第13話「どうしようもない事」
3行でわかる!これまでのぐじへん
光也の中に宿るアイドル因子。桐咲瑠璃華の戦う意志とは相反して市導光也は戦いを拒む。事情を聞くと光也には母親に命を張って守ってもらった過去があった。
……………………………………………………
あれから話が終わり光也は眠りについた。あんな話聞かされて素直に寝付けるわけもなく悶々としながら夜が老けていっている。
母親は今も闘病中で命に別状はなくお見舞いに行く際には今までと変わらない優しい母親であると光也は言う。美乃梨からもとやかく責められた過去はないとも言っていた。
「人間思ってること全て口にするわけじゃない。出してないだけで心のどこかでお袋からも美乃梨からも恨まれてるんじゃないかってつい考えちまう。そんなやつじゃないって言い聞かせようとしても俺の過去の過ちがそれを否定してくる」
「俺はお袋が命懸けで守ってくれたこの命を無碍にしたくはない。臆病だの女々しいだの言われようが俺は生きたい。生きてお袋と美乃梨を見守る。それが俺の報いだ」
……寝付く前に光也が言ってた事だ。ちゃんとあった。前線に頑なに出たがらない不器用な光也なりの理由が。
だがこのままじゃ瑠璃華ちゃんが……
「瑠璃華ちゃんは元いた世界に帰りたいだけなんだ……なのにこのまま消えるかもしれないなんてそんなの納得いかねぇ……!」
『口に出てるわよ。あんた』
「おぉう!?」
完全に寝ている光也からどこからともなく瑠璃華ちゃんの声が聞こえてくる。
昼間のと違って会話するためだけに意識が表に出て来てる状態って言うべきか。身体を通してスピーカーみたいな感覚で聞こえて来てる。
後声は聞こえるのに体の主はぴくりとも動いてないから若干怖い。こっち向いてすらないし。
『あんたバカでお人よしでしょ。普通初対面の人間の事でそんなに感情剥き出しにして悩まないわよ』
「だって……瑠璃華ちゃんは悪くないだろ。むしろ憎愚を倒そうってんだから良いやつだ。良いやつなのに、何も悪いことしてないのに消えなきゃ行けないなんて……そんなのは間違ってる」
『るりだってそう思うわよ。でもあんな話聞かされて自分のわがまま通すほど人間性終わってもないの』
「それって……」
瑠璃華の言いたい事。しようとしてる事は容易に想像がついた。それは瑠璃華自身が甘んじることで光也から身を引く、所謂自己犠牲を意味していた。
『消えるって決まってるわけじゃないんでしょ?金髪が言ってたみたいにどこかの誰かの人間に宿るかもしれない……頭のネジ外れまくってるイカれた奴だとありがたいわね』
「消えるかも……死ぬかもしれねぇんだぞ!!」
真夜中だと言うことを忘れてつい声を荒げてしまった。しまったと思い口に手を当てる。
『……裏を返せば消えないかもしれないでしょ。ポジティブに考えなさい。るりはそっちの可能性に賭ける事にしただけ」 』
「でも……」
『でもなによ。他に解決策ある?』
ハッキリ言ってない。光也の考えも瑠璃華ちゃんの意思もどっちも尊ぶべきものだ。蔑ろにしていいもんじゃない。
だが何もしてやれる事が思い浮かばない。自分の無力さを痛感する。
『金髪に連絡しといて。るりはこの男から出ていく事にしたって。じゃあそゆことで』
「ちょっ!待てよ!」
瑠璃華の意識が光也の内へと完全に引っ込む。こちらの呼びかけにも反応しない。
「くっ……」
どうしようもない現実に打ちひしがれる。こういうのを究極の二択って言うのかもな。実際自分の身に振りかかって来たらここまで苦悩するもんなのか。
俺に出来ることなんて寝転びながらただ天井を見つめるくらいだ。
大切な人達を憎愚から守るために奏者になった。
光也も瑠璃華ちゃんも出会ってまだ1日も経ってない。
でも二人ともいなくなって良いような、消えてなんとも思わないような人間じゃ決してないんだ。だからこそこんなにも苦しい。
『達樹さん!』
俺の中のアイドル因子ちゃんが話しかけて来た。
