第30話「犯人は死者!?連続殺人事件を追え!」

2023年 5月31日 


 翌日。卓夫は疲労困憊の姿で学校へ来ていた。足腰が史上最強に限界突破しているらしくその日の体育は見学。

 他の授業も心ここに在らずといった形で常時爆睡していた。

 話しかけてもリアクションが薄く、今日だけはそっとしといて欲しいとの事だった。


「卓夫君どうしたの?疲れてるなんてレベルじゃ無さそうだけど」


 心配した莉乃が達樹へ何事かと質問する。


「さ、さぁ?いよいよダイエットでも始めたんじゃねぇか?はは……」


 推しのスキャンダルや不祥事によりショックで落ち込む姿はよく見る光景だったが今日の脱力具合は普段のそれとは異なる事はクラスの全員が察していた。

 ただ溢れ出るそこには触れるなと言う圧から達樹以外誰も触れれずにいた。

 

 休み時間は必死に推しアイドルの動画を見る事で心頭滅却し今後の地獄のようや特訓に向けて心持を高く持つ努力をしていた。


 ――――――――――

同日 Delight 社長室 17:00分


 放課後。卓夫編達と別れた達樹は一人下國昇斗に呼び出され社長室を訪れる。


「久しぶりだね。輝世達樹君。調子はどうかな?」


「まぁ……ぼちぼちですかね」


「そう暗い表情は君には似合わないよ。男ならもっとシャキッとしないと」


 昇斗から喝を入れられた直後。目の前に複数の写真が並べられる。

 そこに写されていたのは複数の女性の凄惨に血塗られた死体。年齢は見てくれから察するに10代前半から30代。それらは撲殺や刺殺と言った人間でも可能な方法で殺害されている。

 

「な、何ですかこれ……」


「最近立て続けに起きてる連続殺人事件の被害者達だよ。犯人は今も逃走中。名前は金塚謙也24歳。今回の君の任務はこの男が次に狙うターゲット候補の護衛及びこの男の抹殺」


 男は派手髪。ありとあらゆる場所にピアスを開けており、所謂ビジュアル系の見た目をしていた。メイクで彩った顔に反して溢れんばかりの狂気も感じる。


「ちょ、ちょっと待てよ!抹殺って……こいつ人間なんだろ?だったら警察の仕事なんじゃねぇのか?」


「本来ならそうなるけどそれぞれの死体からは憎力が確認された。そうなって来ると請負元はこちらになってくる」


「憎愚が殺ったとして……変じゃねぇか?憎愚は食欲を満たす為に人を殺すって言ってたぞ」


「そう。だから死体がこうも人の形をして残っていると言うのはおかしな話な訳だ。そして何よりも不可解なのは、金塚謙也……彼は5年前に殺されている」


「ど、どういう事だよそれ!」


「わからない。彼は元々は地下アイドルをしていて結構人気だったみたいでね。でもその裏では次から次にファンの子を始め気に入った女の子達を食いまくってたらしい。

 その実態がバレて事務所からは当然解雇。最後は逆恨みして激情したファンに殺されたって訳」


「とんでもねぇな……なんか……」


「死人が絡んでる以上憎愚絡みである事は間違いない。

 狙われてるのは金塚謙也のファン達。現状の共通点としては彼に恋心を抱いていた……今風に言えばガチ恋客ってところかな。

 現状の最有力候補はこの山田京子。未成年ながらもあまり世間的にはよろしくない稼ぎ方をして貢いでたらしいよ」


 差し出された顔写真を見る。年齢は20歳。少し太めの体格でゴスロリ服に身を包み目元は真っ赤なアイメイク。展開的な地雷系女子であった。


 「彼女とコンタクトを取り、護衛をしつつターゲットが現れたら撃破……って事で健闘を祈るよ。輝世達樹君。あ、後今回は可愛い相方を用意してあげてるから仲良くしてあげてね」


「え?お、おう!わかりました!」


 集合場所を聞いた達樹は善は急げと社長室を飛び出していく。


――――――――――

 同日 新宿 17時05分


「ここのはずだけど……」


 夕方の新宿。歌舞伎町と呼ばれるこの場所は日が暮れ始めたこの時間から徐々に活気が出て来る。


 (可愛い相方ってしか聞いてないんだよな……)


 可愛いと言う響きに引っ張られつい女の子を想像していたがよくよく考えると奏者=男。最悪男の娘が来る事を想定しながら待っていた後。遠方にやたらと男に囲まれながらもこちらへ歩いて来る少女が一人。


「お姉さんめっちゃ可愛い!君なら絶対稼げるよ!いい仕事あるんだけどどう?」

「お姉さん暇?初回いかがっすか?」

「今からどこ行くの?出勤?この後予定ある?」

 

 やたらしつこくキャッチに絡まれる中一切の興味を示さず無表情のままこちらへ向かってくる白装束の地雷風の女。その顔には見覚えがあった。

 待ち人がいたことを察してキャッチ達は離れていく。


「あんたが輝世達樹?」


「あ、あぁ。あんたが社長の言ってた今回の相方か?」

 

