第32話「暴力こそ真の愛!未萌奈vs謙也」


 暗夜に包まれる中、未萌奈は何度か物理攻撃を受けるも些細なダメージ量で抑えきり、黒鴉に想力を注ぎ研ぎ澄ました刃で容赦なく謙也へ斬りかかる。

 謙也は特に武装も無い剥き出しの片腕で刃を受け止めようとする。

 黒鴉の刃は力のぶつかり合いに勝利し謙也の右腕が切り落とされる。


「おっと」


 片腕を落とされたにしては軽すぎるリアクション。

 未萌奈は違和感を覚えるが絶えず斬撃を加えていく。

 飛び散る血液。常人であれば間違いなく死亡する程の出血量とダメージを負っている。

 にも関わらず謙也のリアクションは負っているダメージと釣り合っていない。

 未萌奈は反撃の予兆を感じ取り謙也から距離を取る。


(手応えがない……それに敢えて攻撃を受けてる?……それに悦にでも浸ってるようにも感じる……)


「5年前」


「……?」


「俺は死ぬ直前、繋がりがバレてアイドルをクビになったんだよな。

 結構ファンなり同業と派手にヤリまくってたもんで別事務所に転生しようにも悪評と炎上が過激すぎて無理だった。

 挙げ句の果てに当時付き合ってた地下アイドル女に刺され、そのまま海に突き落とされて溺死。

 今頃俺の本来の肉体は魚の餌にでもなってんだろう」


 謙也は大量の出血をしてるにも関わらず切り刻まれた肉体を俊敏に動かし大きく飛翔。街灯の上に座り込む。


「流石に死んだと思ったよ?だが目が覚めると俺は無の空間にいた。

 この世界とは隔離された亜空間とでも言うべきか、肉体こそありはしないが意識だけは存在していた。魂のような状態に近いかもなぁ」


「そして誰かがこう言った。君はまだこの世界に必要だと。君を欲する人間が大勢いると。だから力を与えてあげると。

 最初は訳がわからなかったが、俺の肉体は徐々に少しずつ蘇り力が漲って行くのを感じた!同時に俺を求める女共の声も嫌になる程聞こえてくるようになった……!」


 気分が高揚し語り続ける謙也だったが気付けば傷口は完全に塞がり腕も再生してしまっていた。

 未萌奈は舌打ちの後、表情が険しくなり刀を強く握り直す。

 

「俺の実態は掲示板なりSNSで拡散されてファンの奴らは裏で俺が何してたかは知ってるんだよ絶対に。

 俺が好きなのはお前だけ、お前だけは特別的な虚言も全部バレた。俺は大半の女から見捨てられるもんだと思ったんだ」

 

「だが実際はどうだ?女共は俺を見捨てるどころか口では切っただの未練はないだの言いつつも心の底では俺を求めていた!俺を懇願する女共の心内がずーーーっと頭の中に響き渡ってた!この5年間ずっとな!!」


「……これが何を意味するか、わかるか?」


「……わかりたくないな」


「俺はこの世に蘇るべくして蘇った!この世の女共全てを俺の手で虐待し殺すためにな!!」


 瞬間。未萌奈の眼前に現れる謙也。


(!?……速っ……!?)

 

 余りの瞬間の出来事により対応が遅れる。未萌奈の腹部に強烈な側蹴が直撃し、吐血した血が舞う。


「がはぁっ……!!」


 ドゴォォォ!!!


 女体に対しても一切の躊躇を含まない側蹴は大きく未萌奈を蹴り飛ばす。


「この力はアイドルを通しての劣情、痴情、その他諸々の負の感情が5年の年月に渡り蓄積、形成された力らしいが……俺はそうは思わない。これは彼女達からの愛情だよ」


「何を言ってんのかわかんないな……」


「彼女達はね、俺に痛めつけられたいんだよ。暴力にこそ一番愛を感じてるんだ。やめてと言いつつも彼女達の本能が暴力を求めてる。実際そうだった」


「それはあんたがそいつらに暴力を振るい続けたからでしょ……」


「いいや違う。女という生き物は自らに加虐性を求める生き物だと断定する。自分が認める、欲する雄からの苦しみ、痛みを与えられる事が快感であり、生を実感できる生き物で何よりそれを望んでいる。君だって例外じゃない」


「んなわけないでしょうが!!」


 未萌奈は怒りを抑え切ることが出来ず鬼の表情で謙也へ斬りかかる。

 謙也は軽く腕で刃を受け止めるが先ほどとは一変。今度は一滴の血すら流れない。


「……っ!?」

 (硬度が上がってる……!?刃が通らない!?)


「最初はみんな反抗してくるんだ。でも絶対的力の差をわからせてやったら後は堕ちるのは秒」


 未萌奈の右頬に裏拳が直撃。多大なダメージの前に受け身すら取れず悶える。


「ほらほらどうしたぁ!!」

 

 その隙を見逃さず怒涛の連撃を叩き込み未萌奈は再度蹴り飛ばされる。

 未萌奈の幻装が解ける。尋常で無いダメージに立ち上がれず倒れ込んでしまう。


「く……はぁ……っ」


「勝負ありかな。もう動けないでしょ」


 未萌奈は奮起し再び立ちあがろうとするが意識に反して肉体が言う事を聞いてくれない。


 (クソ……っ!!身体に力が入んない……!!悔しいムカつく今すぐ殺してやりたい……!!こんなクズは殺さないと行けない……!!絶対に!!)


「う〜〜んアザだらけ傷だらけ血だらけの女の子ってなんでこんなに唆られるんだろう!君さっきよりも可愛くなったよ?本当に好きになっちゃった」


「思っても無い事一々ほざくな……胸糞悪い」


「つれないなぁ。まだ殴られたり無い?さっさと堕ちて俺の物になってよ。早く自分はか弱い女の子だって自覚して俺の物になろうよ」


 しゃがみ込み笑顔で意気揚々と語りかけてくる謙也へ未萌奈は最後の力を振り絞り唾を吐きかける。その反抗する未萌奈に対し唖然とする謙也。


「私はあんたみたいなゴミ男をバカみたいに祭り立てるような女がクソほど嫌いだし……王様気取りで偉そうに女を見下してくるカス男がこの世で一番嫌いなの。わかったらその汚ったない顔面遠ざけろブス」


「……そっか。君とはもう少し楽しみたかったけど、そんなに今すぐ死にたいなら、このまま顔面踏み潰してやるよ!!」


 謙也から微笑みが消え失せ、未萌奈の頭上に謙也の足が踏み潰さんと迫る。


 (ここまでか……ごめんさゆ。私、結局何にも成し遂げれなかった)


 ドゴォォォ!!!


 未萌奈が死を覚悟した直後。謙也は怒りと激情が込められた飛び回し蹴りを顔面にくらい蹴り飛ばされる。

 未萌奈の窮地に現れたのはサイドテールを風に靡かせ、拳には憤怒の力を込め謙也を睨みつける達樹であった。


「あんた……なんで……」


 未萌奈とは知り合って数日、行動を共にした時間はわずか数時間。それほど仲が良い訳でもない。

 だが達樹の脳内に渦巻くのはひたすら込み上げてくる怒りと憎悪。自らでは到底考えられない卑劣かつ残虐非道な行いに達樹は怒りを爆発させていた。


「未萌奈は下がってろ……あいつは俺が完膚なきまでにぶっ殺す」


「やれやれ……男には興味ないんだけどなぁ」


 ――――to be continued――――

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