッ!!


 謙也の拳を黒鴉こくうの刃の側面で受け切るがその威力のまま大きく後退する。


「ぐっ……!!」


「そもそも女が俺を殺しにきてる時点で馬鹿なんだよ!こうしてる間にも俺の能力は強化されていく!ただ意固地になってるだけだてめぇは!」


 そのまま殴り飛ばされ会場の壁にめり込む。

 だが奴から黒鴉で受けた事により未萌奈には直接触れられていない為殴蹴寵愛の効果は発動されない。


「この数分間致命傷だけは避け続けれてるのは褒めてやる。余りに喰らいすぎると後に来る後続の奴に悪りぃもんなぁ?」


「後続なんていないわよ。あんたはここで私が殺すの」


「まじ?……救えないな全く。ここまでの自暴自棄は!!」


 速さにブーストをかけ速度をあげる。昨日よりも増していたスピードが更に加速し一瞬にして未萌奈の視界から外れる。

 次の瞬間。未萌奈の背後に回り込んだ謙也の拳が未萌奈の腹部を抉り貫く。


「余りにチョロすぎだ。拍子抜けなんてレベルじゃない」


 次の瞬間。未萌奈の全身が無数の漆黒の鴉へ代わり離散直後再び集約。再び未萌奈の姿へ戻り急襲。未萌奈の黒鴉が謙也の心臓を掠め貫く。


「残念。このまま顔面殴り潰されるか握り潰されるかどっちがいい?」


「どっちもお断りよ!!」


「っ!?」


 未萌奈の後部から突如顕現された漆黒の片翼が未萌奈と謙也を包み込む。

 包まれた空間の先に謙也を待っていたのは完全なる暗黒。目に映るのは自分を飲み込まんとするほどの圧倒的暗黒。

 街ゆく人の声風の音その他諸々の感覚から切り離されたこの空間において謙也は五感全てを未萌奈に奪われていた。


闇夜失闇あんやしつえん


 未萌奈の想力の大多数を敵に一気に注ぎ込む事で可能とする未萌奈の奥の手。

 自らの脳内で創造する仮装戦闘用空間のイメージを対象に無理やり押し付け強制させる事で現実空間から未萌奈の脳内イメージ空間である闇夜失闇あんやしつえんへ移行する。


(一か八かだったけど上手く引っ張り込めた……鴉散うさんからのこれは想力消費が半端じゃ無い。一撃一撃の威力がどうしても弱くなるけどこうするしかなかった)


 謙也からやや距離をとった位置に未萌奈は身構えているが謙也からは未萌奈の姿は見えていない。

 同じ空間にいるのかどうかさえ現状把握できないでいる。


 (仮想空間ってやつか?はたまた幻術系の類か……まぁどっちかだな。しかし何も聞こえねぇし感じねぇから動きようがねぇ。相手の出方を待つしか無いか)


 想力は時間経過と共に徐々に緩やかに取り戻していく。

 その結果どうしても謙也にとどめの一撃を加えるのは後半になってしまう。だが闇夜失闇の持続時間も限られている。


 (闇夜失闇の持続時間は約3分。この間散り積もでダメージを与えていきつつギリギリまで溜めた上でトドメを指す必要がある。

 尚且つあいつがこの空間に慣れるまでに仕留めないと捉われかねない。かなりギャンプル性が高い……けどやるしか無い!!)


 未萌奈は高速の剣撃で謙也へ斬りかかる。謙也は回避、反撃を試みるも感じるのは僅かな痛みのみで未萌奈を捉える事が出来ない。


 (刃が浅いな……なるほど。てめぇの想力も大技の連発ですっからかんって訳だ)


「はっはぁ!!いいぜ地雷女ぁ!!ようやく殺し甲斐が出てきたってもんだ!!」


 ――――――――――

一方 偶像空間内 輝世達樹side


「ぐぁっ!!」


 自らのアイドル因子による蹴りが顔面側部へ直撃し蹴り飛ばされる。


「どうしたんですか?まだまだこの程度じゃ終われませんよ!」


「……一つ聞いていいか?」


「?なんですか?」


「瑠璃華ちゃんは雷。優菜ちゃんは炎だとか固有の能力があったろ。

 君にもあるもんだと仮定して今の所それを使ってるように見えない。本気でぶつかり合うってんなら遠慮なく出してきて欲しい」


「それは……えっと……なんて言うか……」


 彼女は困り顔で露骨に返答に困り果てる。

 上手い解答が見つからなかったので正直に白状する事にする。


「わからないんです。何処となく記憶とイメージがボヤけてる感覚って言うか……ふんわりとは思い出せるんですけど」


「……!!」


 ――――――――――

 時は遡り数日前。

 アイドル因子の力を引き出せない事に焦りを感じていた達樹は同期メンバーであり若干後輩でもある市導光也へアドバイスを欲していた。


「アイドル因子の力の引き出し方ぁ?」


「そう!あのデカブツとやり合ってた時だって戻って来たら比べ物になんねぇくらい強くなってたし、武器も変わってたり雷出せるようになってたり……あれどうやったんだよ」


「どうやったっていうか……あの時は俺も必死だったしな。ただ俺もやんなきゃなって思っただけだ。後は利害の一致って奴かもな」


「利害の一致……」


「俺が戦う決意をした時にすっと朧げだった本来の能力が思い出せて現出出来るようになったらしいぜ。葬刀も雷の力よ」


 …………………………


 思い返すと光也が初めて戦っていた時から汚穢との戦闘に至るまで光也に宿るアイドル因子の力は不十分な形でしか顕現されていなかった。

 完全顕現しているにも関わらず低級の憎愚に手こずっていたのが何よりの証拠。

 光也と瑠璃華はお互いの願い信じる信念を尊重し合った事で彼女自身の力を引き出すに至った。


 (あの子はもっと強い。俺があの子の力を押さえ込んじまってる……だったら今俺がやらなきゃいけねぇのは一つだけだ)


 シュッ


 ドゴォォ!!!


「っ!?」


 彼女に向けて達樹は瞬時に間合いを詰め渾身のボディーブローを繰り出し彼女は掌で受け止める。


「一気に重たくなりましたね……!」


「あぁ……悪りぃな。後ほんの少しだけ付き合ってくれ!」


 ―――― to be continued ――――

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