「…………」


 少女は不満げな表情で達樹を見つめる。余りにも顔に出過ぎている事から達樹は沈黙に耐えきれなくなる。


「えっと……どうした?」


「なんかアホっぽいなって思って」


「は、はぁ!?アホじゃねぇよ!!」


 咄嗟に否定してしまったがおそらく少なくとも学力面に関しては自分はアホに分類される人間である可能性が高いのではと頭を過ぎる。

 声高に否定してしまった事もアホさに拍車をかけてしまっているが少女は一つため息をついて呆れながらも続ける。


「三竹未萌奈。17歳。足だけは引っ張んないでね」


「……あぁ。肝に銘じといてやるよ」


 額に皺が寄る達樹だが未萌奈は気にも止めない。

 刺々しい言動と素っ気のなさに若干の不信感を抱きつつも仕事だと割り切り達樹と未萌奈は護衛対象と接触するべく足を進め始める。

 ――――――――――

 同日 Delight 本館 グラウンド


「はあああぁぁぁぁ!!バーニングボンバアアアァァァァ!!」


 光也、隼人の二人は最愛恋に見守られる中、完全顕現化状態での戦闘訓練を行っていた。

 二人の肉体はそれぞれが宿るアイドル因子の少女へ変化している。


 隼人の中に宿るアイドル。灯野優菜の業炎を宿しながら拳が力強く瑠璃華に向けて繰り出される。

 だがその直線的、単純とも言える攻撃は瑠璃華にいとも簡単に避けられる。


「あれっ!?」


「だから直線的すぎんのよあんたは」


「……っ!」


 瑠璃華が瞬時に優菜の真横まで移動し雷を宿した回し蹴りがクリーンヒット。

 優菜はそのまま蹴り飛ばされ完全顕現が解けたことで試合は終了し両者完全顕現を解く。


「今のでハッキリしたよ。幻身した上での戦闘は隼人の方が強い。でも完全顕現での戦闘になると光也に群杯が上がるって感じかな」


 恋の分析によると幻身での戦いは戦況によって多種多様に手数を考えてマルチな戦いが出来る隼人の方が強い。

 一方完全顕現での戦闘になると火力は優菜が優れているが、相手の動きを分析した上で冷静に立ち回りここぞと言うときに火力を上げて燃費良く立ち回れる瑠璃華の方が勝るという結果に落ち着いた。


「そもそもこの完全顕現ってなんか意味あんのか?この前は俺が幻身出来なかったから頼らざるをえなかったが……普段の状態で特に不自由してねぇんだけど」


「俺達がメインで使う幻身は自分の力のイメージとアイドル自身が持つ能力とを掛け合わせた上で両者に適した形で戦う状態。この状態を微顕現と言う。

 完全顕現はアイドル自体をこの世に顕現させる事でアイドル因子の力を200%引き出す事ができる」


「じゃあ完全顕現の方が強いって事ですか?」


 隼人は疑問をぶつける。


「そう言うわけでも無い。完全顕現は彼女達の戦闘センスに委ねる事になる。

 場数を踏むなりして洗練された状態で扱わないと心臓を曝け出して戦ってるのと変わらないよ。

 アイドル因子自体が破壊される事は何より避けないといけないし、強力なのは確かだけどリスクが大きすぎるんだよね。それに女の子に任せっきりっていうのも嫌でしょ」


「まぁ要はどっちも磨き上げてかなきゃダメだって事だな」


「そゆこと♪」


 アイドル因子についての理解が深まった二人だが心配事が頭を過ぎる。

 二人の脳裏に浮かんでいる内容は同じであった。その表情を汲み取り恋は口を開く。


「達樹の件は僕よりもずーっと先輩の人にも見てもらってるから心配いらないよ」


「そうか。ならいいけどよ」


 心配事が和らいだ事で光也の表情が柔らかくなる。


「えぇ?なにぃ?心配してあげてるのぉ?男のツンデレはきしょいんだよぉ?」


「別に心配なんかしてねぇよ!その喋り方のがきしょいんだよボケ!!」


「ただ気掛かりなのは確かです。なんであいつだけアイドル因子の力が引き出せないのか……」


「まぁ達樹ならきっと答えを自分で見つけ出すよ。今は自分の事に集中しようか。

第二ラウンドは俺も手伝ってやる。まぁ相手するのは俺じゃ無いけど」


 そう言うと恋の姿は一瞬にしてセミロングヘアのギャルへと成り変わり、東城明日香へ完全顕現する。

 明日加は両者へ再度完全顕現するよう促し両者再び桐咲瑠璃華、灯野優菜に姿を変える。


「二人とも可愛い♪ワクワクして来ちゃった。遠慮なく全力で来てね?」


「格上感出してくれちゃってムカつくわね……目に物見せてやるわ!」


「いざ!全力勝負です!!」


 再びグラウンドに衝撃が鳴り響く。

 三人のアイドル達の激突し強者とぶつかり合う事で二人の力はより磨き上げられていくのであった。


 一方達樹と未萌奈は護衛対象である山田京子と合流していた。


―――― to be continued――――

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