さっき出て来たかと思ったら一行に喋らないから引っ込んだのかと思ってたがちゃんと聞いていたらしい。
『イメージしてください!私のこと!』
「そんな事いきなり言われてもどうすりゃいいんだよ」
『想像してください!私のこと。目の前に私がいるって思い込んで、ぐーーって想像を膨らませてください!』
相変わらず説明が大雑把なんだよ。言われた通りにやってみる事にする。目を閉じて具体的にイメージする。彼女がいる世界、空間を想像し創造する。すると
「良くできました!ハナマルですっ!ちょっとずつ成長してますねっ!」
目を閉じてるはずなのに視界は良好。これまた慣れない感覚だが目の前にはどこまでも真っ白で何もない空間と俺の中のアイドル因子であるサイドテールが似合う元気でアホっぽい女の子の姿があった。
「えっと……ここは?」
「言うなれば達樹さんの心の中!私と話すための空間!夢の中で話してたような感じで思ってくれたら良いと思います」
「なるほど、で……来たのはいいけどなにすんの?」
「それはですね……」
そう言うと少女はひらりと爪先立ちで一回りする。すると瞬時にして際どい丈のミニスカメイド服姿へとフォームチェンジした。
「えぇっ!?ちょっなに?」
動揺する俺。それをドヤ顔で見つめて来たと思いきや少女はこちらへと意気揚々と歩み寄ってくる。
「こほんっ……行きますよ!」
何が来るのかわからないのでとりあえず身構える。だが少女の披露したそれはじつに呆気ないものだった。
「べ、べつに達樹の事好きな訳じゃな、ないんだからねっ!」
「……はい?」
「あ、あれ?……じゃ、じゃあ……!」
想定していたリアクションとは違かったようで少女は困惑していた。それならと少女は続ける。
「愛情たっぷり込めてご主人様の為に作りましたっ!美味しくなぁれっ!萌え萌えキュンッ!」
「……なんもねぇけど」
「はれっ?あぁっ!?確かにそう言われてみたら!!」
静寂が訪れる。この空間には何もないが場を凍えさせる風が吹いた気がした。
「えぇっと……その、達樹さん。元気出ましたか?」
「え?」
「光也さんの話私も聞いてました。ずっと私なりに何かないかって考えてたんですけど全然思いつかなくて、そしたら達樹さんもいっぱいいっぱいになってて、どうしようって思って……」
少女は必死に語りかけてくる。その姿はひたらすらに俺を気遣うようだった。
「今私に出来る事は達樹さんを少しだけでも元気にすることかなって思ったんです!それで私なりに男の人が喜びそうな事を考えてやってみたんですけど……下手っぴでしたよね……?」
少女は俺の中でずっと光也の話を聞いていた。何回も話して来たからわかる。
この子は他人の為に尽くせる、人を思いやる事のできる優しい女の子だ。
そんな子をどうやら俺は心配させちまってたみたいだ。
心が安らぎ俺はぽんと少女の頭に手のひらを乗せる。
「元気出た。心がなんて言うか暖かくなった。ありがとう」
「えへへ♪それなら良かったです!」
元気に健やかに笑う彼女を見て俺も元気が出て来た。俺は一人じゃないと再認識した。
「ありがとう。俺、諦めねぇ。絶対何か良い方法があるはずだ」
「その意気です!一緒に考えましょう!」
こうして俺たちの作戦会議は始まった。それからかなりの時間が経過した。ここに時計はないので具体的な時間経過はわからないが6時間くらいは経った気がする。だが残念ながら進捗は0だった。
「……何もわかんねぇ……ってかくっそ疲れて来た……」
「めちゃくちゃ集中しましたもんね……私ももう頭がパンクしちゃいそうです〜〜」
そうこうしてるいると徐々に意識が遠のいていく。現実で起きる直前に夢が終わるなって自覚するあの感覚に近い。
少女との世界はうっすらと消えていき俺は現実世界で目を覚した。
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