第15話「襲撃・圧倒的格上」

3行でわかる!前回のぐじへん

 最後の望みとして瑠璃華が初めてアイドルとしてステージに立った場所へ向かう達樹達。だが突如として憎愚が現れてしまい憎愚の行先は光也の母親が入院する病院だった。


 …………………………

 突然の緊急事態に施設から急いで外へ出る。憎愚は猛スピードで病院へと向かっており呑気にタクシーや電車に乗ってる暇はなさそうだ。


「一刻を要する。お前ら幻身げんしんしろ!」


「げ、幻身ってなに!?」


「いつもやってるあれだよ!髪の毛生えてくるやつ!!」


 わかりやすい説明のおかげで意図を理解した。この前は何故か出来なかったが俺達は昨晩で俺とサイテちゃん(名前がわからないから一旦こう呼ぶ)はだいぶ打ち解けあったはずだ。絶対にできる。そう思い込み自分の中のアイドルのイメージを想像し創造する。


「はあぁぁぁ!!!」


 内に宿るアイドル因子を引き出し現世へと顕現させる。頭部にはサイドテールが、心内には熱く沸る闘志と力が宿る。

 隼人にも同等に隼人に宿るアイドル因子。灯野優菜の力を現出しポニーテールが現れる。

 光也は元々瑠璃華を顕現かせていたのでそのままである。


「今度こそるりに任せて協力しなさいよ。あんたがやる気なかったらこっちも上手く動けないんだから」

『……わかってるよ』


「このまま一気に病院まで空を駆けていく。アニメとかでよくやってるだろ。あれをイメージしたらいい」

『少しでもイメージが保てないと着地時にぐちゃって死ぬので十分に気をつけてください!』


「まじかよ!!?」

『大丈夫です達樹さん!飛んでるところをイメージしたらいけちゃいますよ多分っ!』

「多分で命張れないんですけど!?」


 今からしようとしてる行動は一歩間違えればワンチャン死ぬ。だがしのごの言ってる暇はない。臆する気持ちを抑え込み俺、隼人、瑠璃華(in光也)は空を地のように模して駆ける。そのイメージで都立総合病院へ急いで向かう。

 アイドル因子の力を顕現させている状態だと一般人からは視認されないので何も気にする事なく移動できる。

 このまま順調にいけば5分もあれば到着できるはず。


「いいか二人とも。今回の憎愚は今まで戦ってきた憎愚よりも遥かに強い!おそらく中級。対してこっちの布陣はまともに力を扱えてないぺーぺー二人とそれに毛が生えた程度の俺!冷静に見て勝ち目は薄い。無理に倒そうとは思うな!」


 戦略的撤退も視野に入れて動くべき……瑠璃華ちゃんも戦力差を理解した上で状況分析できるタイプだと思う。後は俺がヘマしなきゃ最悪増援が来るまでの時間稼ぎくらいは出来るはずだ。

 以前最愛恋さんから聞いた話を思い出す。


 ――――――――――


「憎愚には段階があってね。低級、中級、上級、そこらに乱雑に現れるまともな言語を話さない大した身的特徴が特にないのは低級。この世の憎愚の大半はこれ。でもその中でごく稀に覚醒する個体があってね。それが中級憎愚になり更に覚醒した上で上級へ進化する」


「中級の憎愚はそれぞれに固有の能力が宿る。実力も低級とは段違い。瞬殺される可能性も出てくる。今の達樹の段階なら攻撃が効かなかった時点で逃げるが吉かな」


 ――――――――――


 憎愚の気配も徐々に近くなっていく。病院で待ち構え迎撃する計画だったが急遽変更する。


「恐らく向こうは俺たちに気付いてない。敵の姿が見えたら俺が奇襲をかけて戦闘に入る。二人は様子見した上で援護してくれ」


 わかった!……そう意気込んだ次の瞬間。


「やっ♪」


 俺の眼前に瞬く間に不敵な笑みを浮かべて現れたのは銀髪ロングヘアを靡かせる男。衣服に纏われていない身体の箇所には無数の傷跡があり見てくれは人の形をしているが上記の情報がそれを人として捉えない。何よりここは空中。そこから連想される答えは……


「隼人!!後ろ憎愚だ!!」


「っ!?」


ドゴォォォ!!!


 隼人の死角に一瞬にして現れた銀髪の男は両拳思い切りを振り切る。隼人は勢いよく地面へと叩きつけられる。


「隼人!!」


 俺と瑠璃華は即座に身構える。この銀髪から漂ってくる圧が半端じゃないからだ。俺達が追っていた中級の憎愚なんか霞んじまうくらいこいつの方がダントツで強い。文字通りレベルが違う。構えはしてるがこっからどうすりゃいいんだよ……!


「怯えないでいいよ。僕はちょっとあっちのポニーテールくんと遊びたいだけだからさ。君達はそのまま病院に向かった方がいいと思うな。君の母親が食い殺されたくなかったらね」


『なにっ!?』


 狙いは光也の母親だったのか!?最悪の事態になっちまった。しかも今は美乃梨ちゃんもいる。光也の心中も穏やかじゃないだろう。瑠璃華ちゃん越しでも不安な心情が伝わってくる。


「達樹!!光也!!お前らはそのまま病院へ向かえ!!こいつは俺がなんとかする!」


「……で、でも……」


 バカ言ってんじゃねぇ。中級で太刀打ちできるかって話を今してたんだぞ。こいつは明らかに俺達が追ってた中級よりも遥かに格上。間違いなく上級憎愚に分類されるやつだ。中級憎愚にだって相性次第で最悪瞬殺されるのが現状の俺たち。それを一人で受け持つ事は何を意味するか。考えなくてもわかる。


「心配すんな。なんとかしてみせる。当初の作戦と変わって申し訳ないけどお前たち二人であっちは迎え撃ってくれ」


 隼人の言う通り俺達が加勢したところで何ができるとも思えない。そうこうしてる間にも中級憎愚は病院へ移動を続けている。止まっている暇は俺達にはなかった。


「絶対死ぬなよ!隼人!!」


 俺達はこの場を離れて病院へと再度向かい始める。


「僕の名前は負薄ふはく。実を言うと殺す気はないんだ。でも君が弱すぎたらうっかり殺しちゃうかも♪だから、気をつけてね」


「ご忠告どうもありがとう」


 呼吸を整える。深く深呼吸した後。隼人は両拳、両脚に炎を想起し豪炎を纏わせる。

 身が引き締まる思い。ここまで死を実感したのは人生で初めてだった。今後これ程の脅威が起こりうるなんて考えつかないほどの緊迫感が隼人を制していた。


「やる気みたいで安心したよ。それじゃあ早速始めようか。楠原隼人君」


 負薄の両拳にも禍々しい紫炎が宿る。次の瞬間にはお互いの拳は混じり合い拮抗し、上級憎愚負薄と新人奏者隼人による死闘が幕を開けた。

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